「想う力」を発揮したイノベーション:日産e-Power
前回の記事では、横尾忠則さんの「想う」力を探求しました。「想う」とは、目的や成果に縛られることなく、子供のような純粋な驚きと遊び心を持ってアイデア創出に取り組むことです。今回は、「想う」力によって生まれた画期的な製品として、日産 e-Powerの開発事例をご紹介します。
「思考の飛躍」: 五感で非連続なアイデアを生み出す
経営学者 野中郁次郎先生とジャーナリスト 勝見明氏の共著『共感経営』では、イノベーションを起こす発想を「跳ぶ仮説」と呼んでいます。これは、一見無関係な事象を結びつけ、非連続な新しい知を導くアプローチであり、アート思考における「思考の飛躍」と同じ概念です。
野中先生は、コンセプトを実装する過程では、演繹法などの論理分析的な思考も必要だが、それだけでは不十分で、アート的な発想と論理的な発想を融合させることが必要と述べています。
「想う」力で生まれた日産 e-Power
日産 e-Powerは、従来のハイブリッド車とは異なり、モーターで走行し、エンジンは発電にのみ使用する革新的システムです。また、アクセル操作だけで車を加速・減速・停止できる「ワンペダルドライブ」機能を搭載しています。
このe-Powerの誕生には、EVの驚異的な走りに五感で触れた経験がありました。
日産は、2010年にEV車リーフを発売しました。EV車は環境性能に関心が集まりますが、リーフの開発者たちは、EVの走行性能を実際に体験し、エンジン車に比べてアクセルを踏んだときのレスポンスが優れていて、胸のすくような加速で走ることを実感していました。EVの弱点である航続距離の短さを克服するため、エンジンを発電に使うアイデアが生まれ、社内の「部活動」として、本業とは別の活動として検討されました。
同時に、システム担当チームは、減速時に運動エネルギーを電気に変換する際に生じる制動力(回生エネルギー)を強化することで、ブレーキペダルを踏まずに減速できることを発見しました。この方法で車を止めることができたら面白いと、こちらも部活を始め、「ワンペダルドライブ」を開発しました。
一連の部活の成果が商品企画部門の目にとまり、マイナーチェンジを予定していたノートへの搭載が決まり、「e-Power」という新しいコンセプトの車が誕生しました。
「想う」力を発揮するための環境作り
日産e-Powerの開発事例から分かるように、「想う」力を発揮ためには、担当者に制約がなく遊び心をもたせることが大切です。
日産の場合、「部活」といった、自由な発想とチャレンジを許容する環境がありました。システム担当者の羽二生倫之氏は次のように述べています。
イノベーションの第一歩: 「想う」力を信じ、挑戦する
イノベーションの第一歩として、「想う」力を信じ、自由度を高めて新たな価値創造に挑戦できる体制を整えることが不可欠です。日産e-Powerは、「想う」力によって生まれた革新的な製品であり、企業におけるイノベーションの源泉としての「想う」力の重要性を物語っています。