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短編小説から見る社会

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菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
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2021年10月の記事一覧

黒井千次「声の巣」書評(2)

黒井千次「声の巣」書評(2)

黒井千次「声の巣」の書評、2人目は西野乃花さんです。

黒井千次「声の巣」(現代小説クロニクル 1995–1999』収録)

評者:西 野乃花

 声が生まれるところ、もしくは声そのものが育てられるところ。声の巣、という言葉に対して私が抱いた第一印象である。丸っこくて、その中に空間があって、窓のような小さな穴からひょっこりと声が顔を出す。巣、と書かれたのでどうしても鳥の巣に近いものを連想してしまう

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黒井千次「声の巣」書評(1)

黒井千次「声の巣」書評(1)

今週の4回生ゼミでは黒井千次「声の巣」を読みました。一人目の評者は森本和圭子さんです。

黒井千次「声の巣」(『現代小説クロニクル 1995–1999』収録)

評者:森本和圭子

 この物語は留守番電話をモチーフにし、失踪した男の部屋で、勝手に入り込んだ3人の友人たちが、留守番電話の録音を、これまた勝手に聞くというシチュエーションでストーリーが進む。
 「私」と「菊本」と呼ばれる男が、「柿坂」と

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筒井康隆「おれに関する噂」書評

筒井康隆「おれに関する噂」書評

今週分の更新です。3回生ゼミでは筒井康隆「おれに関する噂」を読みました。評者は山田瑠菜さんです。

筒井康隆「おれに関する噂」(『日本SF短篇50:I』収録

評者:山田瑠菜

噂に正解はいらない

 噂や悪口の類に、古くより人々の心は奪われてきた。人が集まると、誰かの噂や世間話が会話の潤滑油として常套手段に用いられるのは、もはや私たちのコミュニケーションにおいて文化のひとつとなっている。「おれに

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イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」書評(2)

イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」書評(2)

「恐龍族」書評、2人目は佐野稜典さんです。

イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」(『レ・コスミコミケ』収録)

評者:佐野稜典

 この作品は短編集『レ・コスミコミケ』に収録されている十二編の短編のうちの一つである。これらの短編はそれぞれ独立した内容になっているが、共通してQfwfqという存在が描かれている。そして今回の短編「恐竜族」にも冒頭に自身が恐竜であった過去を話す語り手として登場している。今回

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イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」書評(1)

イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」書評(1)

先週の4回生ゼミではイタロ・カルヴィーノ「恐龍族」を読みました。二人の評者のうち、まず成山美優さんの書評を紹介します。

イタロ・カルヴィーノ「恐龍族」(『レ・コスミコミケ』収録)

評者:成山美優

 この物語は、Qfwqfという人物が昔話を語るようにして話が展開されていく。恐龍族の生き残りである彼の昔話が、壮大なスケールでテンポよく進んでいく様子にどんどん引き込まれていった。
 荒涼たる高原の

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ジーン・ウルフ「取り替え子」書評(2)

ジーン・ウルフ「取り替え子」書評(2)

ジーン・ウルフ「取り替え子」の書評、二人目は古賀芽生さんです。

ジーン・ウルフ「取り替え子」(『ジーン・ウルフの記念日の本』収録)

評者:古賀芽生

 子を大切に想い育てることは親に求められることの一つだが、それを「普通」にできている家庭は一体どれほど存在するのだろう。家庭環境それぞれは異なるし、普通にできないことも多々ある。では、「普通」から外れた親や子はどうなるのか。
 『取り替え子』では

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ジーン・ウルフ「取り替え子」書評(1)

ジーン・ウルフ「取り替え子」書評(1)

先週分と今週分をまとめて更新します。まずはジーン・ウルフ「取り替え子」の書評です。二人の方に書いていただきました。一人目は山下綾花さんです。

ジーン・ウルフ「取り替え子」(『ジーン・ウルフの記念日の本』収録)

評者:山下綾花

 自分が子供の時の記憶を鮮明に覚えているだろうか。きっと「はい」と言える人の方が少ないと思う。楽しかった思い出だけではなく、嫌な思い出も鮮明に正確に覚えているのは心の健

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村田喜代子「望潮」書評(2)

村田喜代子「望潮」書評(2)

 村田喜代子「望潮」の書評、2人目は柴田美朝さんに書いていただきました。

村田喜代子「望潮」書評(『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』収録)

評者:柴田美朝

強さ

 この小説は簑島という旅先での奇妙な出来事、そして10年という月日によって起こった変化、これらを「古海先生」とその「教え子の女性」と始終語り手が変わっていく編成で描いており、そのたびに変化す

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村田喜代子「望潮」書評(1)

村田喜代子「望潮」書評(1)

 今週の3回生ゼミでは村田喜代子「望潮」を読みました。ふたりの方に書評を書いていただきました。まずは中国からの留学生のリュウ・ジュンケイさんの書評です。

村田 喜代子 「望潮」書評(『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』収録)

評者:リュウ ジュンケイ

 我々はいつも、死を求める人の考えを知ろうともせず、理解不可能であるという態度を取っている。しかしながら

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小田雅久仁「11階」書評(2)

小田雅久仁「11階」書評(2)

小田雅久仁「11階」読書会、二人目の評者は佐野竜一さんです。

小田雅久仁「11階」(『2010年代SF傑作選 2』早川書房、2020年)

評者:佐野 竜一

 今回扱う小田雅久仁の『11階』は内川良徳の視点を主として十階建てマンションの十一階を幻視する浜上日菜子との生活と、幻視される十一階の世界が舞台の物語である。

 良徳はある日コンパで出会った日菜子に惹かれ、親睦を深め帰り道をともにし

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小田雅久仁「11階」書評(1)

小田雅久仁「11階」書評(1)

先週分の更新になります。小田雅久仁「11階」を読みました。お二人の方に書評を書いていただきました。まずは高瀬晴基さんです。

小田雅久仁「11階」(『2010年代SF傑作選 2』早川書房、2020年)

評者:高瀬晴基

罪との共存



 身に訪れた絶望から解放されるために人が取ることができる選択肢はいくつかある。乗り越えるか、死を選ぶか。手っ取り早いのは死を選ぶことだろうが、どちらを選ぶにも

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向田邦子「春が来た」書評

向田邦子「春が来た」書評

前期最終分の書評のアップを忘れていました。すみません。

向田邦子「春が来た」書評(『隣の女』収録)

評者:成山美優

 人は、他人と関わり合うことで影響を受けたり、与えたりしている。それは良いことかもしれないし、悪いことかもしれない。それらを取捨選択していく中で、人は変化し、学び、成長していくものなのだろう。この小説では、一人の男性の与える影響で、とある家族が変わっていく様子を描いている。 

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