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「差別やいじめに真正面から向き合う物語~『ワンダー』~」【YA57】


『ワンダー』 R・J・パラシオ  著 中井はるの  訳 (ほるぷ出版)
                                                                                               2016.6.19読了


オーガスト(通称オギー)は10歳の男の子。
顔に生まれつき重度の障害が残ること以外は、いたって普通の男の子です。
映画「スターウォーズ」シリーズの大ファンで、ペットの犬・デイジーをこよなく愛しています。
 
生まれた時から何度も何度も手術を受けてきたオギー。
母親がずっと家で彼の勉強をみていましたが、ついに通常の学校へ入学する時が来ました。
これまで家族や家に守られて平和に暮らしていたオギーを、いよいよ初めて厳しい現実が待つ社会に一歩踏み出させる決心をした母親が考えに考えた結論でした。
 
極度に不安になるオギーを励ます両親や姉に加え、教育者である校長の理解のおかげでどうにか入学することになったオギーに、当然といわんばかりの試練が待ち受けます。
 
学校中がオギーをひと目見ただけで、驚愕し、恐れ、陰口をたたくのです。
だれも近寄ってこないし、すこしでも彼に触ると病気でもうつるかのごとく、あからさまに手を洗ったりなどのひどい仕打ちを平気でしてしまう子どもたち。
 
しかしながら最初の学校見学の際に案内役をしてくれたジャックはとても親切で、いつもオギーのそばに居てくれます。
 
そして学内食堂で誰もそばに寄り付かない中で同じテーブルをえらんでくれたきれいな女の子・サマーも、オギーと別け隔てなくつきあってくれています。
 
しかし、やはり大多数がオギーのいわゆる“敵”であることは間違いないし、特にひどく辛くあたるジュリアンにいたっては、かなり性悪なのです。
 
そんな中でも少しずつ学校生活がマシになりつつあると思っていた矢先、学校のハロウィーンパーティでオギーにとって衝撃的な事件が起きてしまいます…。


 物語は、オギー自身、親友のジャック、サマー、姉のオリヴィア、オリヴィアのボーイフレンド・ジャスティン、オリヴィアのかつての親友・ミランダ等々、オギーを取り囲むまわりの人々からの視点でも語られていき、かなり真実味を帯びて、単なる感動モノとは違った仕上がりになっています。
 
 
何の罪もない、ただ単に病気のせいで生まれつき障害を持ったばかりに、不当な扱いを受ける人たちが多く存在します。
そんな未成熟な世の中で、愛する家族までもがつらい日々を送らなければならない現実は無情。
 
長く社会にはびこるいじめや差別といったものは、相変わらずいろんな場所やシチュエイションにおいて暗い影を落としたままです。
 
校長が言う「正義と親切のどちらかを選ばねばならない時、親切を選べ」とは、まさに究極の選択かもしれません。できれば、どちらも選びたいものです。
 
本の中にも何人か登場しますが、偽善者とかいい子ぶりっこなどと言われてしまう人たちの存在はどう考えたらいいでしょうか。
やや否定的に思われる人もいますが、完全に知らんぷりや無視を決め込んだり、最悪いじめや極端な差別行為をする人よりも、私はまだマシかなと思うのです。
当然、なんの一点の濁りもない良心でもって接することができれば言うことはありません。
 
しかし当人の気持ちを完全に理解することは、全く同じ立場にならないかぎり無理な話です。
その人の立場になって考えなさいとよく言われますが、同じ気持に“近づく”ことはできると思います。
その人の“心に寄り添う”ことはきっとできるはずです。
 
ジャックがオギーのことで行き違いがあり、ある真実を知った時の彼の大変な後悔に私は泣きたいほどでした。
 
 
この本は2015年に出版され、2016年の青少年感想文全国コンクールの課題図書となり、2017年にはハリウッドで映画化され翌年日本でも公開されました。

ジュリア・ロバーツが、無償の愛で包んでくれるオギーの母親を演じています。
私は映画の方は観ていませんが、おそらく感動的な作品に仕上がっているのでしょうね。
 
出版社より:
【 全世界で300万部売れた、感動のベストセラー
「いじめ」を題材にした児童向けの小説ですが、その枠におさまらず、多  くの人を魅了し米国ではNYタイムズベストセラー第1位になりました。】
 
このように小学校高学年向けの児童書扱いの本書は、その内容の重要さから中学生そして高校生でもぜひ読んで欲しい本です。


オギーがその存在で持って、周りの人々の先入観や考え方を変えてくれたのですね。

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