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[TechGALA イベントレポート]地方から世界へ:地域資源を活かしたグローバルイノベーションの可能性
登壇者
岡住修兵
稲とアガベ株式会社 代表者
福岡県北九州市出身。大学卒業後、秋田県で酒造りを学ぶ。2021年に秋田県男鹿市に「稲とアガベ醸造所」をオープン。新ジャンルのお酒「クラフトサケ」造りを行うとともに、レストラン「土と風」を経営。2023年春、食品加工所「SANABURI FACTORY」を立ち上げ、酒粕をマヨネーズにする加工生産を開始。同年8月一風堂監修レシピのラーメン店おがやを立ち上げ。クラフトサケブリュワリー協会初代会長。Forbes JAPAN CULTURE-PRENEURS 30。ICCクラフテッドカタパルトグランプリ。
加藤史子
WAmazing株式会社 代表取締役CEO
慶應SFC卒業後、リクルートにてインターネットでの新規事業立ち上げを経験し、主席研究員として観光産業調査研究・事業開発に従事。2016年7月、訪日外国人旅行者による消費を地方にもいきわたらせ、地域の活性化に資するプラットフォ-ムを立ち上げるべく2016年7月、WAmazing株式会社を創業。コロナ禍期間中を乗り越え、日本のナンバーワン外貨獲得産業になりうるインバウンド市場で日本経済の再興・地方創生を実現するプラットフォームサービスを作るべく挑戦中。
はじめに
地方創生が叫ばれて久しいが、いま、その様相が大きく変わりつつある。かつての「東京一極集中」から「地方から世界へ」という新たな潮流が生まれ、地域固有の課題解決から、世界に通用するイノベーションが次々と生まれている。
2月に開催されたTechGALAのセッション「地方から世界へ:地域課題解決を通じたイノベーションの新潮流」では、地域発のイノベーションを実現している二人の起業家が登壇。秋田県男鹿市で新しい酒造りと街づくりに挑戦する稲とアガベ株式会社代表の岡住修兵氏と、訪日外国人向けプラットフォームを運営するWAmazing株式会社代表取締役CEOの加藤史子氏が、地域から世界へ直接つながる新時代の可能性について語り合った。
地域発イノベーションの具体例:男鹿市の挑戦
新たな酒造りへの挑戦
岡住氏は、人口減少が進む秋田県男鹿市において、新ジャンル「Craft SAKE」の開発を軸に、地域活性化に取り組んでいる。日本酒の技術をベースに、ハーブなどを加えて発酵させる新しい製法で、従来の日本酒の概念を覆す試みを展開。「お酒は地域のメディアだ」という考えのもと、その土地の食文化や歴史を世界に発信する手段として活用している。
空き家活用による街づくり
創業から3年で8拠点を展開し、総額6.5億円の資金調達を実現。特筆すべきは、ほぼ無担保での資金調達を実現し、地域金融機関からの全面的な支援を受けている点だ。空き家となった建物をレストランや食品加工場、ホテルへと改装し、街に新たな賑わいを創出している。
一風堂と協力したラーメン店の出店では行列ができる人気店となり、かつての寂れた街並みに人の流れが戻ってきた。さらに、東北電力の旧社宅や鉄工所を改装した蒸溜所の設立など、地域資源を最大限に活用した展開を続けている。
大企業との共感ベースの協業
注目すべきは、NTTや三菱地所、ダイハツなどの大企業が、資金的支援ではなく「共感」ベースで事業に参画している点だ。地域課題解決への真摯な取り組みが、予期せぬ形での協業を生み出している。
インバウンドトレンドと地方創生
変わりゆく訪日観光の形
加藤氏は、近年の訪日外国人観光の変化について興味深いデータを示す。2018年時点で、訪日外国人の4人に1人が、成田や関西国際空港ではなく地方空港から直接入国している。例えば香川県は、2012年から2019年の間で外国人宿泊者数が47都道府県中最も高い伸び率を記録。これは高松空港の国際線拡充による効果が大きい。
リピーター増加がもたらす地方観光の可能性
特に注目すべきは、訪日リピーターの動向だ。観光庁の調査によると、初回訪日では東京・大阪などの大都市圏に集中する観光客も、訪日10回以上のリピーターになると、地方都市への訪問率が大きく上昇する。例えば、台湾からの観光客は、リピート回数が増えるほど滞在日数が長くなり(7-8日程度)、訪問地域も日本全国へと広がっていく傾向にある。
食とお酒を軸とした観光需要
2024年には3,600万人の訪日外国人が約8.1兆円を消費し、日本のアパレル市場に匹敵する規模となった。その中で、最大の目的は「日本の食とお酒を楽しむこと」である。例えばスキーなどのアクティビティは季節性があり、年間150万人程度の利用に留まるのに対し、食とお酒は年間を通じて全ての観光客が楽しむコンテンツとなっている。
日本酒産業のグローバル展開
伝統と革新の共存
日本酒業界において、革新的な取り組みを行う際の課題の一つは、新規参入の難しさだ。岡住氏によると、日本酒製造免許の新規取得は実質的に不可能に近く、そのため同社は「その他の醸造酒」という区分で事業を展開。この制約を逆手に取り、従来の日本酒に捉われない新しい製品開発を可能にしている。
獺祭に見る成功モデル
業界の先駆者として、獺祭(旭酒造)の事例が示唆に富む。現在の売上高約200億円を1,000億円に伸ばすことを目指す同社は、最新のデータ活用と職人技の融合を実現。3,000リットルという比較的小規模なタンクでの製造にこだわり、品質管理を徹底している。約200人の若手社員が活躍し、家内制手工業の良さを保ちながら、グローバルブランドとしての地位を確立している。
Craft SAKEの可能性
岡住氏は、Craft SAKEについて「寿司で言えばカリフォルニアロールではなく、世界各地で独自の進化を遂げた寿司のような存在を目指している」と語る。日本人には日本酒に対する固定観念が強い一方、海外では先入観なく受け入れられる可能性が高い。この特性を活かし、世界の飲み物としての新たな地位確立を目指している。
これからの地方創生のあり方
東京を経由しない世界とのつながり
かつての「海の時代」から「陸の時代」を経て、今や「空の時代」が到来している。地方空港の民営化により、世界との直接的なつながりが生まれ、東京を経由する必要性は薄れつつある。例えば、香港から高松への直行便は週10便を数え、地域と世界を直接結ぶ新たな動線が形成されている。
地域固有の文化や資源の再評価
男鹿半島の事例が示すように、「半島」には独自の文化が色濃く残されている。北前船の時代に栄え、その後の陸上交通の発達により一時は取り残されたような地域こそが、むしろ文化的な「タイムカプセル」として、世界からの注目を集める可能性を秘めている。
発酵文化など日本の強みの活用
愛知県の事例では、味噌、酢、醤油などの発酵食品製造の技術が、化粧品製造などの最先端産業にも活かされている。私たちが当たり前すぎて気付いていない地域の強みが、実は世界で高い評価を受ける可能性を持っている。
まとめ:地域からグローバルへの新しい潮流
本セッションを通じて浮かび上がってきたのは、「地方」と「グローバル」は必ずしも相反する概念ではなく、むしろ地域固有の資源や課題に真摯に向き合うことで、世界に通用するイノベーションが生まれる可能性だ。
重要なのは、東京や大都市の真似をするのではなく、その地域ならではの特性を活かすこと。Craft SAKEの例のように、伝統を基盤としながらも新しい価値を創造する姿勢や、獺祭のように品質へのこだわりと革新性を両立させる approach が、これからの地方創生の一つのモデルとなるだろう。
インバウンド需要の回復と共に、世界と地方が直接つながる機会は更に増えていく。その中で、地域の課題解決から生まれたイノベーションが、世界の課題解決にも貢献していく―そんな新しい時代の到来を、このセッションは予感させるものだった。
終わりに
「お酒はメディアである」という岡住氏の言葉が象徴するように、地域の資源は単なる商品以上の可能性を秘めている。それは地域の歴史や文化、人々の営みを世界に伝えるメディアであり、世界との新しいつながりを生み出すきっかけとなる。地方創生は、もはや地域振興という枠を超え、世界に向けた新しい価値創造のステージへと進化している。
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