今年買った本の合計と内訳を見て絶望する 2022年
みんなー! 今年、どれくらい本買った? 私はたくさん!
本を買うのにはお金がかかる。現代社会において、信頼できる知識を得るためには歯車となる必要があるわけだ。私もそのご多分に漏れず、頑張って小銭を稼いで、少しだけ本を買った。
ところが、年末を迎えるにあたって諸々の片付けをしていたときのことだ。おかしい。やけに残高が少ない。そんなに贅沢しているつもりはないのに。
今年の買い物を思い返してみる。冬服、本、本、断線したイヤホン、本、本、本、断線した充電ケーブル、本、本、本、本……。
これはもしや、本を買いすぎなのではないか……? そんな不安に駆られ、私は今年買った本の合計と内訳を算出してみることにした。
頭の悪い集計結果を先に見せるぜ!
おいおいおい。その日暮らしの零細フリーランスが使っていい額じゃないぞ。どっから捻出したんだ。食費少ないと思ったわ。
合計冊数は122冊。今年100冊も本読んでないのに、どうして122冊買ってるんだ私は。ここは図書館じゃないのに。
そして合計金額は152,095円。15万円超え! 普通二輪免許取るための予算とiPad買うための予算どこ行った……?
ただ、本当にほしいと思った本だけを買ったのは事実だ。その気持ちに偽りはない。なんか浮気バレて開き直ったやつみたいで嫌だな、この言い回し。二度と使わん。
せっかく集計のためにデータを集め、122冊分の本を見直したのだから、色々とやってみたいことが出てきた。各月ごとに「この本は特に良かった」を紹介するとか、一番よかった本はどれだったかとか……。
各月のレポートとお気に入りの本
1月:講談社学術文庫のKindleセール
Amazonが不定期に行う出版社別のKindleセールは気づかないうちに私の銀行口座からお金を抜いていく。講談社学術文庫はその最たるものだ。
講談社学術文庫は文字通り講談社の文庫判学術レーベルで、特に人文・社会科学に強い。古典新訳も多く刊行しているし、絶版した学術書の復刊もこのレーベルから出ることが多い。
そういうわけで、ついつい買ってしまうのだ……専門知がワンコインで手に入るんだから、惜しくない。当時の私は塵も積もれば山となるという言葉を知らなかったらしいな。
特に面白かったのがこの『黄金の世界史』(増田義郎、講談社学術文庫、2017年)で、人類が黄金を追い求めた歴史を古代から現代まで辿ることができる。地図付きなのもいい。
ただ黄金にまつわるエピソードを紹介する形ではなく、経済や宗教、社会、地理に至るまで、多角的に黄金と人々の流れを俯瞰している。
たとえば「第一章 古代の黄金」では貨幣経済の成立について言及しているし、ギリシアで銀貨が貨幣として金貨より先に流通した理由について興味深い考察も提示している。
もちろん、古代で言及されるのはオリエントだけではない。古代アメリカ、とりわけ中央アンデスにもかなりの紙面を割いている。
黄金というテーマの性質上、この手の歴史系学術書では軽視されがちだったメソアメリカ文明にスポットライトが当たるのは当然と言えば当然だろう。
それはそれとして、ただ収穫される後進文明としてではなく、独自性のある文明のひとつとして他文明と同列に古代アメリカをしっかり扱っているのが好印象だった。
物理書籍で一番お気に入りだったのは『クロコダイル路地』(皆川博子、講談社、2016年)だ。上下巻の小説で、フランス革命期の動乱を生々しいリアリティに載せて描いた名作。
しばしば美化されがちなフランス革命の残酷で血なまぐさい側面をここまでのクオリティで出してくるとは、さすが皆川博子……。どうしてまだ読んでいなかったんだろうかと思ったくらいだ。
フランス革命を描いた作品で有名なものといえば『レ・ミゼラブル』がよく挙がるが、ここまでミュージカルなどで美化されるようになるとは、強硬な反ナポレオン独裁体制の政治家でもあったヴィクトル・ユーゴー本人も予想していなかっただろう。
皆川博子は歴史の中で生きている人間を、それも小市民を書くのが本当にうまい。ただ小市民として特徴を削ぎ落として擬人化したようなキャラクターを出すのではなく、どこか屈折した、生々しい人間がそこにいる。
皆川博子作品で一番好きなのは『少年十字軍』だ。神のお告げを受けた少年とはみ出しものの子どもたちが聖地奪還を目指して進む、残酷なほど純真な物語。『クロコダイル路地』はあれよりももう少し屈折していて、味わい深い作品だった。
2月:古本を甘く見て資料に散財
Amazonでは新刊を買わないと決めている。本の扱いがあまりに悪いからだ。下手するとカバーが少し破けた状態で届くこともある。
一方で、Amazonマーケットプレイスは国内トップクラスの古本流通量を誇る。昔ながらのせどり師からネット通販に対応した古本屋、無料回収した本を薄利多売で捌くブックオフスタイルの店まで様々だ。
そういうわけで、Amazonでは古本をついつい買ってしまう。
岩波文庫の『ニーベルンゲンの歌』を買った。家にある岩波文庫の大半は古本で買っているかもしれない。岩波文庫は一度新刊在庫が切れると増版までかなり待つことになることが多いのだ。
竜退治で不死身になった英雄と、その死。そしてその妃による復讐劇。ドイツの有名な古典だが、真面目に読んだのは初めてだった。
訳のおかげか、詩としての美しさと物語としての物悲しさが同時にすっと流れ込んでくる。かなりクオリティが高い。色褪せない良さというものを久しぶりに感じて嬉しくなった。
翻訳者の相良守峯は独文学者。独和辞典の編纂者としても有名で、その独和辞典は共同編纂者の木村謹治とあわせて「キムラ・サガラ」と呼ばれていたかつての定番だ。
岩波文庫は絶対に押さえておきたい古典を多く刊行している割に、意外と電子化されていない。岩波文庫読み放題のサブスクとかあったら全然入っちゃうけどな。
音楽を小説で表現することについて色々と考えていた時期だったので、流石に読んでおくべきかと思い買った。
『蜜蜂と遠雷』(恩田陸、幻冬舎文庫、2019年)は実写化もされているし、好きな作家として恩田陸を挙げる人も多い。この作品を知らない人は少ないだろう。
音楽、そして音楽に携わる人々を描いた群像劇だ。私自身は音楽をやらないものの、一応はクリエイター、エンターテイナーであることをアイデンティティのひとつとしている身だから、胸に刺さるものはあった。
若者が抱く理想と直面する現実、相対的な才能の不足を感じてしまう苦しみという大枠自体はそれほど目新しいものではない。それを音楽業界で、小説でやったのはとてもすごい。
広い意味での「アートと小説」を人に紹介するきっかけとしても役に立ってくれた作品だった。ここから原田マハに手を伸ばした人もいるし、津原泰水に興味を持った人もいる。
『蜜蜂と遠雷』を読んだ人には『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』もすすめたいと常々思っていて、それだけに10月2日に突如飛び込んできた津原泰水の訃報は本当にショックだった。
3月:さすがに節約したつもりだった
1月と2月で合計31冊も買っている。馬鹿だ。馬鹿なので「買わない」という選択肢が出てこない。
とはいえ、買ったのは本当に4冊だけで、それも資料だけだった。
"A directory of British Peerages: From the Earliest Times to the Present Day" (Francis L. Leeson, Clearfield Company, 2003) はおそらくほとんどの人にとって触れる機会もないであろう、しかし私には今年購入した本の中でもトップクラスに価値のある資料だ。
これはいわゆる貴族名鑑というやつで、イギリス貴族の爵位およびその爵位を保有した家名・人名、保有していた期間がアルファベット順にまとめられている。
階級社会なだけあって、イギリスでは多くの伝統的な貴族名鑑が刊行されている。ただ、それらはいずれも分厚くて閲覧が大変だったり、個人輸入しか入手手段がなかったり、かなり高価なサブスクでのオンラインサービスに移行していたりする。
そんな中、この一冊は本当に入手しやすく、閲覧しやすい。創作に重宝している。だれも保有していない爵位というのは迷惑をかける可能性が低いから扱いやすいのだ。
『ワインの世界史』(山本博、日経BP、2018年)は購入当時セール対象だったと思う。
最近は日経BPからかなり凝った教養本が出ることが増えていて、試金石のつもりで買った。著者の山本博は弁護士で、ワイン通として国際的に活動している方らしい。ワインに関する著書もかなり多い。
キリスト教とワインというテーマにワイン側からアプローチしているのはかなり面白かった。タイトル負けしていない。参考文献も充実していて、文化史の足がかりとしてかなりいい本だ。
正直に言うと、いわゆる「アマチュア歴史家への警戒心」が働いて最初はかなり不安だった。歴史は印象で語りやすい。リサーチをせずに印象で語る歴史は妄想でしかないが、人の妄想がいかに読者を魅了するかは小説家としてよくわかっているつもりだ。
その点、この一冊は参考文献分の重みがあった。日経BPに限らずビジネス書系のレーベルは一時期だいぶ胡乱な本を出していたから警戒していたのだが、そろそろ評価を改めるべきかもしれない。
4月:好きなイラストレーターさんの画集が出た
このころはかなり疲れていて、寝る前にぼーっと眺められるような動物写真集や画集を求めていた。写真集は買わなかったな。
"LITTLE NUNS NUNS AND DUCKS ART BOOK" (Diva, KADOKAWA, 2022年)はずっとTwitterで追いかけていたイラストレーターさんだ。
友達思いでちょっとおてんばな修道院のシスターたちのゆるやかな日常を描く、愛に満ち溢れた作品をほぼ日刊ペースで投稿している。このほっこりする感じが本当に癒やされるんだ。
画集にはシスターたちが一言コメントをつけてくれている。これがまたいい。一緒にアルバムを見返しているような気分にさせてくれる。初期の絵柄からだいぶ丸みが増したな、初期の透明感もこれはこれで好きだな、なんて考えたりもする。
国内の同人イベントにも参加していたとかで、持っていけばサインしてもらえたという噂をイベントが終わってから耳にした。だいぶ心を癒やされたのでお礼伝えたかったな。
『薔薇の名前』(ウンベルト・エーコ、創元社、1990年)は「読書家なら知ってるけど実はあんまり読んでない小説」のトップ3に入ると思う。よく聞く残り2つは『ドグラ・マグラ』と『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』かな。異論は認める。
上に挙げた2つは読んだものの、『薔薇の名前』だけはなんだか食指が動かずに2022年まで過ごしていた。エーコは難しい。エーコの作品で最後まで読んだのは『ヌメロ・ゼロ』と『プラハの墓地』だけだ。
中世イタリアの修道院で起きた殺人事件と、その修道院の迷宮図書館を巡る長編歴史ミステリ。長編・歴史・ミステリという時点で一見さんお断りだもんな。読書家のプライドをとんでもなく刺激する作品なんじゃなかろうか。
そして、これは正直に告白するのだけれど、最後まで読めていない。疲れて目移りしてしまった。面白いとは感じているので、いつか最後まで読むとは思う。来年の誕生日までには読み終えたいな。
5月:再びKindleセールという罠にかかる
この月は電子本が大半だった。
これは良くない傾向だ。Kindleは厳密に言えば商品を購入しているのではなく、Amazonがサービスを継続する限りにおいての閲覧権を購入している。そこが嫌いで私はKindleをしばしば悪く言う。
その割に買っているのは、とにかくいい本が安く手に入るからだ。いい本が安くなっているとIQが下がる。
吉川英治訳の三国志が合本版で499円だった。買うよそりゃあ。
吉川英治は『宮本武蔵』で有名な小説家で、大衆的な読みやすさと面白さが同時代人の中でもずば抜けていると私は思っている。そんな小説家が訳しただけあって、この三国志は本当に読みやすい。
人形劇三国志と三国志演義でしか三国志をまともに知らない身なので、ちゃんと読んでおこうという意図もあった。ただ、吉川英治の三国志は物理で家にあるんだよな……。
安いからと飛びついても得するとは限らない典型的なパターンだ。それだけいい翻訳ではあるから、ぜひ読んでみてほしい。
恥ずかしながら紅茶に疎かった私は、「イギリス史が好きなら紅茶も好きだろう」という謎の期待を寄せられるたびにプレッシャーを感じていた。
『基礎から学ぶ 紅茶のすべて:美味しくするテクニックから歴史や産地の話まで』は当初の購入予定にはなかったが、そのプレッシャーを和らげるカンニングペーパーくらいの感覚で購入した。半額だったのも大きい。
どうせ安くなっているからと軽率に買って、奥深さに圧倒された。付け焼き刃で誤魔化せる世界じゃないんだな、紅茶って。
とりあえず我が家にはまともなティーセットがないこと、ポットを買わないと話にならないことはわかった。読むだけ読んで満足してしまったので、当分紅茶にハマることはなさそうだ。
6月:積読を崩すために新刊購入は控えたはずだった
こんなペースで買っていれば無限に積読が増えていく。賽の河原でももう少し見通しが立ちやすいぞ。
実際、月に一度の本格清掃日直前は積み上がった本があちこちで不安定な塔を形成していて、中二病を抜け出せない友達が私の部屋に「書塔の牢」というダンジョン名をプレゼントしてくれたほどだ。
さすがにこの状況はまずいと判断し、6月は積読消化にあてる。そしてあまり合わなかった本は売ったり譲ったりする。
そのはずだった。
まさかまさかの『地球の歩き方』と『ムー』のコラボである。観光ガイドとオカルト誌の組み合わせは謎すぎて本当にびっくりしたし、大笑いしながら買った。
このコラボ、最初は意味がわからなかったが、冷静になると今までなかったほうが不思議だ。気軽に聖地巡礼する時代だもんな。
これまで『ムー』で扱ってきたオーパーツや都市伝説、UMAを地図上で整理する形で紹介したり、両誌編集長の対談で有名観光スポットのムー的解釈を語っていたり、すごく楽しめる一冊だった。
世の中には『ムー』のようなオカルト雑誌を指して「デマをばらまく悪質な雑誌」と糾弾する人もいるようだけど、私はむしろデマや陰謀論を真に受けないためのリテラシー教育として『ムー』を読むべきだと考えている。
世の中にはたくさんの胡乱な話が出回っているから、何でもかんでも軽率に信じちゃ駄目……ということを私に教えてくれたのは、小さい頃にテレビでよくやっていたオカルト系の番組だった。その手の番組が放送倫理やクレームを理由に数を減らした今、『ムー』は最後の砦になりつつある気がする。
なにより読み物として面白い。とりあえず電子版を買っておいて出先で暇になったときにタブレットで読むのがちょうどいい。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説、『長いお別れ』を久しぶりに読みたくて、セール中だったから買ってしまった。
なんだかんだでフィリップ・マーロウが好きだ。近年増えつつある無敵超人な神話的ハードボイルドではなく、本当に固茹で卵しか作れなそうな不器用でカッコつけだけど静かに熱い感じがすごくいい。
村上春樹の新訳も流通していて、そちらが好きという人も多い。私の好みは清水俊二訳だ。率直で簡潔だけど洒落の効いた、少し冷めたような言い回しが作品に合っている。
ただ、古典も古典だから、現代のミステリ小説を読み慣れた人からすると物足りない印象を受けるだろう。それは仕方がないことだ。今どきの映画に慣れた人が黒澤明に斬新さを感じないのと同じ。
7月:ファンタビ3作目をきっかけにイギリス史熱が高まる
ウィザーディング・ワールド作品が大好きで、ファンタスティック・ビーストシリーズ3作目にあたる『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』も公開当日に劇場で見てきた。
ファンタスティック・ビーストシリーズに求めているワクワクや不思議、魔法生物、そしてハリー・ポッターシリーズに繋がる歴史のダイナミズムを堪能し、落ち着いてきたところで脚本が発売された。
関係者コメントやプロップデザインを間に挟みつつ、文字で改めてひとつひとつのストーリーを追うことができる。ファン必見の脚本だ。
ダンブルドアとグリンデルバルドが交わした血の誓いについてとか、細かい地名や人名とか、押さえたい情報が山ほど載っていた。
4作目以降についてあまり順調でないという噂も流れている。興行収入は右肩下がりだし、原作者の発言に関する騒動もあった。作品のファンとして純粋に心配だ。ここからってとこなのに。
ファンタビがあまり一般受けしない理由はいくつもある。とにかく新規向けではないのだ。ハリー・ポッターシリーズを完走している人すらごく少数なのに、ファンタビはその終盤までいかないとわからない「人間としての苦悩を抱えたダンブルドア」が軸にある。
時代的にちょうどトム・リドルが在学中のはずだから、ファンタビ完結のラストシーンで首席として卒業するトム・リドルが見られるんじゃないかと期待している。
『帝国の手先 ヨーロッパ膨張と技術』(D. R. ヘッドリク、日本経済評論社、1999年)は技術史研究者のヘッドリクの著書で、イギリスの帝国主義と技術革新の相互関係について丁寧にまとめている。
技術史はどうしても列挙的になってしまう本が多いというか、歴史そのものと紐付けずに技術単体で論じている純粋な技術史が多いというか。社会史の一部としての技術史は歴史を学ぶ上で本当にありがたい。
『帝国の手先』では交通手段、特に水運についてが中心だった。実際にイギリスが水運技術を用いて拡大していく様と、拡大先での技術移転については『進歩の触手』で論じていたし、拡大した帝国をつなぐ情報技術は『情報時代の到来』に詳しい。
ヘッドリクは帝国期イギリスを俯瞰する上で必読だと思うんだけど、邦訳が少ない&気軽に手を伸ばしにくい価格をしている。選書や文庫で出てくれたら嬉しいんだけど。
8月:歴史熱、いまだ冷めやらず
元々私は歴史畑の人間ではないから、アマチュアらしいつまみ食い以外に学び方を知らない。いつか長期履修制度使って大学で歴史を学んでみたいな。
久しぶりに漫画を買った。『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ(1)』(藤田和日郎、モーニングコミックス、2022年)だ。19世紀イギリスを舞台に、同時代人や当時の伝承、物語をモチーフとした伝奇漫画シリーズ。
藤田和日郎の迫力に満ちた作画がダークファンタジーなストーリーと完璧にマッチしているこのシリーズは私のお気に入りで、特にナイチンゲールを主人公に据えた2作目が最高だった。
この3作目では『フランケンシュタインの怪物』で知られる小説家メアリ・シェリーが登場。もちろん話の中心となってくるのはフランケンシュタインの怪物だ。
藤田和日郎と伝奇は相性が最高なので、この黒博物館シリーズはいっぱいやってほしい。
『紋章学入門』(森護、ちくま学芸文庫、2022年)は1979年に刊行された『ヨーロッパの紋章 紋章学入門』の文庫化で、まさか出るとは思っていなかったからびっくりした。
実は昔少しだけ探して諦めた本なのだ。
紋章学の本は少ないし、入門書はますます少ない。この本は国内で西洋紋章学が知られていなかったころに書かれた「西洋紋章学を日本に輸入するための本」なので、すごくわかりやすい入門書として構成されている。
こんなツイートをしたらちくま学芸文庫公式がリツイートしてくれたおかげでいつもより反応が多かった。ありがとう公式。
9月:記事のためと言い張って散財
先行投資は回収の見込みがなきゃただの散財なんだよな。
交易史の本を探していた。記事のための資料が不足していて、どうしても追加の情報が必要だった。我が家は県内の図書館までの距離が半端じゃないせいで、何往復かすると本を買えるくらいの交通費を使ってしまう。
そういうわけで『ヴィジュアル版 地図でたどる世界交易史』(フィリップ・パーカー、原書房、2021年)を購入。求めていた情報はなかったが、ヴィジュアル版と銘打つだけあって視覚的にもわかりやすい有用な資料だった。
ちなみに集めていたのはこの記事の続きを書くための資料だ。
ローマ帝国期ブリテン島の島内交易についての資料を探している。最近は歴史書で探すより『ガリア戦記』の研究をあたったほうが早いのではないかと考えているところだ。
『辮髪のシャーロック・ホームズ』(莫理斯、文藝春秋、2022年)はホームズパスティーシュでありながら香港を舞台にした歴史小説でもある。
シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンの関係はそのままに、舞台となる地域や時代を移したパスティーシュはこの世に数多とある。この作品では清朝崩壊寸前の香港で中国人のホームズとワトスンが事件を追う。
語り口がまず武侠小説のそれで度肝を抜かれた。正気か? 再現度が高すぎて一見さんお断りなレベルだ。マニアック。珍味と言い換えてもいい。
同時代の香港に興味があれば絶対に楽しめる一冊だ。でも軽率におすすめするのは気が引ける。これ読んでる同好の士を探したい。
10月:漫画にハマっていたようだ
メンタル不調期だったからあまり買ってないと思ってたんだけどな……おかしいな……。
『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』(マイケル・A・スタックポール、KADOKAWA、2022年)に飛びついたのはノベライズだと思ったからだ。よく見てみたらどこにも「ノベライズ」とは書いてないのね……。
確かにダークソウルトリロジーの色を継承していて、エッセンスが共通しているとは感じた。言ってみれば「ダークソウルのゲームシステムとシステム周りを補強する設定を継承した小説」だった。
ダークソウルトリロジーの固有名詞は一切登場しない。正直、少しネガティブな意味でびっくりした。
作品としてのクオリティは中々に高い。海外ダークファンタジー小説としては佳作だろう。『古王国記』や『レッド・クイーン』を思い出す雰囲気で中々にいい。
『ヴラド・ドラクラ』(大窪晶与、HARTA COMIX、2018年)にハマった。ドラキュラ伯爵のモデルにもなったワラキア公ヴラド3世の生涯を美麗に描いた歴史漫画シリーズだ。現在も連載中・刊行中で、最新刊の6巻が先日発売された。
顔がいいのよ。結局ここに落ち着く。顔のいい男が憂いに満ちた表情で政略の世界を戦い抜いていく、この感じがたまらん。本当に好き。
東欧史にも興味があって、どこから手を付けるべきか悩んでいた。『ヴラド・ドラクラ』は作者のリサーチがとても丁寧で、東欧史研究の足がかりとしてもよさそうだ。
実は「終わるのが怖くて漫画を最後まで読めない」という苦しみを抱えている。大好きな『SHIORI EXPERIENCE』も買ってるのに16巻で止まってるし、『空挺ドラゴンズ』も6巻から読めていない。
『ヴラド・ドラクラ』は完走しなきゃな……見届けたい……。
11月:誕生月でかえって財布の紐が引き締まる
普通、誕生日は財布の紐が緩むものだと思うんだけど、「誕生日だからって調子乗らないようにしなきゃ」と考えていたら他の月よりはるかに買い物が少なかった。
『フランス宗教史』(グザヴィエ・ド・モンクロ、白水社、1997年)の読解に苦労する月だった。
文庫クセジュは「読み解ければ面白いけど難解な本」が多い。そのご多分に漏れず、『フランス宗教史』も辞書を引きながら真面目にレジュメを書いて読む必要があった。
ケルト期、ガロ=ロマン期、キリスト教期と、地域としてのフランスで信仰された宗教を通史で扱っている。フランス史と宗教史を一通りさらったことを前提に書かれているので結構大変。
まだ「第三章 キリスト教国フランス」を読んでいる途中で、年内には読み終わらせたい。
セールで購入。『神道用語の基礎知識』(鎌田東二、角川選書、2016年)は神道の入門書としてかなりよかった。
神道の本は探すのが難しい。特に店頭だと真面目な本なのかスピリチュアルなのか思想なのか区別がつきにくい。どうにも本を探すのが億劫で、アジア圏の宗教に疎くなってしまった。
この本を買ってから改めて本棚を見たときに神道・仏教よりクマリの本が多いことに気づいた。びっくりだ。どういう部屋?
そのうちちゃんと日本宗教史もやらないとな……。
12月:これ以上は本当に買えない
ここまで見返して絶望したので、もう今月は本を買わない。でも集計前に買った本は計上しないといけないのだ。
この記事を書いている時点でまだ到着していないので具体的な紹介はできない。出版社の公式ページを貼っておこう。
聖書時代から現代まで古今東西16,000名余のキリスト教関係者が載っているらしい。古今東西というからには西方教会だけではないのだろう。楽しみ。
キリスト教の網羅的な人名辞典はたぶん日本語で唯一じゃないかな? 定価の1/10くらいの価格で古本を買ってしまったのが少し申し訳ない。
『ローマ教皇庁の歴史:古代からルネサンスまで』(B. シンメルペニッヒ、刀水書房、2017年)は前々から買うつもりでいた本で、年末はこの本と過ごすつもりでいる。
中世ローマ教皇庁の成立過程を扱った概説書というのは類を見ない。邦訳されているのは本当に少ないんじゃないかな。教皇庁はのちの絶対王政期に各国の官僚制度のモデルとなったくらい組織として先進的だったから、その成立過程にはとても興味があった。
ちなみに今年買った本で一番高い6,600円。内容が値段相応であると確信しているが、こちらもまだ届いていない。年末だからね、のんびり待つさ。
買ってよかった本 TOP3
3位:『紋章学入門』(森護、ちくま学芸文庫、2022年)
購入したのは8月。探しはじめたのは5年前。
紋章学というのは言ってしまえばニッチでマイナーな分野だ。あまり多くの本が出ているわけではない。そもそも国内で出ている本は大半が森護の著書だから、日本語で読めるものに限界がある。
この物価高で文庫化・復刊が難しいと言われている中、この名著を復刊してくれたちくま学芸文庫には感謝してもしきれない。
ヨーロッパを舞台にした歴史小説・漫画・映画などなど、多くの作品のプロップに隠れている情報を楽しんでにやりとできる。そういうアディショナルな楽しみを掴めるようになる知識が私は大好きだ。
2位:"LITTLE NUNS NUNS AND DUCKS ART BOOK" (Diva, KADOKAWA, 2022年)
メンタルが不調のとき、ストレスを感じたとき、トラブルに巻き込まれたとき、悲しい思い出がフラッシュバックして眠れなくなったとき。
大事なアルバムを手に取る感覚でシスターたちの生活に和めるこの画集は、本当に私の生存を支えてくれた。
幸せ一辺倒じゃないところがいい。失敗もするし、叱られもするし、喧嘩もする。でもその日常感がいいんだよな。愛にあふれていて。
眠れない夜に何度も心を落ち着かせてくれたこの画集と、それを生み出し続けてくれているDiva氏に感謝!
1位:『フランス宗教史』(グザヴィエ・ド・モンクロ、白水社、1997年)
ずっとイギリス史を嗜んできたのにフランス史は軽く触れただけだった。
今年一番頭を使った本だ。読んでいてとても疲れるし、とても楽しい。新書だから比較的安いのもありがたい。
コスパという言葉を本に使うのは違うと思うが、安価に長時間楽しめるという意味では「コスパのいい買い物」だった。
来年学びたいものが見えたこと、新しい挑戦のきっかけになったこともあわせて、この難解な一冊を1位にしようと思う。
あとがき 集計してみて
馬鹿じゃねえのかってくらい本買ってる……。
どうりで貯金が増えないわけだよ。積読で腹は膨れないんだ。鶏むね肉が安くなかったら本当に危なかったんじゃないか?
とりあえず、来年は絶対に買う本を減らす。じゃないといつか破産する。
収入も増やさなきゃだめだ。馬鹿だからまたこういうことをやるだろうし、貯金増やせるようにしないとまずい。生活がまずい。
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