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短編小説

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2025年1月の記事一覧

【短編小説】夜のあお

【短編小説】夜のあお

最近息子が、夜空に浮かぶ星を「人」だと思っていたことが判明した。

「あーお、あーお」

最近やっと立ち上がることを覚えた一人息子と、夫と、よく夜に散歩する。そんな時に息子が、よく空を見上げて言っている言葉だった。

「ねえ、もしかして蒼って言ってる?」

はじめに気が付いたのは夫だった。

夫が発した言葉に最初困惑したけれど、すぐに『夫の弟』のことだと分かって首肯する。息子のぷにぷにした息遣いが

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【短編小説】なんで私じゃなかったの

【短編小説】なんで私じゃなかったの

急に誰かのことを思い出す瞬間がある。

それはいつだって突然で、衝撃を伴うものだった。一瞬何が起こったか分からなくて思考が止まる。そのあと何秒かして、ああ、と地面に膝をつくような諦念が生まれる。

後悔やあきらめが脳の裏側いっぱいに広がるのは、思いだすのが、いつも戻れない過去だからだ。やり直せないって、どうしてこんなにしんどいんだろうか。

この時思い出したのは、姉との思い出だった。

姉は5年前

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【短編小説】寝付けない夕暮れ

【短編小説】寝付けない夕暮れ

「休めない日」に体調を崩してしまった。
40度近く熱が出て、ひいひい言いながら病院に行ったのが朝だった。つい数年間まで実家で暮らしていて、家には常に母と、まんまるなポメラニアンがいた。ちょっとしんどいと言えば、車でぴゅんと病院に連れて行ってもらえていた。一人暮らしを始めた今はそれが、ありがたかったことだと実感している。
職場に連絡した時、上司は優しかった。「疲れが出たね。ゆっくりしなよ。こっちでや

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【短編小説】つきぬける晴天がほしい

【短編小説】つきぬける晴天がほしい

雨が降ってきてしまった。
正月が終わって、日常が始まったと思った途端にこの土砂降りだ。雪じゃないだけまだましなんだろうけど、それにしても億劫だ。もしかしたら、雪の方がいろんな交通機関も止まってくれて、行かない言い訳になってくれたかもしれない。そう思いついてしまうとさらに身体が重くなった。もっとも、自家用車で通勤している自分には長い渋滞に辟易している姿の方が想像しやすかった。スタッドレスに変えていな

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