【読書メモ】売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全
1.はじめに
以前から気になっていたマーケティングリサーチャー菅原大介さんの『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』読んでみました。
自分が関わるWebマーケティング業務において競合・顧客調査は必要不可欠。
調査から成功確度が高くて、KPI改善幅大きい施策が生まれることがしばしばあります。
ただ全て我流で野良リサーチャーとして動いていた為、改めてお手本を学びたく本書を手に取りました。
今回は特に興味深かった点をまとめてみようと思います。
2.なぜマーケットリサーチが必要なのか?
全てのビジネスマンには「武器としてのデータ」が必要
ここでいう「武器としてのデータ」とは、どんな商品を扱っていても、どんな環境に置かれていても、一瞬で事態を打開できる、形勢を逆転できるデータのこと。
たとえば、どうしたら売上減少に歯止めをかけられるか、どうしたらヒットにつながる企画を生み出すことができるか、どうしたらもっと多くのお客様に自社の商品を届けることができるのか、そうした困難な課題を解決するための「説得力あるデータ」のこと(まるでゲームに出てくるめっちゃ強い魔法みたいなやつ)。
マーケットリサーチにおいて大事なこと
大事なのは、お客様が「なぜ買ったのか?」「なぜ買うことをやめたのか?」という、お客様の思考パターンや行動パターンを突き止めること。
例えば毎月の営業会議や企画会議で「今月○○という目標に対して結果は△△でした、申し訳ありません。来月は今月分も巻き返します」という報告がくり返されていないでしょうか(私の会社ではよくあるかも)。
問題は、そこにお客様についての話題がないこと。
残念ながらデータの数字を、"数字"としてしか認識していないと、このような組織運営になってしまう。
本来の会議のあり方はそうではありません。内向きの謝罪ではなく、お客様に喜んでもらうために、具体的に何ができるかを討議するべき。そのためには、リサーチ力を身につける必要がある。具体的には、アンケートやインタビュー、データ分析といったスキルのことを指す。 リサーチ力を身につけてさえいれば、どんどんお客様を動かすことができる。
3.そもそもリサーチとは何か?
リサーチとは「勝てるポイント」を見つけること
商品やサービスが売れない理由は山ほど見つかるもの。そして、たいていその理由はどれももっともなもの。
「マーケティング」の定義は、いろいろな入門書を見ていると、「売れるようにすること」。すなわち「モノを売るためのしくみをつくり、成果を上げること」。
そして「リサーチ」は菅原氏の定義では「勝てるポイントを見つけること」。
「リサーチ力」があると、成功事例の収集や新規企画の立案に弾みがつく。データや方法論で成功までの道筋を可視化・言語化でき、しっかりとスタッフに浸透しやすくなるから。
リサーチャーとは、突き詰めると「お客様ニーズを把握する人」
本来的には自分の担当分野をいち早く改善したい人が、そのままリサーチを担当するのが一番理に適っている。
リサーチの仕事は、計画から報告までの時間があまりに長いと、必要性が薄まったり、最悪はそもそもの必要性がなくなったりする。早すぎず、遅すぎず、ジャストインタイムで最適なデータが必要になる。スピーディーに動くという意味でも、自分自身がやるのが一番。
企画力・分析力 =「お客様理解」 +「マーケット理解」
リサーチをするうえで大事になるスキルに、「企画力」と「分析力」。
企画力とは「何を調査するか?」を見極める力、分析力とは「どう考察するか?」を見定める力。
4.どんなビジネスでも欠かせない!4つの調査方法
前提
マーケティングリサーチャー(定量調査・定性調査の手法で市場調査を行う人)、データサイエンティスト(ビッグデータの統計解析を行う人)、デジタルマーケター(ウェブツールの運用を行う人)、UXリサーチャー(サイトやアプリの使い勝手を検証する人)などいずれの専門職種も現実には専門特化した技能だけで事足りるということはあり得ない。
大事なのは、職務でスキルの必要性を切り分けせず、現場で使うスキルの「全体」を理解すること。そこで本書では、どんなビジネスでも欠かせない4つの調査手法(調査スキル)が紹介されている。
①アンケート「ウェブアンケートツール」がアンケートの主流に
この機能は「 Googleフォーム」といい、無料で使えるウェブアンケートツール(DIYツール)の代表格。
同書では、アンケートデータをベースにしてつくるフレームワークをいくつも紹介されている。
アンケートは準備と分析に力を入れた分だけ
得られるものも大きい調査手法。
②インタビューを自社で行う時の狙い目は、2人1組のペアインタビュー
主な実施形式としては、モニターユーザー(お客様)を募り、 1人にゆっくり時間をかけて尋ねるデプスインタビュー、6~8人ほど集めてグループで話をしてもらうグループインタビューがある。
自社でインタビューを実施する時におすすめしたい形式がペアインタビュー。友人・家族・夫婦・恋人など、 2人1組で連れだって聴く形式です。
ペアインタビューには、既存の実施形式の中間的なメリットがあり、ちょうどいいサイズ感で実施できる。
③デスクリサーチデータの活用度合いを上げる事前・事後の動き
ビジネスに欠かせない 4つの調査手法、
3つめは以下の総称にあたる「デスクリサーチ」。
デスクリサーチをアンケート・インタビューと同じレベルで大切な調査手法。たとえば競合調査を行う場合。通常のリサーチャーの業務範囲では、アンケートから読み取れる競合企業の特徴をまとめられればOKです。
しかし実際のビジネスシーンでは、競合サイトの認知度・支持率がデータとしてまとまっていても、あまり動きようがありません。 そこで、デスクリサーチの出番。 競合企業の決算説明会資料を見たり、業界の有識者へキキコミを行います。
すると、認知度が高いのは積極的な広告投資方針があるからだったり、そのわりに支持率が低いのはカスタマー対応が間に合っていないことが原因だったりと、アンケートデータの「背景」がいろいろ見えてきます。
「リサーチをする」というと、すぐにアンケート・インタビューの話になりがちですが、むしろ事前・事後のデスクリサーチこそ重要で、この時にどれだけ情報収集できるかがデータの活用度合いを決める。
④フィールドワーク自分の足で稼いだ情報に勝るエビデンスなし
ビジネスに欠かせない 4つの調査手法、 4つめは「フィールドワーク」。
フィールドワークは各エリア(現場)に出向いて、商品・店舗・施設・駅・街・鉄道・生活道路などを見て回る手法です。平たくいうと「街歩き」。
こういう実感のこもった現場認識は、フィールドワークの手法ならではの情報。仮にあなたのビジネスがウェブ中心である場合でも、リアルの現場がどんな姿をしているのか、折に触れて外に出て情報収集してみることをおすすめ。
5.企画時点で一歩抜きん出る!4つの調査テーマ
①商品・サービスの満足度調査
企画力を高める調査テーマ、 1つめは「商品・サービスの満足度調査」。
商品・サービスの利用評価ではもちろん、イベント参加者アンケート、会社の従業員アンケートでも使われている、最も実施機会が多い調査テーマの1つ。
アンケート質問では、「大変満足 ~大変不満」の評価尺度の選択肢を並べ、
「自社の商品・サービスに対する評価をお選びください」と、商品・サービスの満足度合いを単一回答で尋ねます。
データを活用するシーンでは、ポジティブな回答である「大変満足」と「満足」を合わせて、「利用者満足度:○%」のような形で使用します。
商品・サービスの総合評価を尋ねる指標は「満足度」が基本。満足度は古典的な指標だからこそ、良い面がいくつもある。
まず、回答者がこの評価形式をよく理解しています。人生経験を通じて5段階なり4段階なりの尺度から選ぶことに慣れているので、「このテーマであればこう評価をつける」という概ね適切な判断が可能です。
次に、アンケートに関わる社内のメンバーもこの評価形式をよく知っているので、結果の良い・悪いの基準を直感的に理解することができます。それゆえに、サイトのページやパンフレットに記載される「満足度 ○%」が高いスコアならば、社内の誰が見ても誇りになります。
指標がメジャーだからこそ、このスムーズなイメージ伝達が可能。
②ブランドイメージ調査
認知度・利用率で負けていても、「連想イメージ」の差で勝てばいい
企画力を高める調査テーマ、 2つめは「ブランドイメージ調査」。
また、ブランドというと長期的に消費者とのあいだに関係性を紡いでいく原則から、語れる歴史が数年しかないスタートアップのサービスでは「測定にはまだ早い」あるいは「大企業ではないから」と思うかもしれません。
しかし、アーリーステージでもブランドイメージ調査は力を発揮します。
というのは、新規参入・後発参入の段階では、ライバル企業に対して認知度・利用率で圧倒的に負けています。「絶対勝てない」と嘆きながら形勢の逆転を目指していくもの。
そういう時には、「消費者から連想されているイメージ」を「自分たちに期待されている役割」として受け取り、それをうまくデータとして使って勝ちに行けば良い。
この場合、「イメージ」は評価が決している「実態」とは異なり、「自分たちのブランド・サービスがどんなポテンシャルを持っているのか」を知る手がかりになります。
イメージ調査を進める際の3つのステップ
下記を参考に設計を進めるのがオススメ。
①ベースとなる選択肢を収集する
まず、自社と同じジャンル・カテゴリ(業界・業種)の調査結果をインターネット上で探し、「品揃えが豊富」「配送が早い」のような、
消費者から評価の対象となっている項目を20個程度を目安にピックアップしていきます。これがベースとなる選択肢群です。
②自社らしさがある選択肢を追加する
次に、営業メンバー・販売メンバーからどんな軸で自社の商品・サービスが比較されているのかをヒアリングします。
現場で使われている細かいニュアンスの言葉は参考になることが多く、この中から自社らしさが感じられるものを選択肢に追加します。
③強いキーワードをマークする
最後に、他社サイト(メタタグなど)に設定されているキーワードを洗い出し、自社の業界で焦点になっている強いキーワードをマークし、選択肢表記全体を調整していきます。
競合とのイメージ比較により、「勝っているイメージ」を見つける
分析は他社データとの比較をメインに行う。アンケートの結果データは、そのままだと質問単位で個社ごとのデータ形式( A社・ B社・ C社…)になっていますが、分析では選択肢の項目ごとのデータ形式(項目 A・項目 B・項目 C…)に編集し直します。
すなわち、「配送が早い」という項目について、 A社・ B社・ C社の差異を見比べていきます。項目別に編集し直すことで、競合との差異がどれくらいあるのかが視覚的にわかりやすくなります。
こうして見ていくことで、仮にメインの項目で競合に勝てていなくても、サブの項目で勝っている要素があれば、そこが差別化を図る強力な営業材料になります。
ちなみにアウトプットのグラフタイプは、長い項目名を入れることができて、小さな差異を確認しやすい、横棒グラフがおすすめ。
③コンセプト調査
ターゲット層にコンセプトを客観的・中立的に評価してもらう手法
企画力を高める調査テーマ、 3つめは「コンセプト調査」。
「自社のコンセプトがお客様にどのように受け止められているか?」 これは企業として最も気になることのひとつ。
対象となるものが商品でもサービスでも、店舗でもサイトでも会社でも、お客様にコンセプトが理解されているか?、受け容れられているか?ということを知ることは、事業の普及にあたり欠かせません。
この疑問を解消すべく、調査会社ではよく「コンセプト調査」が行われる。
ここでいう「コンセプト」の概念は幅広く、テーマ・ビジョン・スローガン・キャッチコピー・ビジュアルアイデンティティなど、多種多様な概念が調査対象になる。
コンセプトは情緒的な面が強い分、評価者は客観的・中立的な立場であることが望ましく、それゆえにアンケート形式での評価測定が適しています。すなわち、ターゲット層にコンセプトを評価してもらい、その結果を通じてコンセプトの出来をチェックしていきます。
この調査を自在に仕掛けられると、事業全体の方向性を間違えることがなく、また、どの部分が全体に対して寄与しているのかもわかるので、企画を組み立てやすくなる。
調査方法にはいく通りかのパターンがありますが、「要素別評価」と「対比式評価」の2つを押さえておく。
④広告効果測定
実施した広告の認知状況・購買への影響度合いを尋ねる調査
従来のオーソドックスな広告効果測定についてここでは説明。
広告効果測定に出てくる「広告」とは、具体的には「 TVCM・電車広告・PRイベント」などを指す。企業が大々的に仕掛けるプロモーション・キャンペーンに対して、アンケート調査により、企画の設計(仮説強化) ~効果の測定(検証強化)を担うために実施される。
アンケート調査の中では、基本項目(認知度・理解度)に加えて、 NPS(推奨意向度)・好意度・ブランド想起・購買意向など、エンゲージメント系の指標が重視される。
調査手法自体は以前から確立されている調査テーマですが、使いどころや実施価値が高まっている調査テーマなので、本項で解説したトレンドを意識しておくと良い。
6.リアリティのあるお客様ペルソナのつくり方
ペルソナって必要?どうやって活かせばいい?
「ペルソナ」とは、商品・サービスを利用するお客様のイメージを、名前・性別・年齢・職業などの項目からプロフィールにまとめていくもの。
マーケティング・セールスの教科書本には高い確率で登場するが、ビジネスにおけるペルソナ導入は、「それ、いる?」という効果に懐疑的な企業と、「あるんだけどうまく活かせていない」という活用に苦戦している企業に分かれるような状況。まずはそれぞれのケースの問題点を整理してみる。
ペルソナが「共通のお客様イメージ」をつくる「ペルソナって必要?」 こう疑問に感じている企業では、お客様ニーズをリサーチする必要性は感じていても、わざわざペルソナという形にする必要があるか(そこまで労力をかける価値があるか)というところに疑問がある状態です。
では、そもそもペルソナはビジネスの何を解決するのでしょうか。その答えは、部署も拠点も立場も異なるそれぞれの従業員が、「共通のお客様イメージ」を持って仕事ができることにある。
想定読者の方々が手がけているサービスには、「 30代女性のための」のようなターゲット設定があると想定されます。しかし、代表的な基本属性である「性別・年代(あるいは地域)」の情報だけで、社内の誰に聞いても同じお客様イメージが返ってくるでしょうか?また、もし望んでいるイメージとユーザー層が異なる場合、それはサービスをするうえで致命的な状態。
そこで、来て欲しいお客様を呼び込むために、自分たちで「お客様ペルソナ」をつくる。社内で共通のイメージがあると、企画・開発と営業・販売の関係といった反目しがちなラインが噛み合い、商品や販促を展開する時にも、担当者の主観でのぶつかり合いを避け、全員が納得のいく議論に参加できる。
お客様ペルソナにリアリティを出す7つの項目
ペルソナづくりに「いる情報」を、 7つの項目で解説。
なぜこの 7つの項目なのかというと、次のような利点があるから。
1.お客様のリアルな志向性・生活感が出やすい
7つの項目は「お客様の生活パターン」と
「消費の思考パターン」に大きな影響を与える。
「いつ・どこで・誰と・どのような過ごし方をするのか」がわかっていると、そこに「どんな商品・情報が必要か」を推測することができるので、使えるペルソナになるのです。
2.既に一般的な共通理解があるため通じやすい
7つの項目は歴史的・文化的に積み上げられた
背景情報を持っています。
これを使用することで、バリエーション豊か、
かつ、生き生きとしたお客様像を共有することができます。
項目数が少なくても全体として成り立つのは、
こうした理由によります。
7.競合企業に強くなる!ライバル企業チェックリスト
マーケット分析は他社の公開情報だけでも十分通用する
情報の価値は、「見るべき場所」と「見方」で決まる。
本パートで紹介しているのは競合他社のウェブサイト(サービスサイト+コーポレートサイト)をひたすら見るという超古典的な手法。これならウェブ上の公開情報を参照するだけなので、すぐに着手できてコストもかからない。
①グローバルナビ
ライバル企業がどこに向かっているかを突き止める
マーケットリサーチで一番大事なことは、ライバル企業の方向性がどこに向かっているのかを突き止めること、この一点に尽きる。
コンテンツ・デザイン・ユーザビリティは後追いすることができますが、その方向性がわかっていないといけない。
下記2点が競合のサービスサイトからサービスのベクトル(方向性)を見抜く技法。
ライバル企業のチェックリスト 1つ目「グローバルナビ」
「グローバルナビ」とは、サービスサイトのトップページ上部に配置されているバーを指す。モノを扱う物販タイプなら商品カテゴリ、コトを扱うサービスタイプなら展開エリアを選ぶバーになる。
グローバルナビはトップページの中でも最も目立つ場所にあります。つまり、ここに表示される商品カテゴリ・展開エリアは、各社がキラーコンテンツとしてプッシュしたいという意思が最もよく表れる。
競合のサービスサイトのトップページを開いたら、商品カテゴリの商品点数、もしくは展開エリアの掲載件数をチェックしましょう。 その他見る際のポイントは下記。
①何で勝負しようとしているのか?
「何で勝負しようとしているか」は、商品カテゴリ・展開エリアそのもの。
ここでは、品揃えの幅の広さ =「セレクション」をチェックしましょう。
競合企業が"やる"と決めた範囲なので、そこから他社が志向している事業ドメインがわかります。
②どれくらい本気なのか?
「どれくらい本気なのか」は、商品点数・掲載件数に表れます。
分析の例示のように、他社平均に比べて突出した要素があれば、その部分において他社が目指すビジネススケールがわかります。
③どこがうまくいっていないのか?
逆に、「どこがうまくいっていないのか」は、「項目として存在していても中身が感じられない」部分から読み取れます。
営業期間が短くない中でその状態にあれば、うまくいっていない、突破口が開けていない可能性が高いのです。
ライバル企業のチェックリスト2つ目は「メタタグ」
サイトの裏側には検索エンジン向けにキーワードを登録しておく場所があります。
この場所はホンネもタテマエも一致していなくてはいけない箇所なので、ここを見ればライバル企業が真に目指しているものがわかる。
参照の仕方は簡単です。マークするサイトのトップページを開いたら、マウスを右クリックして「ページのソースを表示」コマンドを選びます。
出てきたページのソースコードの中から「メタタグ( metaname =" ○○○○")」を探します。ここがサイトのキーワードを登録しておく場所です。 メタタグにはいくつか種類がありますが、次の2つをマークしておく。
「description」と「 keywords」を見ると、登録されている業態・顧客・商品などを通じて、ライバル企業のベクトルを読み取ることができます。
③サービスイン時期
マーケットでの競争力がわかる
ライバル企業のチェックリスト、 3つめは「サービスイン時期」。
「サービスイン時期」は、 ○年○月に(商品・サービス)をスタートした、という情報です。
この情報、店舗数や会員数などに比べたら、あまりチェックする機会はないかもしれません。しいていえば、急に出てきた新興勢力の企業を確認する時くらい。
でもこの情報は、単に「古くからやっている、もしくは、新しく出てきた」という事実情報を認識するだけではありません。ライバルの「競争力」を読み解くことができるのです。 見るべきポイントは次の2つ。
①サービスが生まれた時代背景
典型的な時代背景としては、ウェブユーザーが使うメインデバイスの進化、アドテクノロジーの進化、 SNSメディアの台頭などがあります。これらの背景情報はそのままサービスの強みを理解することにつながるので、「サービスイン時期」は侮れない。
②同時期に開始した競合同期の現状
2つめは、「同時期に開始した競合同期の現状」。
同時期にスタートした同期サービスが現在どういう状態にあるのかを把握できると、業界内での競争力を推し測ることができます。大まかなパターンとしては、先行逃げ切りで現在に至る、後発ブレイクで現在に至る、老舗だが落ち目で現在に至る、などの動きがある。
④所属企業グループ成長ポテンシャルがわかる
ライバル企業のチェックリスト、 4つめは「所属企業グループ」。
サービスは規模が一定以上になると、いずれかの企業グループに所属することが多くなっています。
個社単独で伸ばせる成長率には限度がありますが、企業グループに加盟することで成長率を劇的に変えることができます。
つまり「所属企業グループ」の情報からは、サービスの「成長ポテンシャル」を読み解くことができます。「所属企業グループ」で見るべきポイントは次の5つです。
所属企業グループの構成を見ながら、グループのリソースを活用した時に生まれるエンドユーザー・企業クライアントの広がりを想像する。
グループが保有するエンドユーザー・企業クライアントの絶対数はもちろん大事ですし、ターゲット属性(コアターゲットが増える・ポテンシャルターゲットが増える)、マーケット展開(都心に出る、郊外に出る、海外に出る)、
ブランドイメージ(より強化される・新しいイメージが付く)などがどのように強化されるかを考慮に入れる。
⑤売上推移規模感と成長性がわかる
売上データは直近 ヵ年の「売上推移」をマークする。会社概要ページでは前年度実績のみの記載しかない企業も多いのですが、単年度実績だけだとどうしても「売上数値が大きい・小さい」の考察しかできません。
ですので、この情報については財務状況のページも参照してください。 3ヵ年の「売上推移」を集めることで、「規模感」と「成長性」を読み解くことができます。サービスの規模感を見る時のポイントは下記。
次に、「成長性」で見るべきポイントは次になります。
売上が前年比アップトレンドになっている企業は、素晴らしい活躍をしているといえる。増加傾向の企業の好調度合いがわかったら、好調要因の把握をします。
好調要因を調べる時は、部門別の売上構成比情報やトップメッセージなどを確認します。ひと口に好調といっても展開するすべての事業が好調な企業はまれなので、「稼ぎ頭」の部門が何であるかを突き止めていきましょう。
逆に、ダウントレンドになっている企業は、不調要因と不調度合いを把握します。不調要因を調べる時は、好調要因ほどにはエビデンスを見つけにくいものですが、直近 3ヵ年のうちどこかで対策となる施策を打ってきているはずなのでそれを見つけるようにします。
売上が横ばいの企業は、拡大意向があるかを把握します。事業を行う以上、拡大意向があるのは当たり前ですが、既に頭打ちになっていて先の展開を描けず、横ばいを維持しているケースもあります。
もし3年続けて横ばいになっているなら、さすがに自然な結果とはいえず、リソースをそこに集中していないか、生かしも殺しもしない状況になっているか等、何か自然ではない理由があると推論します。
⑥営業所リストエリア戦略がわかる
「営業所リスト」は、ぱっと見では拠点住所が並んでいるだけに見えます。
ですが、展開パターンと照らし合わせて見ると、ライバル企業の「エリア戦略」を読み解くことができます。
⑦サービスモデル×ビジネスモデル収益モデルがわかる
ここでは「決算説明会資料」から収益モデル・成長モデルを見抜く技法が紹介されている。
特に「どのように稼いでいるのか?」「これからどう伸ばしていくのか?」という、業界従事者から見て気になるトピックに正面から答えている点が見どころです。
事業構造をメインとサブに分けて把握する意味は、自社目線では同じ土俵で競合していても、競合側では意外とそうではないことがあるからです。それはたとえば、もともと海外事業が主力の外資系、有料会員サービスに強いサイト、 BtoBサービスが好調の企業などが該当します。直接競合する事業だけではなく、競合の収益源がどこかを見分けるようにしましょう。
次に、「ビジネスモデル」を確認します。
ここでいうビジネスモデルとは、「課金形態」のことを指します。物販タイプのビジネスではシンプルな売買形式となりますが、予約サイトの場合は「ストック型」と「成果報酬型」に分かれます。
・予約サイトのビジネスモデル(課金形態)
ストック型例:広告費として月額 ○万円・年間契約で ○万円
成果報酬型例:送客手数料として売上の ○%をシェア・ 1人につき ○円をシェア
ビジネスモデルを見る時は課金の基準を把握します。広告費なのか手数料なのか、売上に対してか人数に対してか、月単位か年単位か、などを見ていきます。それがマークできていると、自社にとって適正な価格を検討する良い判断材料になります。
⑧独自 KPI(重要目標達成指標)成長モデルがわかる
競合企業が何をもって差別化しようとしているかは、同じく決算説明会資料から探ることができる。着目するのは、「独自KPI」。
「KPI(key performance indicator)」とは、組織・部署・業務単位で目標として定める達成指標のことをいいます。成長に意欲的な企業の決算説明会資料では、企業独自に重視しているKPIの掲載があります。
独自KPIは、サービスモデルがまったく同じでもない限り、他社のものを真似ても無意味。つまり、売上・利益を追求する最終目標は同じでも、「何をもってユーザーから支持を得て成長していこうとするのか」は独自KPIに表れるのです。
独自KPIを通じて成長モデルがわかっていると、事業活動・投資判断の根拠がわかるようになります。
⑨ニューストピック 得意なプロモーションタイプがわかる
競合各社は概ね、「得意なプロモーションタイプ」を持っています。
テレビや交通広告でよく見る、お客様イベントをよく開催している、業界紙にやたら登場するなど、「このやり方はうまいな」と印象に残る
企業があるでしょう。しかし、その印象をそのまま放置すると、すぐに忘れてしまいます。きちんと整理して情報資産に残しておく。
そこで役立つのが「ニュースリリースページ」。公式サイトの「ニュース・お知らせ」と名の付いているページで、ここの過去トピックを一気に読み込むことで、各社の得意なプロモーションタイプがわかります。
もしそうしたイベント開催情報とその後の成果を知っていれば、自社でプロモーション施策を検討する際、その戦法が本当に有効だったのかを参照することができます。
プロモーション施策はとかく、業界のトレンドに「右に倣え」で追随しがちなのですが、他社が得意なタイプを整理できていると、「(ウチは)やる・やらない」を冷静に判断することができます。
⑩会員サービス
会員サービスで注目すべきポイントは2つあります。
1.サービスモデル
会員サービスの代表的なサービスモデルには、会費制とステージ制があります。「会費制」は有料会員を組織するモデルで、月額課金もしくは年会費を徴収してサービスを提供する形態です。
わかりやすいものとしては次のサービスを覚えておくと良いでしょう。
ユーザーの立場になれば明白ですが、月額課金にせよ年会費にせよ定期的な課金を受け入れてもらうにはかなりの魅力的なサービスが必要です。しかしそこを乗り越えて、ユーザーに喜ばれるようコンテンツを磨き上げれば、時に広告収入を上回る収入源になります。
2.特典
2つめは、「特典」。
サービスモデルが会費制にせよステージ制にせよ、行き着くところは特典の中身なので、こちらの方が実質的な施策に当たります。
割引・プレゼントをはじめとする特典の中身は企業により様々ですが、概ね右に記載したようにタイプ分類できます。
⑪求人ポジション組織力がわかる
採用ページから分かること
他社の「採用ページ」は、転職活動でもしていない限りあまり見ないかもしれませんが、このページには事業活動と同じくらい大事な「組織力・自走力」を知るヒントがあります。
組織力・自走力が備わっている企業は困難を突破する能力が高く、仮に規模や体力で劣っていても、目覚ましいスピードで躍進する資質を持っており、自社にとっての脅威となります。
採用ページの「求人情報」には、「現在このポジションを募集しています」という案内が出ています。この求人要件をあらためてライバル分析の視点で眺めてみると、競合企業の事業推進への本気度と、基礎となる組織力が手に取るようにわかります。
まず、「募集人数」からは、そのサービス・インフラへの力の入れ具合がわかります。たとえば特定分野のエンジニアの募集が出ていれば、そこに力を入れていきたいことがわかりますし、それが複数名の採用計画であればかなり本気です。
次に「採用要件」からは、そのサービス・インフラの規模感、担当スタッフの技能的なレベル感がわかります。求めているスペック・待遇・条件の基準は外からでも認識しやすいので、そのポジションがどのように評価されているかが一目瞭然です。
また「入社時期」からは、そのサービス・インフラの切迫度合いがわかります。もし何月までに決定という採用期限付きであれば、関係するプロジェクトの進行状況が推測できるかもしれません。 採用要件が細かく定義されているということは、サービス・インフラに組織的なバックアップが働いており、会社としての本気度合いがわかるわけです。
採用ページ社員インタビューから分かること:逆境カルテットで語られるヒストリー
ここからは高い目標には逆境がつきもので、それをどのようにして乗り越えたかを見ます。
カルテットとは四重奏のことで、仕事における逆境カルテットとは、「未経験・低予算・少人数・短期間」のことです。これを物差しにして、突破力を見抜きます。
世の中のインタビューでは、本人にとっては苦労した話でも、それがどの程度のものか伝わりづらいものが多々あります。しかしこの逆境カルテットを基準にすると、なるほどたしかにすごい推進力だと納得することができます。
こうした突破力の高い人材が何人もいれば驚異的な企業文化を持っていることは間違いないでしょう。
8.マーケットデータを整理・分析するフレームワーク
良いフレームワークの特性は?
①データを要領よく整理できる
膨大なリサーチデータを一枚に集約して、「ああ、要はそういうことね」と、周りから納得を引き出すことができる特性。
②対応策のアイデアの宝庫になる
1枚のフレームワークの中から、次々と改善策・打ち手を見出すことができて、「よし、これでいこう」と、事業を前進させる特性。
整理・分析に役立つフレームワーク:サービスバリューの窓
こちらのフレームワークは、「強みの発見」を目的に、SWOT分析をもっと実用的にしたフレームワーク。
まず、お客様アンケートで「(自社のサービスが)私にとっては〇〇のような存在」というフリーコメントを集めます。
質問文では、「あなたにとってこのサービスの利用体験とはどのようなものですか?」と直接尋ねるか、「『○○の目的で使い、 ○○な状態になる』のような形で自由にお書きください。」と回答文例を提示して尋ねます。
この質問の回答タイプは複数回答も考えられますが、「サービスバリューの窓」では自由回答を使いましょう。
選択肢を用意するとどうしても言葉が固定的になってしまうので、お客様の言葉・お客様の論点を知るために自由回答にします。
次に、集まったコメント内容を4つのサービスバリュー <品質・費用・スピード・イメージ >に分類していきます。それぞれ次のような観点からの評価になります(次の図を参照)。
この4つの要素はサービスの根幹を成しており、コメントを分類していくと自社の競争力の源泉がよくわかります。事業運営において軸となる強みがはっきりするので、何をウリとして打ち出していくべきか明らかになるのです。 また、SWOT分析で得る結論との違いに気づくはずです。
SWOT分析は強みの種類が多種多様であるのに対して、サービスバリューの窓は競争の軸となる観点が明らかになっていることがポイントです。 4つの窓に収まった回答の濃淡を見て、理想とのギャップを埋め合わせていきましょう。
整理・分析に役立つフレームワーク:重視度×満足度マトリクス強みを伸ばすべきか?弱みを補うべきか?
ここでは「どの強みを伸ばすべきか」や「どの弱みを補うべきか」という判断を助けるフレームワーク:「重視度 ×満足度マトリクス」が紹介されています。
まず、お客様アンケートで重視度と満足度を確認。アンケート質問では、「一般の商品・サービスの利用にあたり重視していること」「自社の商品・サービスを利用して満足していること」の 2つを尋ね、それぞれまったく同じ選択肢項目で結果を比較していきます。
結果の一次比較は折れ線グラフで行います。単純に重視度と満足度の結果を重ねてみましょう。そうすると、(業界で一般的な)お客様のニーズに対して、自社がどの程度価値を提供できているかを検証できます。
整理・分析に役立つフレームワーク:戦略スペクトルマップ
戦略スペクトルマップを使えば自社が「何屋」かひと目でわかる。
まずは事前の準備として、お客様アンケートで「自社の商品・サービスのイメージ」を集めます。
アンケートで自社の商品・サービスを代表するイメージが出揃ったら、そのうち、際立ったイメージを 2つピックアップします。
2つのイメージは必ずしも得票順に選ぶのではなく、「自社が注力しているもの」で「市場との親和性が高いもの」を選んでください。得票順に選ぶと、「価格の安さ」や「立地の良さ」といった最大公約数的なものが出てくる可能性があるので、(競争戦略にもよりますが)そこで勝負するのは避けます。
2つの際立ったイメージを選び出したら、縦軸と横軸で十字を組んだマップをつくります。軸の両極は対の関係になるようにします。
戦略スペクトルマップでポジション整理するメリット
ポジショニングとは、商品・サービスの「最適なレベル感を設定すること」。整理することで下記メリットがある。
①差別化できる市場が見つかりやすい
1つめは、軸は2つ設定することで、差別化できる市場が見つかりやすくなること。
たしかに、新規でオリジナルの立ち位置を確保するのは難しいもの。
でも、自分たちが自信を持っている項目が2つ合わさればどうか。流行り廃りが最も激しい芸能界においても、息が長い活動をしているタレントは、
2つの特徴を組み合わせて独自のポジションを築き上げている人気者が多くいます。
この「〇〇系×〇〇系」の組み合わせは、ビジネスシーンにおいても有効。
フレームワークでは、自社が評価を得たい任意の2軸を決めてプレイヤーを配置していくので、文字通りこちら側で"土俵"をつくることができます。
②自社が目指すレベル感を調整しやすい
2つめは、現存する業界のプレイヤーを軸に相対的なポジションを決定するため、自社が目指すレベル感を調整しやすいことです。
自社が注力する差別化の軸を2つ設定しても、同じ業界であれば、なお他社とかぶってしまうことはあるでしょう。ここで大事になるのが「スペクトル」です。
「スペクトル」は光の中にある色の帯のことを言いますが、すなわち、「どのレベル感でやっていくか」というグラデーションのこと。
他社の位置取りを見ながら自社のポジションを位置づけていけばいいので、スペクトル(レベル感)は誰の目にもブレない定義になる(マップ上の座標がオリジナルの立ち位置になる)。
もともとマーケティング用語としての「ポジショニング」は、ポジションを"取る"という言葉の通り、「強みを活かせる →場所を選ぶ」という意味があります。相対的な比較の中で自社の位置づけを捉えるための技術なので、共通認識がブレにくく、誰にとってもわかりやすい説明が可能になります。
整理・分析に役立つフレームワーク:360度ポジショニングマップ
カテゴリを超えた真の競合を発見するフレームワークが360度ポジショニングマップ。
お客様が自社の商品・サービスを使ううえで競合になり得るあらゆるサービスとの使い分け方をアンケートで整理します。
アンケートの質問では、各カテゴリ・各チャネルを代表するプレイヤーの名前を並べ、次のように違いや使い分け方を自由回答で尋ねます。
アンケート結果データからポジションマップを作る
結果データから、カテゴリ・チャネルごとに主だった回答をピックアップし、論点トピックに集約していきます。たとえば次のようになります。
ここからはフレームワークの図の作成に移ります。図の中心に自社のロゴを置き、環状に競合プレイヤーのロゴをぐるっと並べます。比較する競合の数は8~14社くらいにします。
少なすぎると比較できませんし、多すぎると表に収まりきらないので、比較する意味のある競合を選び出しましょう。 プレイヤーを環状に配置できたら、自社と競合の中間に「論点トピック」を配置し、両矢印マークで結びます。
そして論点トピック付近に回答結果サマリを配置します。ちょうど論点トピックを通じて自社と競合が対になるような構造になります。この作業を競合プレイヤー分続ければ、360度ポジショニングマップの完成。
論点トピックを媒介にして、「真の競合」に対する打ち手を考える
完成したフレームワークを見ると、各カテゴリ・各チャネルとの関係性が可視化されていることがわかる。
アンケートの結果自体は、おそらく頭の中では想像できていることばかりの可能性が高い。でも、両矢印で結ばれた自社の方には、どんな打ち手が揃っているでしょうか?きっと対策が必要なところに対して、何も打ち手が入っていないことがあるはず。
こうしてマップ上に可視化することで、カテゴリ・チャネルを超えて競合するプレイヤーの脅威を認識することができ、初めて対抗策を考えるきっかけが生まれる。
以上です。
引き続き勉強を続けます。
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