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「生きるモチーフ」:創造的な人生に駆り立てる力

清水洋さんの著書『イノベーションの考え方』(日本経済新聞出版)によれば、組織内でイノベーションを促進するためには、内的動機づけの高い人材が重要だと指摘されています。本コラムでは、内的動機をどうすれば引き出すことができるかを考えます。


内的動機としての「生きるモチーフ」


若松英輔さんは、日本経済新聞のコラム「セザンヌとモチーフ〜小林秀雄『近代絵画』」で、この内的動機を「モチーフ」という言葉で表現しています。「モチーフ」とは、私たちの内面に存在し、何かを表現することへと強く駆り立てる力のことです。

若松さんはさらに、人生における「生きるモチーフ」について考察しています。これは目標とは異なり、達成することによる成果よりも、その行為自体が喜びや充実感をもたらすものだと言います。

モチーフによって生かされる人たち


若松さんが、生きるモチーフについて考えるきっかけとなったのは、印象派の画家のポール・セザンヌが語った「私というものが干渉すると、全ては台無しになってしまう」という言葉でした。

それをつかもうとしたり、自分の自由にしようとしたとたん、関係は見失われる。人はモチーフを実現するために生きるのではない。むしろモチーフによって生かされている。モチーフは見えない守護者である。

若松英輔「セザンヌとモチーフ〜小林秀雄『近代絵画』」

セザンヌは銀行家の家庭に生まれ、父の希望で法学部に進学しましたが、法学の勉強には魂が入らず、芸術の道に進むことを決意しました。しかし、岡本太郎によれば、セザンヌの絵は「ヘッポコ」だったのです。サロンに何度出品しても落選し、審査員の推薦で1回展示できただけでした。

それでもセザンヌは絵を描き続けました。彼は他人の評価や外的動機にとらわれず、自身のモチーフによって駆り立てられていたのです。その結果、彼は、印象派の色彩の豊かさを失うことなく、形態を明確に描くことに挑み、視覚認識を根本的に変革しようとしました。

印象派をうつろでないしっかりしたものとして、美術館にふさわしい芸術にしたい

【美術解説】ポール・セザンヌ「ピカソやキュビズムに影響を与えた後期印象派の巨匠」

同様に、イノベーションを起こしてきた人々も、モチーフに生かされてきた人が多いと言えるでしょう。スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学での有名なスピーチで、大学を中退し、自分の好奇心と直感に従って進んだことが後に貴重なものとなったと語っています。モチーフに生かされることで、セレンディピティが起こるのです。


生きるモチーフに出会う方法とは?


どうすれば私たちは「生きるモチーフ」に出会うことができるのでしょうか?

岡本太郎は、誰もが絵画を描き、そのよろこびを持つべきと主張します。
上手い絵やきれいな絵を描く必要はありません。むしろ下手な方がいい。

自分の自由な感情をはっきりと外にあらわすことによって、あなたの精神は、またいちだんと高められます。つまり芸術を持つことは、自由を身につけることであって、その自由によって、自分自身をせまい枠の中から広く高く推しすすめてゆくことなのです。

岡本太郎『今日の芸術』

私は「アート思考」講座でビジネスパーソンの方々にアート作品を創る機会を提供しています。絵画でなくても構いませんが、参加者の方々はコンセプチュアルで素敵な作品を創り出しています。このワークを通じて、全ての人が豊かな創造性を持っていることが明らかになります。ただし、日常の仕事や生活の中で、その創造性を発揮する機会がないだけなのです。

岡本太郎の提案と同様に、アート作品を創り、創造性を発揮することによって、私たちは「生きるモチーフ」に出会うことができるのではないでしょうか。自分自身の内なる情熱や魂の声に耳を傾け、それを表現することで、本来の自己を見つけ、意義ある人生を歩むことができることでしょう。


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