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短編小説

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ちょっと不思議な短編を集めました。
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2022年12月の記事一覧

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

「ひろすけ童話」と呼ばれ、今もなお親しまれる、美しい童話の数々。
代表作「泣いた赤おに」の、続きの物語を書きました。

どのくらいの間、赤おには、そうしていたでありましょう。
朝つゆにぬれていた、やまゆりが、日ぐれのひかりにてらされました。
赤おには、ついに、とぼとぼと、がけの下のじぶんの家に、帰って行きました。

次の日も、その次の日も、村人たちは、赤おにの家に、やってきました。
赤おには、おい

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短編小説「銀河ステーション」後編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

短編小説「銀河ステーション」後編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

※宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をオマージュし、賢治の文章を時折ちりばめて書いたものです。

『銀河ステーション、銀河ステーション…』

突然、暗い夜空に不思議な声が響き渡りました。

次の瞬間、賢一はあまりの眩しさに目が開けられなくなりました。
空はもう明るいなんてものではありません。まるでよく晴れた日の雪景色のように、しかしそれの何倍もの明るさで、辺り一面が真っ白になりました。

そして気が付くと、

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短編小説「銀河ステーション」前編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

短編小説「銀河ステーション」前編《銀河鉄道の夜》オマージュ作品

※宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をオマージュし、賢治の文章を時折ちりばめて書いた、短編小説です。

中学校の休み時間にクラスメートが言いました。

「賢一、お前今日の花火、来れるか?」

クラスの男子数名で、近所の公園で花火をやろう、と前々から計画していたのです。

「あ…うん、行かれれば。あっ行きたいんだけど…でももしかして母さんの仕事が…」

「やっぱ、どうせ来ないでしょ。まあ、一応言っとくけど、集

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

川の水は、さっきみたいに押し流されるような感触はない。ただ、足元だけひんやり寒い場所を歩いているみたいだった。
振り返ると、パパは網を構えたまま、夏乃はよろけた姿勢で止まっていた。足元の水しぶきも空中で固まっていて、細かな粒が小さなガラスの欠片のようで、きれいだった。

「こっち、こっち!」

少年が立ち入り禁止のロープをくぐり、滝壺の方に泳いでいった。
川は、しぶきは立たないが泳げるようだったの

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

「おにいちゃーん!!おにいちゃんってばーー!!」

そのとき、夏乃の声がして、浅い川をよろけながら登ってくる姿が見えた。

「ママが、おべんとうにするってーー!!」

僕は、お腹がペコペコなのに気がついた。
「じゃあその石、そこの岩の影に隠しておきな。弁当食ったら、またここで待ち合わせしようぜ。」
少年が言った。

「あ、魚!えっと、オイカワは?」
僕は、透明なケースに入ったきれいな魚に、顔を近づ

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

あらすじ
【川底に沈む石の力で、自分以外の人々の時が止まった。
夏休みに家族で川遊び、というありふれた一日。しかし五年生の冬里にとって、それは木陰のまだら模様の日差しとともに、キラキラとした忘れられない一日になった…】

「キラキラしてる川、久しぶりにみたなあ」

パパが、魚とりの網を振り回しながら、子供みたいな口ぶりで言った。

小学校五年生の夏休み、僕は家族で川遊びに来ていた。
家から車で二時

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笑い袋(短編小説)/ 倉田そら

笑い袋(短編小説)/ 倉田そら


笑い 特価 590円

ある日、スーパーのすみっこに、こんなものが売られていました。

二年生の しょうた君がそれを見つけたのは、夕方のことです。お母さんと一緒に、お買い物に来ている時でした。

「笑い…って?」
 
それは、奥のほうの棚に、ぽつんと一つだけ置かれていました。

ごく普通の茶色い紙袋で、口の部分は二回ほど折り曲げられ、ホチキスで無造作に留められています。
袋には手作りの値札が貼っ

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