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まいにち短編

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1日ひとつ短編をお届けします
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#短編

【まいにち短編】#17 ビタミン剤

「このビタミン剤を毎日飲むんだよ。そうしたら、長生きできるからねえ」

祖母はそう言って朝食後に毎日
瓶に『ビタミンC配合!』とデカデカと書かれたビタミン剤を私に渡してくれていた。
実際祖母は94歳、祖父は97歳で天寿を全うした。

父と母も、そして私も欠かさずにそのビタミン剤を毎朝3錠飲んでおり、今の所大きな病気もしていない。

実家を出て一人暮らしになってからも母が定期的に送ってくれるので

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【まいにち短編】#16 オリーブを噛み締めて

【まいにち短編】#16 オリーブを噛み締めて

オリーブが美味しいと感じた瞬間、もう大人になったのだと思った。

幼い頃に父と母が家でワインを嗜んでいるときに、
おつまみで食べていたオリーブをもらって吐き出したことがあった。
それ以来オリーブは食べていなかったけれども
兄と一緒にたまたま入ったイタリアンで提供されたので仕方なしに食べたら思いの外、美味しかった。

そうか…私はもう大人になったのか…。

「オリーブってこんなに美味しかったんだね」

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【まいにち短編】#15 大きなうさぎさんと小さなうさぎさん

【まいにち短編】#15 大きなうさぎさんと小さなうさぎさん

あるところに、体の小さなうさぎさんと大きなうさぎさんがいました。

小さなうさぎさんは、手先が器用なのでお裁縫やお掃除のお手伝いをして
みんなから頼りにされていました。

大きなうさぎさんは、力が強いので重いものを運んだり木を切ったりして
みんなから頼りにしていました。

ある時、王様からお城を修復するために手伝ってくれるひとを探しているらしいという噂が村に広まりました。

小さなうさぎさんは、手

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【まいにち短編】#12 急がば回り続ける

【まいにち短編】#12 急がば回り続ける

急がば回れという言葉がある。

けれども、人間というものはどうしても急いでいるときは色々な障害を見ないことにして、突き進みたくなってしまいたくなる。
そして、後々面倒ごとを引き落こしたときに初めて自分の過ちに気づくものだ。
つまり、急いでいるときにやってくる障害こそが、本当に向き合わなければいけない、自分の問題だ。

でも、自分の問題がわからないときは…?



「はあ…」
「どうしたの?」

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【まいにち短編】#11 ぼんぼり祭の夜に

【まいにち短編】#11 ぼんぼり祭の夜に

「なあ、智恵。今日ぼんぼり祭に行かないか」
「ふえぁ?」

朝食を食べた後、突然父に声をかけられてつい声が裏返ってしまった。

父とはここ数年おはようとかおやすみとかしか最低限の挨拶しか喋っていないし、ましてや二人で出かけることなどまず無い。
しかも、よりにもよって、ぼんぼり祭か…。

ぼんぼり祭は地元の神社でお盆の時期に毎年行われるお祭りだ。
ご近所さんとか、中学の頃の同級生とかが絶対にいるので

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【まいにち短編】#10 美味なるものは…

【まいにち短編】#10 美味なるものは…

私、藤村美香はとても緊張をしていた。特に直さなくても大丈夫だろうが、つい髪を触ってしまう。
一応お気に入りのワンピースと、ちょっといいアクセサリーを着けてきた。
ちょっとはマシに見えるだろうか。

待ち合わせまであと10分ある。
誰かを待つというのは久々だった。こんな気持ちで待つことも。

振動に気付いて、スマホを取り出す。
『今、着きました。どこにいますか?』
待ち合わせ相手が到着したらしい。

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【まいにち短編】#9 桃太郎がもしモモコだったら

【まいにち短編】#9 桃太郎がもしモモコだったら

昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

(省略)

おばあさんが持ち帰った桃の中から
まるでお人形のように目がくりくりしている女の子が生まれてきました。

名前をモモコと名付けました。
おじいさんとおばあさんは、モモコに愛情をたっぷり注ぎ、それはそれは大切に育てました。



モモコはたいそう責任感と正義感の強い女性に成長しました。
ある時、村では悪い鬼の噂が広まりました。

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【まいにち短編】#6 記憶は彼方に

【まいにち短編】#6 記憶は彼方に

「あれ、夏帆?久しぶり!」

地元の本屋で買い物をしていると、突然声をかけられた。
1年ぶりの帰省だし、小さな街だからこういうことは珍しくはない。
しかし、声をかけてきた彼女の顔を見ても、「久しぶり」と言われる所以が思い当たらなかった。

誰だっけ。全然まったくこれっぽっちも思い出せない。
名前が一致しているあたり、私を私だと認識して声をかけてきているだろうから
知り合いか、友人かなのは確かだろう

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【まいにち短編】#5 俺だけが推している彼女が好きだった

【まいにち短編】#5 俺だけが推している彼女が好きだった

終業のチャイムと同時に教室を飛び出す。
つまらない1日が終わった開放感で心地が良い。

休み時間は、ずっとイヤホンで耳を塞ぐ。本を読んでいるか、寝ている。
授業はたまにサボったりするが、成績のおかげか教師たちも特に文句を言わない。
そんな、退屈な毎日。

友達なんか、いらない。
いたって、どうせ裏切るから。

結局のところ、俺のことは俺しか愛せない。
そんなくだらないことを考えながら、だらだらと毎

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【まいにち短編】#4 グッドバイ、線香花火

【まいにち短編】#4 グッドバイ、線香花火

きっと、これが人生で最後の花火になるだろう。

何故なら、花火を燃やしたときに発せられるガスの中に人体の健康を脅かす有害物質が含まれていることが新たな研究で発覚し
一斉に規制がかかった。
だから、これは人生で最後の花火で、ちょっとしたテロ行為にあたるだろう。
見つかったら逮捕されてしまうかもしれない。

「…綺麗だね。」
「うん、とても綺麗だ。」

闇夜に煌めく、赤や青の光。
隣に座る、最愛の彼女

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【まいにち短編】#3 紫陽花の誘い

【まいにち短編】#3 紫陽花の誘い

腰の痛みで目を覚ます。

時計を見ると日付がいつの間にか変わっていた。深夜25:00。
話題になっていた韓国ドラマを観ようと意気込んでいたが、冒頭30分でどうやら途中で寝てしまっていたようだ。

ネタバレにならないよう、垂れ流されていたドラマを停止すると、部屋は張り詰めたような沈黙でいっぱいになった。
1LDKの部屋は、こんな時にとても広くて怖い空間のように感じる。

明日の予定は特にない。片付け

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