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第18話 目の前に初めて、超有名人が座った日。
一心鮨本店は、今でいう「街寿司」のような場所でした。
街寿司とは、住宅街の駅前で堅実な営業を続けている寿司屋を指す言葉です。一等地の高級店や大手チェーンの回転ずし店とは異なり、価格設定に制限のある中で手間や工夫によっておいしさを追求する店を指します。
お客様も多岐にわたり、家族連れの方やサラリーマンなど食事として楽しんでいただく方はもちろん、社長や政治家の方など、接待などでご利用いただくこともありました。中には反社会的な風貌のお客様などもいらっしゃったり、いわゆる著名人の方が訪れることも多かったですが、皆一様に席を並べてお寿司を楽しんでいく場所でした。
そんな一心鮨本店があるのは宮崎県。
ご存知の方も多いかもしれませんが、宮崎は野球の一大キャンプ地であり、中でも巨人軍が毎年キャンプを行う場所です。そんなキャンプシーズンである2月になると思い出すエピソードがあります。
カウンターの端で、せっせと巻物や押し寿司を作っていたある日。私の目の前の席に座ったのは、なんと当時の巨人軍の超有名プレイヤー、清原選手でした。先述した様に、街寿司のような場所なのでいろんな方がお見えにはなるのですが、カウンターに立つ様になって初めてお迎えした有名人が清原選手だったんです!
さすが超一流選手ともいうべきなのか、テレビで見ていた印象よりもはるかに大きい!(スーパースターのオーラもあったのかも?)
椅子に座った状態でも、目線の高さが私と同じくらい。(私の目には少し構えたような雰囲気に映っていましたが)他の皆さんと寿司を楽しんでいました。
平静を装ってカウンターの仕事に集中していましたが内心、大興奮!
「こんなに有名な人が目の前に座るなんて!」
もうどうすればいいのか分からず、ただただドキドキしていました。
そんな時にふと
「板前さん、かっぱ巻きを巻いてくれ。」
と、私に注文が!
ついに清原選手から声をかけられたのです。
「かしこまりました!」
と返事をするも、もう、内心は大騒ぎ!
でも悟られないように、ぴしっとかっぱ巻きを巻き、慎重にカットして、清原選手の寿司皿へ。
その瞬間、自分の指が震えているのが分かりました。
清原選手は、かっぱ巻きをさらっと口に放り込み、
「ごちそうさん」
と一言。
もう嬉しいやら緊張やらで頭は真っ白になる寸前でした。
その後、お食事を終えた清原選手は(私には巨大に感じるほどの)大きな背中を見せながら店を後にしていきました。
その後ろ姿を見送った瞬間、緊張と興奮が一気に抜け、どっと疲れが押し寄せたのを覚えています。
それから今日まで、さまざまな方に寿司を握ってきましたが、やはり、人生初。超スーパースターにお寿司を提供したあの時が、過去一番緊張した経験だったと言えます。
この経験があったからこそ、どんな人の前でも緊張せずに、自分のベストパフォーマンスを維持して寿司を握らなければならないのだとも改めて思いました。コンクールでの経験不足から引き続いての経験だったこともあり、今でも、2月になるとこの思い出が鮮やかによみがえります。