様々な分野から見た「人の移動とエスニシティ」
【紹介書籍】
中坂恵美子・池田賢市編 (2021) 『人の移動とエスニシティーー越境する他者と共生する社会に向けて』 明石書店.
近年、グローバル化が進み、国境を越えて移動をする人が増えているように感じられる。それに伴い、移民や難民などの様々な問題も生じているように思われる。
本書では、このような国境を越えた人の移動やエスニシティの問題について、法学・社会学・教育学・歴史学・文学・DNA人類学・演劇などの様々な分野の専門家によって述べられている。
実際に本書の一部を紹介すると、第3部には、<日本の歴史と現在>ということをテーマに、DNAによって明らかにされた人類の広がりや<日本列島集団>が成立する過程について、日本から海外への移住の歴史、<在日コリアン>について、日本の入管法の歴史と様々な問題について述べられていた。この中でも、DNAによって明らかにされた人類の広がりや<日本列島集団>が成立する過程について述べられている第8章を紹介する。
本章では、ホモ・サピエンスが化石のゲノムの研究から50~60万年前頃に最も近い人類とされるネアンデルタール人から分かれ、およそ1万年前になると、世界で農耕を始める集団が出現し、それが定住や文明の発生を促進するようになったというような歴史についてなどが述べられていた。また、著者によれば、最近では集団ができるまでの歴史の大部分はゲノムの研究によって追究されているとされており、「ミトコンドリアDNAの系統解析の結果」を表した図や、ゲノムにある<SNP>と呼ばれる<1塩基の違い>を用いて集団の分析をした図、現代の日本人を含んだ東アジアの集団と縄文人、弥生人の<SNPデータ>を用いて集団の関係を表した図などの様々な図を用いながら、人類の広がりについてや日本人の起源について、<日本列島集団>が成立した過程についてなどが述べられていた。以上のことから、本章では様々な図なども見たりしながら、これらのことついて知ることができるように思われる。
本書には、このように日本に焦点を当てた話題以外にも、国際法に関してや、フランス・ドイツ・アメリカ・中国などの世界各国における人の移動や移民、エスニシティについてなどが述べられている。私は本書を読む前までは、人の移動や移民についてあまり知らなかったが、本書を読んで少しでもこれらのことについて知ることができたように感じられた。
このように本書は、様々な分野から国境を越えた人の移動やエスニシティについて学ぶことのできる一冊となっている。皆さんも機会があれば、手に取ってみてはいかがだろうか。(K.S)