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ATC Journal

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龍谷大学社会学部・椿原ゼミによる読書案内とエッセイ。
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#読書案内

あなたも田舎暮らししてみない!?

【紹介書籍】玉村豊男(2007)『田舎暮らしができる人できない人』集英社  みなさんがもし「今、田舎暮らししてください」と言われたらどのように感じるだろうか。田舎暮らしと言われて1番の心配事は人付き合いではないだろうか。田舎には古いけど優しくて、温かい人間関係が生きている。「優しさと暖かさ」(p.132)をする田舎の人とされる都会の人との間のギャップが生じている。「トウモロコシやレタスも玄関の内側に置いてあったり、他人の家に黙って上がり込んでくる(p.136)」といったよう

黒人の身体能力は生まれつきなのか。

紹介書籍 『人種とスポーツ 黒人は本当に速く強いのか』 川島浩平(2012) 中公新書 多くの人は黒人について運動能力が高く、走りやジャンプ力があると思っているのではないでしょうか。最近では東京オリンピックがあり、陸上やバスケなどでの黒人選手の活躍が記憶に新しいと思います。しかし、水泳と言うとどうでしょう。あまり黒人選手が水泳で活躍しているところや出場しているところを見たことないはずです。本書は黒人の身体能力は生まれつき優れている」という主張を次の二つの点から再検討すること

白人の立場になってみる。

【紹介書籍】著者 ロビン・ディアンジェロ、監修 貴堂嘉之、翻訳 上田勢子、2021、『ホワイトフラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』明石書店  本書は、白人が日常的に行っているレイシズムについて指摘しています。また、差別行為をする白人の意識について具体例を用いて詳しく書かれています。    本書では、「レイシズムは複雑で微妙であるから、完璧に学習したり学び終えることはない。」(p10)と述べられています。また、レイシズムとは悪人だけが考える思想であり、一

なぜアメリカは同性婚を成しえたのか

[紹介書籍]小泉明子(2020)『同性婚論争「家族」をめぐるアメリカの文化戦争』.慶應義塾大学出版会株式会社  2015年6月、アメリカ合衆国において同性婚が実現された。過去に苛烈な同性愛者差別があった保守傾向の強いアメリカで、なぜ同性婚は実現しえたのか。この謎を紐解くために本書は、同性婚の実現を目指す権利運動と保守派のバックラッシュがもたらすダイナミズム、エイズパニックによる差別の激化など同性婚実現までの様々な歴史的背景を追っていくのだが、その中で私が常々疑問であった保守

様々な分野から見た「人の移動とエスニシティ」

【紹介書籍】 中坂恵美子・池田賢市編 (2021) 『人の移動とエスニシティーー越境する他者と共生する社会に向けて』 明石書店. 近年、グローバル化が進み、国境を越えて移動をする人が増えているように感じられる。それに伴い、移民や難民などの様々な問題も生じているように思われる。 本書では、このような国境を越えた人の移動やエスニシティの問題について、法学・社会学・教育学・歴史学・文学・DNA人類学・演劇などの様々な分野の専門家によって述べられている。 実際に本書の一部を紹介する

スポーツ都市戦略

紹介書籍 『スポーツ都市戦略』 学芸出版社 原田宗彦 本書では、都市戦略という視点から、エンターテインメント装置としてのプロスポーツの存在や、大規模スポーツイベントが誘致できる施設を持つことの重要性を指摘するとともに、住民の健康的な生活習慣を誘発するまちづくりや、地域の隠れた資源であるアウトドアスポーツを活用した地域の活性化について論じている。(p4) 第1章ではスポーツが「アマチュアイズム」から「ビジネスイズム」に変化した点に着目しスポーツが都市との関係に大きな影響を及

東京はオリンピックによって作られた?

川辺兼一(2018)『東京オリンピックと東京改造 交通インフラから読み解く』 光文社新書    本書は、2020年(新型コロナウイルス感染症の拡大 の影響で2021年に延期)に行われる東京オリンピックによってどのように東京を改造していくのか、過去に行われた1964年の東京オリンピックによって変化した東京を例にどのようなことが行われたかを論じている。  皆さんは2020年と聞いて何を想像するだろうか。多くの人は、東京でオリンピックが開催される年であると回答するだろう。多くの

寛容をめぐる一人の清教徒の生き様

〔紹介書籍〕森本あんり(2020)『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』新潮選書.  本稿で紹介する書籍(以下、本書)は、アメリカにおける異文化との共存の実現にはいかなる背景が存在するのか、そして寛容はいかにして可能なのかという議題を、ロジャー・ウィリアムズという一人の清教徒の人生に焦点を当てて論じている。  そもそも、〈寛容〉がどのような概念なのか?一般的に日本語においては、他者の言動を広い心で受け入れる、欠点や過失を厳しく責めない、という意味で用いられる[1]。し

いつも見ているCMが炎上したら?

[紹介書籍]瀬地山角(2020)『炎上CMでよみとくジェンダー論』光文社新書  本書の著者である瀬池山角さんは、主にフェミニズムの観点から語られることが多いジェンダー研究では恐らく“珍しい”男性の著者である。本書ではジェンダーの観点から批判が殺到し炎上したCMと、好評であったCMを比較することで日常生活に当たり前にある不平等な現状を解き明かし、またそれらの問題にどう向き合っていけばいいかが議論されている。本書に上げられているCMは実際に流れたものばかりで、見たことがある人も

アメリカ黒人史ー奴隷制からBLM運動までー

【紹介文献】アメリカ黒人史ー奴隷制からBLM運動までー ジェームズ・Mバーダマン 著 / 森本豊富 訳 黒人が奴隷として歴史に登場するようになったのは約400年前に遡る。その黒人史を扱ったのがこの一冊であり、ヨーロッパの植民地に奴隷として導入されるようになった初期の事柄から、近年のBLM運動(Black Lives Matter)以降の内容まで扱っている。また、黒人が「ジム・クロウ法」によってせべつされるようになった経緯が簡潔に記されており、アメリカ合衆国の黒人事情を初めて

子どもたちの言語の発達と「デジタル・テクノロジー」

【紹介書籍】バトラー後藤裕子 (2021) 『デジタルで変わる子どもたちーー学習・言語能力の現在と未来』 筑摩書房. 近年、テレビやスマートフォンなどが普及しており、多くの人々がこれらの機器を利用している。そして、これらの機器を使って、SNSなどを利用している人も多いように思う。 では、このような状況の中で、これらの機器を使うことは、若者の<言語能力>や言語の発達などにどのように関係しているのか。本書は、これらの問いについて考えることができるものである。 本書の第5章では、

バングラデシュの現状

【紹介書籍】『990円のジーンズが作られるのはなぜ?』(2016年、合同出版) 著:長田華子  この本のタイトルからファッション業界の話と思われる方もいるかもしれませんが、この本では開発途上国、主にバングラデシュでの労働環境について書かれている本です。こんなにも安くジーンズがを作ることが可能なのは、最低賃金以下で働かされることも珍しくない劣悪な労働環境で一日中働くことで作られた製品だからです。  基本的な労働時間は毎朝8時から夕方の17時までで、休日は週に1日と定められて

「差別」の変貌へ

[紹介書籍] 『レイシズムとは何か』 著者 梁英聖    本書では「レイシズム」とは何かを定義しながらレイシズムの歴史を扱っています。また、海外の国々だけではなく日本のレイシズムについても触れています。    まず「レイシズム」とは一体何を指すのでしょうか。日常的に使う言葉ではありません。本の中で「レイシズム」とは、劣っているものと優れているものに優劣をつけることであり、ある人種を絶滅させようとし、純粋に保とうとすることだと定義されています(p.48)。ナチスのユダヤ人虐殺が

ロックはどのようにして誕生したのか?

 この本は1940年代から65年までのロックンロールが誕生し、ロックに変容し、ロックが終焉するまでの道筋を音楽的ではなく文化的、社会的な観点から見た一冊となっています。以下では本書より、本書内にあるロックンロールが誕生し、ロックに変化する過程までを紹介したいと思います。  1940年代のアメリカ南部にはブルース、ゴスペル、R&B、カントリーという今ではルーツミュージックと呼ばれる労働歌が混在している状況でした。メンフィスは特に顕著で、メンフィスは南部の中では大きな都市であり、