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sparrow tearsの読書

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#読書感想文

【読書感想文】重宝されるTVコメンテーターの条件とは?『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』から考える

突然だが、この数か月間で私が見聞きしたことがらを脈絡なく並べてみる。   ※    博士号を取得して数年後、理系の研究者となった熱意ある人と話していたら「この職に就けたのは運とタイミング。ポスドク時代は出口のないトンネルにいるみたいだった」と語っていた   ※    仕事現場の人が「この国では文系の研究をしながら稼ぐのは大変だ」と愚痴っていた。   ※    文系の大学院出身の「研究者」の言論のトーンがある時点から攻撃的になった。以来、一部界隈から熱狂的ファンを得ている。

【イスラエル文学】短編集『首相が撃たれた日に』収録のSFで酷暑のヒヤリ体験

イスラエル人のウズィ・ヴァイル著の『首相が撃たれた日に』という短編集を読んでいる。   昨年の惨劇の記憶がまだ生々しく刻まれている日本人の胸の中にもザラっとした印象を残すタイトルではないだろうか。   イスラエル大使館のリリースによれば、表題作の初版は1991年。1995年にラビン元イスラエル首相が銃撃された後、この小説が「事件を予見していたのではないか」と話題になったという。30年以上の時を経て、ヘブライ語から日本語に訳された本が河出書房新社から出版された。   『首相が撃

【読書感想文】話題の著『南の国のカンヤダ』。「これ、よく出版したな…」と絶句した場面

 図書館で調べものをしていたら、最近、注目を集めていた本のタイトルが目に入ってきたので、借りて読み終えた。   スタジオジブリ代表・プロデューサーの鈴木敏夫氏が執筆した2018年出版の『南の国のカンヤダ』という本である。   最近、彼にまつわる不穏な報道があったので、好奇心で手を伸ばしてしまった。   身銭を切っていないのにこんなことを書いて申し訳ないが、読み終えて強く感じたのが「こんなセルフ暴露系“ノンフィクション小説”の出版を、なぜ周囲は誰も止めなかったのか」である。  

【読書感想文】『妻が怖くて仕方ない』はノンフィクションと思いきや、サスペンス小説だった

 推理作家アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』は、大きな事件が起こらないのに、恐ろしい物語である。   主人公の女性が一人語りでひたすら自らの夫婦関係・親子関係を振り返っているのだが、途中、妻が事実をひとりよがりに解釈した「自分の物語」を語っていることに気付かされる。読者は断片的な情報からぞっとする夫婦関係の想像をかきたてられるのみ。   最近、『妻が怖くて仕方ない』(ポプラ社)という本を読んで、類似の読後感を味わった。   なぜなら、妻からの視点が丸ごと抜け落ちたルポだ

ハロウィンの週末に韓国の『フィフティピープル』を読み返した理由

凄腕の韓日翻訳者たちの活躍があり、原文をくみとった美しい日本語で韓国の名作を読めるようになった。   近年の翻訳物を読んでいると、2014年のセウォル号の惨事と、そこに至るまでの社会的な背景は、韓国文学界にも多大な影響を与えたことがわかる。   さまざまな作家がそれぞれの想像力を駆使し、市井の祈り、その後の日常、あったかもしれない別の結末の物語を生み出している。   そして、この週末「あったかもしれない別の結末」を思わずにいられない事故が起こった。昨日、朝一番のラジオニュース

【読書感想文】村田沙耶香の『信仰』があぶりだした「とあるカルト」のカテゴリ

 カルトという言葉に苦手意識がある方は多いと思うが、英語の「cult」は多義語である。   「閉鎖的な新興宗教集団」の他に、「流行」「熱狂的支持」「狂信的な崇拝」「礼賛」「祭儀」などの意味も含む。   つまり、「祭礼」から「やや日常」まで広い場面を覆う言葉なのだ。   村田沙耶香の短編集『信仰』‎(文藝春秋)に収録されている表題作は、そのあたりをものすごくうまく突いていて、思わず「うわっ、そうきたか!」と声が出た。   登場人物は「カルトで金もうけしようとしている人」「金を搾

女性誌にはセックステクニック指南があふれ、ネットには男性のファンタジー動画があふれる、その背景【読書感想文】

『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(河出書房新社)は、資本主義が家庭、恋愛、セックス、暮らしを含めた「ライフ」に与える影響を学術的な視点から掘り下げた本だ。   同著によれば、東西ドイツの統一前、社会主義下の東ドイツと、資本主義下の西ドイツとでは、東ドイツのほうがセックス満足度が高く、セックスを楽しんでいたという。   過度な競争と不安を煽り、愛と性さえ売買の対象となった資本主義が極まったことで、女性の自信と主体性が削がれている現実が浮かび上がって

【読書感想文】カルト的スピリチュアルから身を守るために…プレ父母の必読書『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』

2010年代に死んだ母親がおばけになって子どもを見守る絵本などでベストセラーを連発していた男性絵本作家のSNSを見て、ぶったまげた。   赤ちゃんの胎内記憶を読み解く、預言者のようにふるまっていた。 育児の悩み相談も親の視点というより「神の視点」から語っているのが印象的。 妊娠・出産をめぐるスピリチュアルな言説は、枚挙にいとまがない。伝統や自然を礼賛する言説もある。   「赤ちゃんがママを選んで決めて、この世にやってきた」 「おまた力で女性はハッピー」 「昔の人は鍛えていた

【読書感想文】「日本消滅」がトレンドワードになる時代の名著『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』(毎日新聞出版)

 「放っておいても子は育つ」   そう言う人は、おそらく子育てをしていない。   手塩にかけ、金をかけ、そのための金を稼いで、手間と愛をかけられないなら外で稼いだ金より安い金で外部に委託して、やっと子が育つ社会を生きている。   現代社会では、子どもを「ちゃんとした大人」に育てるためのコストと労力が増大し、親の肩に重くのしかかる。   子どもの笑顔を見る瞬間はきっととびきり幸せだろうけど、結婚にも育児にも年をとるにもコストがかかるし、教育資金のほかに老後の資金が2000万円だ

【読書感想文】『フェンスとバリケード』の向こう側にあるもの

パンデミック前に劇場で見た韓国映画『パラサイト』の一場面を思い出す。   洪水の濁流はより低い場所に流れ込み、まっさきに生活が破壊される。一方、外でどんなに嵐が吹き荒れようと、高台にそびえる豊かな家の中はびくともせず、室内は静寂に包まれている。そこで過ごす者は、どこかで破壊された生活があることには想像が及ばない。   災害や戦争によって生活が破壊された場所は、目に見えない、あるいはあからさまなフェンスやバリケードで囲われ、生活の立て直しは個々の力に乱暴に委ねられる。二度と戻っ

【読書感想文】「結婚式の加害性」がトレンドワードになる『優しい暴力の時代』

映画やドラマの伏線探しや深読みは楽しい。   ストーリーの中の小道具の銘柄や花言葉、セリフから作者の意図をくみ取るのは謎解きゲームのようにワクワクする。   ところが、推理ゲームでは役立つ「深読み力」が、日常生活の人間関係においてかえって邪魔になることがある。   ――あのほめ言葉は皮肉なのかもしれない   ――その善意は「こんなこともできないの?」という見下しなのかもしれな い ――あの慰めは自分の言葉に酔っているだけかもしれない。 さらに、言葉のみのらず、個々の属性で

【読書感想文】『さよなら、野口健』は、現代の『山月記』だった

 雑誌の書籍紹介で『さよなら、野口健』というタイトルを目にしたとき、正直、暴露本の類かと思った。   ルポルタージュである本著は、野口健事務所に長年出入りした元マネージャーが、縁切り神社で「野口健との縁が切れますように」と祈ろうとする場面から始まる。   1ページ目を読んだときには、アルピニストとして名をはせながらも、近年はネット上で炎上しがちな野口氏のヤバめな素顔がつづられていくんだろう、と予想した。   同じく登山家が主題の『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(20

話題の著・有吉佐和子の『非色』読んでから『SEX AND THE CITY』の続編見ると、脳がバグる

 『SEX AND THE CITY』の続編である『AND JUST LIKE THAT』を視聴している。   かつて恋愛やセックスを各々のスタイルで楽しんでいた主要メンバーが年をとり、社会の変化にオロオロしている描写が印象的。黒人の友人が少ないために体面を気にかけたり、白人エリートの立場からのド正論を吐いて人を不快にさせたりといった場面が目立つ。   政治的に正しいほうに、フェアなほうに、性別や肌の色による差別のないほうに、世界は傾いている。人種間で感染症によって受けたダメ