エンタープライズセールスでは必ず「パーソナルウィン」を考えよう
全5回でエンタープライズセールスのノウハウを解説しています。最終回はチャンピオンとの交渉で欠かせない「パーソナルウィン」について。
これまでの記事はマガジンをご覧ください。
さて、これまでチャンピオン、エコノミックバイヤー、ニセチャンピオンといった面々の話をしてきましたが、最後に「コーチ」という属性の人もご紹介します。
コーチは味方につけておきたい
コーチは自社にとって好意的な人ではあるものの、推進力がなかったり、エコノミックバイヤーに対しての影響力はない人です。役職はそんなに高くありません。
その反面、実務担当者であるケースが多いです。つまり実際にいま営業をかけているツールを使う立場の人たちだったりします。
なので彼らは社内の状況をよく知っています。その人が積極的に推進することはできないですが、さまざまな情報を引き出せることが多いですね。味方にはつけておきたい人です。
ここで登場人物を整理すると、チャンピオン、エコノミックバイヤー、コーチ、そして場合によってはニセチャンピオンに、ニセコーチもいます。
商談で5〜6名が出てきたときに、これを見極める必要があります。ときにはまったく関係ない人も参加していたりするのでかなり難しいです。
会社に戻ったら、アカウントプランと組織図に商談の参加者の名前を追記していって、その名前の横に、この人はチャンピオン、この人はコーチみたいなタグをつけていきます。
コーチは大量にいることもあるので、そこも見極めますし、チャンピオンが複数人いることも場合によってはありえます。複数人のチャンピオン、複数人のニセチャンピオンがいたらもう大変です。冷静に見ないと騙されます。
でも、前にも書きましたが、エンタープライズセールスはロジックだけでは決まらないんです。
パーソナルウィンを考えよう
BtoBは一般的に“経済的合理性があれば決まる”と言われます。実際にそういう分野もあります。
例えば中小企業だと経営者と商談をすることがありますが、会社にとってのメリットは経営者にとってもメリット。そこは確実にイコールなので目の前の人を説得すれば契約が取れます。
でも、特にエンタープライズセールスに関してはそうではありません。
大企業だといろんな人が出てくるので、会社にとってのメリットだけでなく、その人たち自身のメリットを考えなければいけません。
会社にとっては経済的にも絶対に理にかなっているのに、目の前の商談相手にとっては仕事が増えるだけで、直接的なメリットがないというケースもけっこうあります。
当然チャンピオンの方に推進してもらう必要がありますし、最後はエコノミックバイヤーの方ともコミュニケーションをとってもらうので、ただプロダクトが優れているだけだと進まないんです。
だから普通じゃダメ。なんというか、「こいつやるな」って思ってもらわないといけないですし、チャンピオンにも相応のメリットが出るような提案をしないといけないんです。
そういった個人にとってのメリットを、法人営業の世界では「パーソナルウィン」と言います。この言葉はよく出てきます。
「わかった。この会社にとっては費用対効果が明確に良くなるし、会社としてのメリットは大きい。じゃあ、担当者のパーソナルウィンはなんなんだ?」
こんな会話はエンタープライズセールスあるあるです。「この方がこれを推進してくれる理由はなんなの?」。営業が上司から必ず聞かれる質問です。
パーソナルウィンとは具体的にどんなものがあるのでしょうか。
たとえば、このプロジェクトをこのチャンピオンが推進したことで、その方の手柄になるというのが代表的なものです。そこらへんの個人的な欲求をちゃんと把握して、さりげなく立ててあげます。
これはあまりストレートに言っても相手が嫌がるので、あくまでさりげなくが鉄則です。「他社だとこういうこと(担当者の出世)が起きました」とさらっと言っておく。そういう演出までするのが望ましい。
なんかドラマみたいというか、経済小説みたいな世界ですよね。
身なりも大事なエンタープライズセールス
エンタープライズセールスの人は髪型とか着てる服とか靴とか、みなさんかなりのこだわりを持っています。
最近だと多様性という言葉も騒がれていて、営業だって金髪でヒゲを生やしていてもいいじゃないかとか言われますが、エンタープライズセールスで売れてる人に金髪はいないです。少なくとも僕は見たことがないです。
相手にネガティブな感情を持たれたら終わりなので、100人会ったら1人でも2人でも嫌に思うであろう可能性があればトコトン排除していきます。
もちろん最近は理解ある方もいて、「若い人は金髪でもいいんじゃない」なんて言う人もいますけど、大企業の50代以上のおじさまたちは、少なからず金髪の営業が来たら不快に思うのではないでしょうか。
マイナスになりそうなことは一切やらない。不測の事態は排除するように、身だしなみはとにかく無難にする。限られた見込み客を確実に落とさないといけないので、変に冒険する意味なんてありません。
キーエンスなんかはまさにそう。キーエンスの営業は全員スーツ着用で、Yシャツは全員白ですね。
柄物のYシャツは、どんなにオシャレなものでもお客様から不快に思われる可能性があります。好き・嫌いがあると、それすらリスクなんです。少なくとも白いYシャツにネクタイをして、スーツを着てれば不快になるお客様はいないですから。
ちなみにエンタープライズセールスが目標達成したら、福利厚生で高級なスーツをプレゼントする会社もあります。彼らの場合、ちゃんと体に合った、1着数十万円するオーダーメイドのスーツを着ているので。
これはもうロールプレイングゲーム
まとめに入りましょう。エンタープライズセールスのプロセスは、もう決まっています。
1)まず狙うべき会社を決める。
2)アカウントプランを作る。
3)手紙やDM、テレアポなどで最初の接点を取りに行く。
4)少しずつ関係を作りつつ、チャンピオンと会う。
5)意思決定プロセスや関係者を把握していく。
このループを繰り返します。これを担当する10社で繰り返していくのです。
一発目でチャンピオンにたどり着けることもあれば、何回も訪問して意思決定者がわかっていくこともあるので、商談や会食も含めて何度もループしながら、攻略していく。
これはもうロールプレイングゲームです。そこに楽しみを見いだせると非常におもしろい仕事だと思います。
新年度になると組織編成がガラッと変わることもあるので、やっぱり半年とか1年間である程度結果は出してつなげていきたい。人事異動で組織が再編されたらまた1から振り出しに戻ってしまいます。
しかし逆にいえば、チャンピオンを把握して商談して全然うまくいかなかったとしても、期が変わると別のチャンピオン出てきて、再びチャンスが得られることもあります。
チャンピオンとかエコノミックバイヤーの方はいずれにしても出世頭なので、違う事業部に移ったとしたら、そちらの事業部でもお客さんになり得る可能性があるわけです。
だから売って終わりではなくて、そこからどんどんアップセル・クロスセルも考えたいですよね。一度接点を持てたチャンピオンは売った後も付き合いをつなげていって、他部署に行っても話ができるようにしておくのが大事です。
僕も昔、キーエンスの新規事業部門にいたとき、とある大企業と取引を開始してもらったことがありました。いろんな部署で実績を作ってからその会社の本丸の事業までたどり着くまでに3年かかりました。
そのときの相手企業のチャンピオンの方は当時50代でしたが、その方が退職されるまでずーっと付き合いが続きました。
過去に出会ったチャンピオンの方々はすごく偉い立場になっています。やっぱり彼らは転職しても転職先でチャンピオン的なポジションになります。
直接のクライアントではなくなったとしても、チャンピオンとの関係維持はエンタープライズセールスにとっては重要な仕事です。
※メルマガでもBtoB企業のグロースに役立つ情報を配信しています。よかったらこちらもお楽しみください。