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    龍谷大学社会学部・椿原ゼミによる読書案内とエッセイ。

最近の記事

白人の立場になってみる。

【紹介書籍】著者 ロビン・ディアンジェロ、監修 貴堂嘉之、翻訳 上田勢子、2021、『ホワイトフラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』明石書店  本書は、白人が日常的に行っているレイシズムについて指摘しています。また、差別行為をする白人の意識について具体例を用いて詳しく書かれています。    本書では、「レイシズムは複雑で微妙であるから、完璧に学習したり学び終えることはない。」(p10)と述べられています。また、レイシズムとは悪人だけが考える思想であり、一

    • 日本の移民政策のおかしさ

      【紹介書籍】高谷幸(2019) 移民政策とは何か;日本の現実から考える 人文書院  日本での「移民政策」とは長年「外国人材」は受け入れるが、定住化は可能な限り阻止しようという方針である。定住化の阻止は日本政府の過去三十年における政策方針の一つである。本書では過去の日本と海外における移民の経験を振り返り、定住化の阻止を貫いてきた政策が、移民と社会に何をもたらしてきたのか書かれている。  海外では第二次世界大戦後に高度成長期の人手不足を補うために「外国人労働者」を受け入れた。重

      • なぜアメリカは同性婚を成しえたのか

        [紹介書籍]小泉明子(2020)『同性婚論争「家族」をめぐるアメリカの文化戦争』.慶應義塾大学出版会株式会社  2015年6月、アメリカ合衆国において同性婚が実現された。過去に苛烈な同性愛者差別があった保守傾向の強いアメリカで、なぜ同性婚は実現しえたのか。この謎を紐解くために本書は、同性婚の実現を目指す権利運動と保守派のバックラッシュがもたらすダイナミズム、エイズパニックによる差別の激化など同性婚実現までの様々な歴史的背景を追っていくのだが、その中で私が常々疑問であった保守

        • 様々な分野から見た「人の移動とエスニシティ」

          【紹介書籍】 中坂恵美子・池田賢市編 (2021) 『人の移動とエスニシティーー越境する他者と共生する社会に向けて』 明石書店. 近年、グローバル化が進み、国境を越えて移動をする人が増えているように感じられる。それに伴い、移民や難民などの様々な問題も生じているように思われる。 本書では、このような国境を越えた人の移動やエスニシティの問題について、法学・社会学・教育学・歴史学・文学・DNA人類学・演劇などの様々な分野の専門家によって述べられている。 実際に本書の一部を紹介する

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          子どもたちの言語の発達と「デジタル・テクノロジー」

          【紹介書籍】バトラー後藤裕子 (2021) 『デジタルで変わる子どもたちーー学習・言語能力の現在と未来』 筑摩書房. 近年、テレビやスマートフォンなどが普及しており、多くの人々がこれらの機器を利用している。そして、これらの機器を使って、SNSなどを利用している人も多いように思う。 では、このような状況の中で、これらの機器を使うことは、若者の<言語能力>や言語の発達などにどのように関係しているのか。本書は、これらの問いについて考えることができるものである。 本書の第5章では、

          子どもたちの言語の発達と「デジタル・テクノロジー」

          バングラデシュの現状

          【紹介書籍】『990円のジーンズが作られるのはなぜ?』(2016年、合同出版) 著:長田華子  この本のタイトルからファッション業界の話と思われる方もいるかもしれませんが、この本では開発途上国、主にバングラデシュでの労働環境について書かれている本です。こんなにも安くジーンズがを作ることが可能なのは、最低賃金以下で働かされることも珍しくない劣悪な労働環境で一日中働くことで作られた製品だからです。  基本的な労働時間は毎朝8時から夕方の17時までで、休日は週に1日と定められて

          バングラデシュの現状

          「差別」の変貌へ

          [紹介書籍] 『レイシズムとは何か』 著者 梁英聖    本書では「レイシズム」とは何かを定義しながらレイシズムの歴史を扱っています。また、海外の国々だけではなく日本のレイシズムについても触れています。    まず「レイシズム」とは一体何を指すのでしょうか。日常的に使う言葉ではありません。本の中で「レイシズム」とは、劣っているものと優れているものに優劣をつけることであり、ある人種を絶滅させようとし、純粋に保とうとすることだと定義されています(p.48)。ナチスのユダヤ人虐殺が

          「差別」の変貌へ

          なぜ集団は暴走するのか

          〔紹介書籍〕田野大輔(2020)『ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか』.大月書店 この本の題名だけを聞くと「ファシズム、ナチスに興味がある人向けかな」とか「ドイツや差別の歴史に興味がある人用の本かな」と思われるかもしれないですが、それだけに限定された本ではなく、ジェンダーや人種差別、学校でのいじめなど様々な差別や暴力が起こるときの、集団の構造や人の心理の動きについて詳しく述べられているため身近に感じる内容も多く、読みやすい一冊といえます。 本書からなぜ人の心理などがわ

          なぜ集団は暴走するのか