【まいにち短編】#17 ビタミン剤

「このビタミン剤を毎日飲むんだよ。そうしたら、長生きできるからねえ」

祖母はそう言って朝食後に毎日
瓶に『ビタミンC配合!』とデカデカと書かれたビタミン剤を私に渡してくれていた。
実際祖母は94歳、祖父は97歳で天寿を全うした。

父と母も、そして私も欠かさずにそのビタミン剤を毎朝3錠飲んでおり、今の所大きな病気もしていない。

実家を出て一人暮らしになってからも母が定期的に送ってくれるので
そのビタミン剤を欠かさずに毎日飲み続けた。
昨日までは。

「あいたたた…」
「植村さん、どうしたの?」

仕事中急な胸の痛みに襲われて倒れ込んでしまった。

上司に許可をとって、同僚が病院に送ってくれた。
会社員4年目にして早退は初めての出来事だったので、他の人に迷惑をかけてしまった申し訳なさで余計に胸が苦しくなった。

「これは…」
「先生、私は何かの病気なのでしょうか…?」
恐る恐る聞いても医者は特に何も言ってくれず、
今すぐにここに行ったほうがいいと住所が書いてあるメモだけ渡された。

メモに書いてあった場所に急いで移動した。

そこには『直木研究所』とだけ書いてあり、とても綺麗で広い場所だった。
ただ…この違和感はなんだろうか…。ぎゅうっと胸の痛みが強くなる。

「植村真紀さん、ですね?お待ちしておりました」
「ええ、はい…」

端麗な受付のお姉さんに案内されて部屋に入ると、
無機質なパイプ椅子に白衣を着た老人が座っていた。

「来たか…」

その老人は、どこかで見覚えがあるような気がしたが、すぐには思い出せなかった。

「あの…これは一体…」

老人がスッと、幼い頃から毎朝見てきた瓶を差し出して言った。

「今日、これを飲み忘れたのだろう。胸の痛みはそのせいだよ」
「え?これが…?」

深いため息の後、彼は言った。

「そうだ。これがないと私が生み出した君たちは生きれないのだよ」
「え…?」

バチっという大きな音が鳴って
植村真紀の記憶は、ここで、途切れた。

『続いてのニュースです』

『本日、東京都新宿区にある「直木研究所」にて違法な生物実験を行なっていたなどの疑いで
所長の直木幹久容疑者が逮捕されました』

『調べによりますと、直木容疑者はクローン人間を生み出す実験を行なっており、
違法に処理された死体に人工の臓器を与え、大量のビタミン剤を加えるなどをして………』

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