京都産業大学現代社会学部 菅原ゼミ
メンバーが書いた創作を掲載していきます。
菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。 ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
菅原ゼミの卒業文集の紹介をします。
11/18に行われた「第3回 創作練習会」の成果物を、毎日1作品ずつ掲載してゆきます!今回は特に秀逸な作品揃いなので是非ご覧下さい💕 今後の掲載に伴い、本投稿では、第3回 創作練習会についての説明を行いたいと思います! 【第3回 創作練習会 視点の置き方の練習】 練習会では3つの題材が出されました ! 文字数は、自由。🕊 ペンネームとともに掲載致します。 全題材を一度に使ってもよし、分けてもよし、ひとつについてのみ書いてもよし。 大学3回生のゼミ生達が書いた創作小
『血』 家に帰るとお母さんが泣いていた。あたりは赤いどろっとした水で汚れていて、その中にお父さんが倒れていた。お母さんが料理の時に持っている銀色の尖って痛そうなものがその横に落ちていた。 僕は近寄って、とりあえず赤い水を舐めてみた。お母さんが急に顔を上げて、慌てて言った。「やめなさい、ミケ!」 水は生臭い味がした。 『調書』 あれは私のせいじゃないんです。そもそも私は高橋くんには何の興味も持っていませんでした。付き合っていたのは高橋くんの方から私に告白してき
『本能があれば』 既に仲間とははぐれ、私は体力の限界でした。何のために飛び立ったのか。寒い冬から逃れるためたったのか。どうだったのかもはや私は覚えていません。それでも旅を続けなければと思うのは渡り鳥の習性なのでしょうか。はなからあたたかい地へ行きたいとも、飛びきってやるという覚悟もなかった気がします。ただただ己の中にある何かに流されるように私はここまで飛んできたのです。 もうここらでいいのではないか。ふと、そう思いました。終いにするには充分な疲れがあります。私は羽ばたくの
「そうだ! マイブームの話をしよう!」 ふと思い立って電車で数駅の繁華街に出た日曜日の昼下がり。ここは全国チェーンのカフェ、ドトーノレの窓際の席。目の前にはスティックシュガー5本入りのゲロ甘コーヒーを飲む年の離れた従兄がいた。 「ニッコニコとキメェ顔晒してんじゃねぇ」 「それが数年ぶりに会った可愛い従妹に対しての物言いか!?」 「その顔で可愛いを名乗れるほどの自己肯定感の高い女に育って兄ちゃんは嬉しいよ」 詳細は省くが、数年行方をくらまし続けていた従兄との再会で
私はいつも素敵でいなくてはならない。私は自己の表現として私を使う。 磨きに磨きをかけ、私は艶やかに、滑らかに、その者の美しさを表現するの。時にはギラギラと輝いたり背伸びをしたりして強く華美であることを、時にはスモーキーでしっとりと落ち着いたセンシュアルな雰囲気を、時には野に咲く小花のような可憐さを。その時の気分で、魅せたい自分を纏う。 私は首元に漂うの。どうか抱きしめた柔らかさを想起して。蕩けた笑みが見たいわ。 私は指先を彩るの。どうか繋いだ手を思い出して。切ない表情が
「犬も猫も勝ち組」 「なぁ、お前もそう思うだろ?いっつも閉じ込められて、満足に外に出ることもできないなんて、うざったく思ってんだろ?」 そう彼に言われて僕は戸惑ってしまった。確かに僕の家は狭いと思うけど、外が暑かったり、寒かったりすれば主人は自分の家に上げてくれるし、ご飯もいつも決まった時間に出してくれるし、おやつだってくれるときもある。つまり現状に対する大きな不満が余り思い浮かばないのだ。そうやってもじもじしていると、塀の上にいた別の彼があくび交じりに声を投げた。
『変心』 ある朝、私が気がかりな夢に目覚めたとき、自分が壁に張り付く一匹の蛾に変わってしまっていることに気づいた。 もつれそうな六本の足、無数の複眼による万華鏡めいた視界、口や鼻孔ではなくからだの側面から空気が出入りする奇妙な感覚、昨日の夜から様変わりした他でもない自らの感覚器官が今や私が人ではなくなったことを残酷なほど如実に示していた。湧き上がった混乱と絶望のあまり叫び声をあげたかったが情動に任せた発狂寸前の絶叫は渦巻いたストロー状の口がせわしなく伸縮するだけの行為に変
先週はジョージが死んだ。あいつと出会ったのは、公園で遊んでる子供にひっついたまま辿り着いた家だった。あいつは子供の血が大好きだった。特に腕の血が好きだった。でも、あいつは狙う子供を間違えた。その子供の親は電撃ラケットを持っていた。あいつはその餌食になった。 昨日はタケルが死んだ。あいつは外が好きだった。いつもアクロバティックな飛び方をして、みんなから羨ましがられていた。だが、ちょっと油断した隙に車の窓に激突した。ほんとに一瞬だった。 そして今日はシェリーが死んだ。彼女は俺
俺の名前はサラブレッド。俺はここで人間たちに育てて貰っている真っ最中だ。この世には競馬なんていうレースに参加して脚光を浴びているカッコいい奴らなんてのもいるらしい、俺も大きくなったらそーなりてぇーなー、いやでも乗馬の馬になって人間達を喜ばせてあげるってのも悪くねぇかもなーー、早くおっきくなりてぇ。 数年後。俺のところに飼育員がやってきて、こう言った「ずいぶん大きくなったな、そろそろうれどきだ」、やった!これで俺もついに、、、
その人は、人里離れた森の奥に住む、年老いた人形師でした。彼は来る日も来る日も窓の傍の古ぼけたウィンザーチェアに座り、木を削り、磨き、もう60年も人形を作っていました。手元のランプだけが煌々と光る彼の部屋には、端麗な少女の人形がいくつも並べられ、透き通った硝子の瞳が夜を映しています。同じ形の人形を、同じように作る。それが彼の仕事でした。彼ができあがったものに関心を向けることは殆どありませんでしたが、時折商人らしい若い男が訪ねてきては、その内のいくつかを引き取っていきました。血
この⽣物はエサをくれたりする。距離感が近すぎるくらいでちょうどいい。 でも、稀に突進してきたり⾜を振りかざしたりしてくるから気をつけろ。 はあ、空中より地上にいる⽅が快適かもしれない。公園は居⼼地いいしなぁ。楽をして⽣きていきたいのはみんな⼀緒だ。 そういえば、翼はなんのためにあるのだろうか。
シャーリイ・ジャクスン「くじ」(『くじ』収録) 評者:リュウ・ジュンケイ 皆さんが知っている「くじ」はおそらく年末ジャンボ宝くじのような、当たった人が賞金やプレゼントを貰ったり、幸せを感じるものだと思う。しかし、当たったらひどい目に遭うくじというものを聞いたことがあるだろうか。 この物語ではとある村で行われている行事で300人の村民がくじを引き、当たった人を集団で殺すという悲惨な話である。非常にシンプルな話だが、最後まで読まないと意味が全く分からなかった。細かいところ
再び更新が滞っており失礼しました。5月19日の3回生ゼミでは小川洋子「ひよこトラック」を読みました。 小川洋子「ひよこトラック」(『群像短篇名作選 2000〜2014』収録) 評者:杉本優花 沈黙は、時にどんな言葉よりも雄弁に心の内を語る。仕草、表情、纏う空気感には、言葉に代え難いほどの静かな感情があり、私たちはその沈黙を通して、人の真意を知ることがある。言葉にすることができない感情を、沈黙で分かち合うのである。 小川洋子「ひよこトラック」は、そんな沈黙で繋がった男
先週の4回生ゼミではシオドア・スタージョンの異色ミステリ「死ね、名演奏家、死ね」を読みました。音楽について、嫉妬について、など、様々な観点から議論がかわされました。 シオドア・スタージョン「死ね、名演奏家、死ね」(『一角獣・多角獣』収録) 評者:北川結衣 誰しも一度は他人の才能に羨ましさを感じたことがあるのではないだろうか。その「羨ましい」という感情は、強くなればなるほど「妬ましい」という感情に変化する。そして人間の「妬ましい」という感情は、強まるほどおぞましい「憎し
先週の3回生ゼミでは長野まゆみのミステリアスな短篇「45°」を読みました。そもそもこれはどういう話なのか?をめぐって興味深い議論が展開し、驚愕の解釈も生まれたのですが…ここに紹介できないのが残念です。 長野まゆみ「45°」(『群像短篇名作選 2000〜2014』収録) 評者:中島虎太郎 私たち人間は様々な言動や物事などに対して自分なりの考えや、解釈を持ったりする生き物である。そのため簡単に自分の考えがまとまり解釈できればスッキリするが、逆に上手くつじつまが合わずに考え
江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(『ちくま日本文学 江戸川乱歩』収録』) 評者:山田瑠菜 犯罪に魅せられてしまった只一人の人間 こんな話を聞いたことがある。人間は誰しも、内に狂気を秘めている。その人格を表に出さずに、理性で覆い隠したものが自分自身だと人間は思い込んでいるが、実は無意識下に恐ろしい狂気じみた混沌とした別人格がいるのだと。"法律さえなければ"いや、もっと身近な表現をすれば"誰かに叱られさえしなければ"悪いことをしたくなってしまう。そんな経験はないだろうか。 そ