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#55 ネガティブな感情のポジティブな側面 - ポジティブ心理学 -

ここではポジティブ心理学やモチベーションの研究における「ネガティブな感情」について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、「自分はできる」というマインドセットが自分の行動にどのように影響を与えるかについて、一緒にみてきました。

モチベーションとは「行動に影響を与えるもの」を指しますが、その意味において、「怖いから逃げる」といったように、感情もモチベーションとして捉えることができます。今回の記事では、ポジティブ心理学やモチベーション研究の観点から、不安や怒りなどの「ネガティブな感情」について、一緒に学んでいきたいと思います。


「ネガティブな感情」も大事な感情

まず、皆さんは「ネガティブな感情」と聞いたとき、どんなことを思い浮かべますか?おそらく、悲しい、寂しい、つらい、怖いなどのネガティブな気持ちを連想するんじゃないかなと思います。これらの感情は「快」か「不快」かと聞かれたら、不快な感情であり、できることなら、あまり感じたくない感情ですよね。好き好んで「いっぱい寂しい気持ちになりたい!」という人はあまりないんじゃないかなと思います。

一方、皆から嫌がられるこのネガティブな感情も、時として、とても大切な役割を果たしてくれるときがあります。

例えば、以下の絵。この人、どのような感情を感じていると思いますか?

おそらく、「恐怖」を感じているんじゃないかと思いますが、もし、「怖い」というこの「恐怖」の感情がこの人の中で湧いてこなかったら、どうなっちゃうでしょうか?言わずもがな、猛獣にやられちゃいますよね?これはちょっと極端な例なんですが、僕たちの日常生活の中でも、「恐怖」というネガティブな感情は、自分自身の身を守るために湧き起こってくる大事な感情なんです。

各々の「感情」には役割がある

不快であるがために、僕たちは「ネガティブな感情」を悪いものと考えがちですが、実は感情に良いも悪いもありません。「感情」とは、ある出来事が起きたときに湧き起こる身体的な反応であり、また、「恐怖」が自己防衛という役割をもっているように、それぞれの感情には特有の役割が備わっています。そのため、ネガティブな感情は、いくら不快なものであっても、時と場合によって、とても役に立つことがあるんです。

例えば、「怒り」という感情を見てみましょう。この感情はどんな時に役立つと思いますか?ご自身が怒ったときのことを思い出してみてください。

おそらく、何かを侵されたり、不正が蔓延っているとき、それらを正す行動を起こすための原動力になっていたりしたんじゃないでしょうか?一つの例として、僕が今住んでいるフィリピンでは、政治が日本と比較できないほど腐敗しており、フィリピン大学の学生をはじめ、よくデモが起きています。「怒り」の感情があるからこそ、社会正義が促進されるわけなんですね。

政治が腐敗しているとき、「怒り」の感情が無かったら、何も変わらない
フィリピン大学の学生は活動家が多く、よくデモが起きる

「怒り」の他にも、「不安」という感情は何か悪いことが起きていることを知らせてくれる「警報アラーム」としての役割をもっていますし、「悲しみ」という感情も、内省を促し、自分が助けを求めていることを周りに伝える役割をもっています。

「ネガティブな感情」の意味を考える

よくポジティブ心理学やウェルビーイングのお話になると、日常生活の中でいかにポジティブな感情を増やし、ネガティブな感情を減らすかばかりが語られますが、このように、時として、ネガティブな感情も僕たちにとって大切な感情なんです。そのため、もし日常生活の中で、不安や怒りなどのネガティブな感情が湧いてきたら、それらの感情を忌み嫌い、無くそうとするのではなく、「なぜ、この感情が今、湧き起こってきたのか?」を自問自答してみることをお勧めします。「この感情は、どのように自分の役に立っているだろう?」と自分自身に尋ねてみてほしいんです。そうすることで、きっと、そのネガティブな感情が果たそうとしている役割が明確になり、適切にその感情を受け入れ、対処しやすくなると思いますんで、ぜひ、試してみてください。

不快な気持ちを感じたときは「なんで今、こんな気持ちなんだろう?」「この気持ちは自分に何を教えてくれているんだろう?」と自分自身に尋ねてみる

役割を理解して、うまく活かす

因みに、僕は今、フィリピン大学の心理学部で大学生にポジティブ心理学を教えているんですが、ポジティブ心理学を単なる「ネガティブなことを避けて、全てを前向きに捉えて、しあわせになろう」というポジティブ思考と誤解してほしくないため、一番最初の授業で、この「ネガティブな感情のポジティブな側面」についての授業をし、「これもポジティブ心理学なんだ」というお話からスタートしています。(このようなネガティブなもののプラス面や、ポジティブなもののマイナス面についての研究を ”ポジティブ心理学2.0” と言います)

その後に続く講義で、強みやウェルビーイング、レジリエンスからセルフ・コンパッションなど、さまざまなトピックを授業で扱うんですが、学期末の最後の課題の振り返りエッセイでは、毎年、約8割の学生たちが、このコースを受講した中での最大の学びとして、この「ネガティブな感情も大事な感情である」ということを挙げてきます。一番最初の授業で扱うトピックなので、「その後は無いんかい!笑」と思わず、呟いちゃいますが、小さい頃から「泣くな、笑いなさい」「いつも笑顔でいなさい」と親に言われて育ち、「怒りは ”悪” だから、許して感謝しなさい」というキリスト教の教えを学んできた彼らにとって、「怒っていいんだ」「悲しんでいいんだ」というメッセージは、なんだか解放されたような感じで、これらの不快な感情への対処がより上手になったという声をよく伺います。ネガティブな感情を避けようとするよりも、それらの良い面に気づいていくと、受け入れやすくなりますよね。皆さんも是非、ネガティブな感情を忌み嫌うのではなく、その役割を知って、ネガティブな感情のポジティブな側面をぜひ、日常生活でうまく活用されてみてください。

フィリピン大学でポジティブ心理学を学ぶ大学生たち。笑顔でいることに価値が置かれる文化圏で育ったことで、「自分のネガティブな感情は避けること以外、対処法がわからなかった」と話す学生も。

さて、ここでは「ネガティブな感情」の役割、そして、その役割を知ることの重要性について一緒にみてきました。不快な感情はできれば避けたいものですが、喜怒哀楽、ポジティブな感情もネガティブな感情も、さまざまな感情を経験するからこそ、人として成長したり、人生がより豊かになっていくものだと思います。次回、ネガティブな感情が湧いてきたときは、ぜひ、ここで気づいたことや発見したことを思い出してみてくださいね。次回の記事では、とは言っても、ネガティブな感情ばかりになって、自分の人生が振り回されないようにするための対処法についても、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Kashdan, T., & Biswas-Diener, R. (2014). The upside of your dark side: Why being your whole self - not just your “good” self - drives success and fulfillment. Hudson Street Press

Wong, P. T. P. (2011). Positive psychology 2.0: Towards a balanced interactive model of the good life. Canadian Psychology / Psychologie canadienne, 52(2), 69–81.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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