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小説あれこれ

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#ミステリ

ウイルキー・コリンズ『月長石』



この小説についてよく引き合いに出されるのは、20世紀を代表する詩人(代表作は『荒地』ですが、現在ではミュージカル『キャッツ』の原作となった『ポッサムおじさんの猫とつき合う法』の作者と紹介する方が分かりやすいでしょうか)であるT.S.エリオットによる「最大にして最上のミステリ」という言葉です。とはいえ、今となっては本作より長いミステリは多数あります。それに最上かどうかは人ぞれぞれとしかいいようが

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G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

いわずとしれたシャーロック・ホームズ、「灰色の脳細胞」を駆使するエルギュール・ポアロ、強靭な論理で難事件を解決する、エラリー・クイーン、「密室講義」で名高いギデオン・フェル博士などなど、推理小説の黄金時代を彩った数々の名探偵のなかにあって、ひときわユニークな輝きを放っているのが、一見冴えない風貌をもったブラウン神父です。『ブラウン神父の童心』はシリーズ最初の短編集で1911年に刊行されました。

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クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』

クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』

カーステアズ家は3人姉弟。
長女のダイナは14歳。しっかりもので料理も得意。
次女のエイプリルは12歳。才気煥発で頭が切れる金髪美人。演劇クラス仕込みの演技も得意。
末っ子のアーチーは10歳。お姉さんたちには頭が上がらないけど活動家。節約上手でお小遣いをお姉さんたちに貸すこともしばしば。遊び仲間“ギャング団”の子どもたちとのパイプも太い。

お父さんはアーチーが生まれてすぐに亡くなった。ひとりで子

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R・D・ウィングフィールド『クリスマスのフロスト』

R・D・ウィングフィールド『クリスマスのフロスト』

明日はクリスマス・イヴ。ディケンズ『クリスマス・キャロル』、ケルトナー『飛ぶ教室』、オー・ヘンリー『賢者の贈り物』などなど、心温まるクリスマスものの名作はたくさんありますね。残念ながらこの『クリスマスのフロスト』はそうしたハートウォーミングな作品ではないのですが、読み始めたらやめられない上質のエンターテイメントであることは間違いありません。

舞台はクリスマスを10日後に控えたイギリスの田舎町、デ

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G.K.チェスタトン『詩人と狂人たち』

G.K.チェスタトン『詩人と狂人たち』

「この世界は上下逆さまなんです。僕らはみんな上下逆さまなんです。僕らはみんな天井を這っている蠅で、落ちないのは永遠に続く神の御慈悲なんです」(「風変わりな二人組」より)

チェスタトンによるミステリといえば、まずは何をおいてもブラウン神父シリーズをあげねばなりませんが、それ以外にも一読忘れがたい印象を残すミステリを多数残しています。中でも私が偏愛しているのが、詩人で画家のガブリエル・ゲイルが探偵役

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