王貞治と一本足打法
言わずと知れた国民的スターの王貞治。
一本足打法という独自の打法でホームランを量産し『世界のホームラン王』とまで言われるようになりました。
もちろん他にも一本足打法の選手はいますが…
一本足打法が球界を席巻するまでには至っていません。
王選手が突出してこのフォームでホームランを量産できたのでしょうか?
王は王でも三振王
王選手の略歴に関しては他のサイトの方が圧倒的に詳しいのでそちらをご覧ください(笑)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E8%B2%9E%E6%B2%BB
https://baseball-museum.or.jp/hall-of-famers/hof-111/
ただ言えるのは王は入団当初は大した活躍もなく「王は王でも三振王」と揶揄されていました。
かなり平凡な選手だったという事です。
そこで荒川コーチと修練を積み一本足打法を生み出したのです。
そして結果が出ると多くの選手が王貞治に続けと一本足打法を挑戦したのですが…
多くの選手がなかなか成果を得られませんでした。
ではなぜ平凡だった王選手だけが一本足打法を習得できたのでしょうか?
当然、時代の背景や道具の差、球場の特徴等々があり色々と条件が現在とは違うので一概に断定はできるものではないと思います。ただ今回は身体的な技法の捉え方から見た独自の方法で読み解いていきます。
荒川博と合気道
まずは一歩足打法を生みの親(指導した)ともいえるのがコーチの荒川博氏(1930年8月6日 - 2016年12月4日)です。荒川氏がいなければ今の王貞治は存在しなかったでしょう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%92%E5%B7%9D%E5%8D%9A
荒川氏は元プロ野球選手でもありますが、合気道を合気道の開祖、植芝盛平翁から教わっていました。なのでコーチとして教えた選手に合気道を勧め習わせたりもしていました。
1956年に合気道を習いだしたようなので荒川さん本人が現役の時(26歳)から合気道を始めたようですね。合気道や居合を取り入れて教えて上手くいったのが王貞治という人物でした。全ての人が合気道と野球をミックスできたわけではありません。
もちろん色々な資質、体質の人がいるからというのも理由としては挙げられます。
それは合気道=野球というワケではないからです。これは他のスポーツも同じですね。
合気道≠スポーツ
もちろん専門外の競技から色々と取り入れて向上していく事は多々あります。武道、武術や合気道もスポーツと通じるところが沢山あります。
ですが基本的な身体意識バランスが違うんです。
基本的な身体というのは日常的な文化の身体ポジション。よく言われる農耕民族と狩猟民族のようなものだと思ってください。日常的な動作が違えばもちろんパフォーマンスをした時の動作が違います。
これは文化身体差とも言えるものですね。日本人が歌舞伎の真似事をやって何となく形になっているのと同じで身体的な使い方のポジションが日常では違ってくるんです。やはり外人に歌舞伎の形を教えてもどこか不自然なんです。
スポーツは西洋のものなので本来、日本人がスポーツをやっているシーンを西洋人から見たら何となく不自然なんです。今では見慣れてしまっているので感じないかとは思いますが…
スポーツのほとんどは欧米生まれの物です。なのでそういう欧米人的な体裁きや緊張感がどうしても必要になります。柔道も世界的に認知され横文字の「JUDO」となりましたが…本来の柔道とは違うものになりました。それは柔道が「スポーツ」という欧米式の枠組みに取り込まれたからです。
本来、柔道には体重別の階級という枠組みは存在しませんでした。
目的は「柔よく剛を制す」ことなので…そもそも体重が云々というものを必要としなかったからです。
実際、柔道では三船久蔵(1883年〈明治16年〉4月21日 - 1965年〈昭和40年〉1月27日)という方がいて、どんな大きな男もバッタバッタと倒していきました。そして三船久蔵氏は身長160cmにも満たない小柄な体格なのに全然投げられない。映像が残っていますが意味が分かりません。
https://www.youtube.com/watch?v=CcLFvJC3SKg
しかしこれが凄いからと言っても合気道家や武術家が実際に野球をやってもやはり好成績は残せないと思うのです。助言は出来ると思いますよ、桑田真澄選手は古武術研究をしている甲野善紀氏から色々と習いそれを取り入れて復活を遂げたわけですから。
うまく取り入れることができること、これは本人の資質によります。身も蓋もないですが…でもこの資質を成長させることができれば良いだけの話です。
王貞治の癖
荒川氏は王貞治のことを以下のように言っています。
二本の足ではどうしても突っ込んでしまうので一歩足にすることによってアクティブさを奪った形になります。
でもこの形は↓
動きたい → 動きを止める
という静止状態の事ではなく王氏の中では↓
動きたいけど動けない → もっと動きたいエネルギーが働く
ということでそのエネルギーが集約されて爆発的な力を生むに至ります。
元来あった放出的なエネルギーが集中したんです。
動く身体と振り子打法
同じような打法としてイチロー選手などの「振り子打法」があります。
「振り子」は絶えず動いています。
この動いていることを利用しエネルギーを瞬時に溜めていたんだと思います。
身体の中が流動的だと動いている物に対しても敏感になります。
警戒しているとわずかに動くものでも瞬時に反応がするんですね。
身体の中がお休みだとやはりわずかばかり遅れてしまうんです。
イチローはメジャー移籍後に振り子足打法を止めたそうですが、身体の中にその動く、流動的なものがあれば結果としては同じなんです。
これは見た目では分からないですし、単純に動作分析などで分かる世界ではありません。
動かない身体
一本足打法を習得しようとしても上手くいかなかった選手の中に駒田徳広氏がいます。
駒田氏本人は以下のようにインタビュー時に語っています。
ロダンというあだ名を付けられたこと。
そして本人自身が発言した「足を静止して構える」ということ。
この二つに共通することは「動かない」という事です。
王選手の真似をしようと王さんの構えの真似をする。
駒田氏には静止したように「見えた」のでしょう。
しかし王氏は「つっこむ」のが癖なんです。
なので止まっているけれど身体の中は常に「突っ込みたい」というエネルギーで溢れている。
なのでそもそものイメージの作り方が良くなかったんだと思います。
でもほとんどの選手がその部分が分からないから一本足打法は止めていくんでしょう。
王貞治の肩
そして王氏は『いかり肩』なんです。最初はピッチャーでしたが本人曰く「高校二年生がピッチャーのピークだった」そうです。その後は上手く投げれなくなってしまったようでプロに入ってから断念しています。
下半身の過剰の踏ん張りは肩にも表れます。
王氏は良くも悪くも足の踏ん張りが強いんです。
ピッチャーは踏ん張ってしまうと投げられなくなります。
野球などでは「胸を開かない」とか「体を開かない」とか「コンパクトに」とか言われます。
ただ腕を使う物事の場合はどうしても胸への意識は強くなります。なので開こうと思っているわけではなく「開いてしまう」という方が正しいのです。
これは下半身の踏ん張りからの影響でもあります。
細かく言うのであれば「膝の使い方(力の入れ具合)」に起因します。
(もちろん呼吸も関係します。)
いかり肩の問題としては「肩だけ」が上がっていしまっていると確かに問題があります。
漢字で書くと「いかり肩」は「怒り肩」なんです。
怒ったり、興奮したりする時の肩の形。
ある意味ではアクティブ(行動的)な姿なんです。
全身の繋がりとして肩が上がるのはまだ大丈夫ですがなかなかそうはいきませんね。
王氏は基本的に行動的であるが故に「突っ込む」と言う癖が抜けなかったんでしょう。
いかり肩が悪いとかそいうことではありません。
色々な使い方や繋がりがあるんです。
王貞治の足
やはり一歩足打法といえば足ですね。
ますは一本足打法を生んだ秘話があります。
https://youtu.be/dfVRXrNEHak?si=X2scbudGXJAgYyFE
いかに不安定さの中で「踏ん張らないように踏ん張れるか?」というのが一本足打法の要なんですね。若干、禅問答的な感じもしますが…
王貞治の足の裏
王さんの足の裏と長嶋茂雄さんの足の裏が「足のうらをはかる」(平沢彌一郎)に載っています。長嶋茂雄氏よりも接地面積が多いような印象を受けます。この分だけ踏ん張っているという事にも通じます。武道の言葉を使うと「居付いている」ということになります。
足の裏だけ見ると長嶋茂雄氏はその安定に対する「踏ん張り」が案外少ないんです。
「足指で握る力」と言った方が分かりやすいかもしれませんね。
自転車も同じで…タイヤは細ければ早くなります。太ければ安定はしますが遅くなります。それと同じで本来、アクティブな時は接地面は少ない方が良いんです。
片足にしたことにより不安定さは増します。
自転車と同じで不安定な分、速く動けるようになります。
自然な速さ・スピードが全身によって生み出され爆発的な力を生めるようになります。
https://www.youtube.com/watch?v=a11sSu3eENk&feature=youtu.be
16:10ぐらいで「私の意識は親指の骨の付け根、それから膝の内側」と言っています。前述した通り長嶋茂雄さんは恐らく足指では頑張らないタイプです。
足指での頑張りが少なくなってくるといわゆる『体幹』という部分の力が強くなりパフォーマンス力が上がります。
一本足にすることにより両足で踏ん張ることを止めさせた荒川コーチは合気道の開祖と言われる植芝盛平に直接指導を受けたことがあるそうです。
緊張感と練習
練習、トレーニング中での緊張感はとても大事です。
しかしその緊張感を生み出すのは意外と大変なんです。
王氏と荒川氏はどのような練習方法をしていたのでしょうか?
真剣での素振り
王氏が真剣で素振りをしている様子が残っています。
https://www.youtube.com/watch?v=q7p_sn0QGdM
真剣は緊張感が違います。そうなると当然パフォーマンスにも影響します。
やはり単純にバットを振るだけとはワケが違いますからね。
多くの人は真剣を用意できません…www
真剣以外の出来そうな練習方法として「狭い部屋」での素振りも緊張感を生む作用があったよす。
狭い部屋
王氏が狭い部屋で練習することをインタビューで答えています。
https://youtu.be/3XQmpHb7r3E?si=Pw3zBqHggtTRdrsk
上記の動画だと4:00頃の話です。
如何に緊張感が大事なのか…
どうしてもトレーニングのためのトレーニングで惰性になってしまっているとなかなか本番では良いパフォーマンスは出ないように感じます。
どうしたら超えられののか?
では今を生きる我々がどうやったら王貞治氏を超えられるのか?今の既存のトレーニングでは無理だと思います。「超えられていない」という結果が今のところ出ているからですね。
(もちろんそのうち出てくるとは思いますが…)
でも前述のような理由が分かってトレーニング方法が分かっていれば近づくことは可能だと思います。超えることも可能かもしれません。
ルールや細かいことを含め色々と違いがあるのも事実ですが
川上監督は当時の王選手の一本足打法に反対でした。「いつやめてくれるかな…」と思っていたそうです。実際に何度か忠告もしたようで…www
しかし王氏はその忠告を頑として聞かなかったようです。
荒川さんすら「足を上げることは間をはずされるってことでバッティングの定義からしたら絶対ダメだって言われている、私もそれは分かっている」と言っています。
それだけ常識外れの中に強さがあるんです。
日々の努力で超えられる?
でもそれは練習だけの賜物なのか?
答えはNOですね。
本人の素質も大事になります。
「素質がない奴はトレーニングしても意味がないのか?」という事になるのですが…
素質は変えられるんです。
というか作り上げることが可能だと思っています。
素質というは日々の息遣い、立ち方、歩き方、走り方、座り方、いわゆる「姿勢」に現れるからです。
最初に書きました「王は突っ込む癖があった」というのも姿勢の話。
そういう素質を作ればいいんです。
例えば日々の歩き方を少し変えたり、何気ない呼吸を少し変えたり…
何気ないことでその人の中身は変わっていきます。
その人の「素質」が変わるんです。
でも何気ないことを変えるのは実は一番大変だと思います。
何気ないことですから…
よほど意識しないと難しいんです。
でもその先には「本物」があると思います。
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