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究極のヴァイキング戦士、女性だったと判明

ヴァイキングと言えば全て男性であり、女性が戦うことはなかったーー。長年、こう考えられていた。疑問を投げかける学者もいたが、基本的に。

現代まで残る記録の中に、女性のヴァイキングも登場するのだが。一部の学者は、それらは実話ではなく、物語的なものであると断定していた。

インターネットで検索して上位に出てくる解説(英語の情報)に、「ヴァイキング時代の女性たちは、誰が最も優れた男性を手に入れるかで、競いあっていた」という記述がある。皮肉要素が含まれている気もするような、書き口。

全体的かつ断定的に語られていたこのイメージは、新たな研究により、大きく覆されることとなった。数年前に判明したばかりのことで、知らない人もいると思う。それを解説していく。

今回は、ヴァイキングの女性の話。


「Bj581」と呼ばれる研究対象がある。古い墓だ。Bj は、現在のスウェーデンにあるヴィヨルコ島を表す。

かつて、ヴァイキングの町があった場所。重要な貿易拠点だった。跡地は遺跡となり、ビルカと呼ばれている。

「ビルカ」は見学できる。観光スポットになってる。
できるだけ当時の雰囲気を再現してあると思われる。

そこで発見された1100もの墓の1つである Bj581 が、特別に注目され研究されたのには、ワケがある。「究極のヴァイキング戦士の埋葬」だったからだ。

研究のために、墓が掘り起こされた。死者に申し訳ない気もするが、すでに掘り起こされているのだから仕方ない。せめて、何かを学ばせていただこう。

わからないことは「わからない」。決して、もっていきたいストーリーありきで、無視したりねじ曲げたりしてはならない。無礼に失礼を上塗りすることになるね。


それは、チャンバー墓と呼ばれる墓だった。

チャンバー墓でさらにヴァイキング時代のもの。

どの時代や地域のチャンバー墓でも、高い地位の人や尊敬された人の墓であることは、間違いないという。

墓の中はこのようになっていた。

わかりにくいかと思い、探した。復元イラストがあった。

座るような構図に、埋葬されていた。おそらく鞍の上に。足元にあぶみがあるため。馬は、愛馬が殺され一緒に埋められたのかもしれないし、たまたま戦闘などで亡くなった馬かもしれない。あらゆる武器(本人が愛用したものの可能性)。遺体が抱えていたのは、ヴァイキングのボードゲーム、ネファタフルの駒一式だった。

ネファタフル
一般論、残された人たちが選ぶグッズに、故人の生涯と関係ない物があることも考えられる。しかし、さすがに、手に握らせるまでしたものが無関係なグッズとは思いがたい。故人はこのチェス様のゲームが好き/得意だった。

武器は、特に詳しく、調べられた。

その結果、リーダー的存在だったのではないかと推測された。最低でも、複数回の大きな活躍をした戦士だろうと。


2017年に、スウェーデンの研究グループが、彼の骨のDNAテストを行った。

「彼」ではなかったことが判明した。
Bj581 の骨は、女性の骨だったのだ。


関係者は、「それが男性だったとしても、かなりユニークだっただろう」とコメントした。武器の解析から、彼女が、騎射の名人だったことが考えられたからだ。

なるほど。女性が戦場において活躍するには、近距離でなく中距離の技があると、よいのかもしれない。

「究極のヴァイキング戦士」は女性だった。
今までの憶測とは違い、これは、動かぬ事実だ。

ヴァイキングの社会は、男性の役割/女性の役割という概念を越えて、実力主義的であった可能性が出てきた。能力・実績・人望・野心などのさまざまな資質による、実力主義。


2017年に『American Journal of Physical Anthropology』に掲載された、さらなる詳細。

彼女の歯から、30代か40代で亡くなった人だと。墓にあったコインの年代を鑑みて、930年頃に生まれた人だと。

彼女の骨からは、生涯を通じてよく食べていたことがわかった。多くの人が、飢餓を経験した時代に。裕福な家庭の出身だったのかもしれない。当時の女性としては背が高く、170cmほど。出身は、ビルカではないこともわかった。あなた……どこから来たの……

すごい。科学による、まるで死者との対話だ。


彼女の墓の位置は、「戦士の館」と呼ばれる特別な建物のすぐ近くだった。

私は、実は、一部の答えを敢えてリサーチしないのが好きだ。イマジネーションが楽しいからだ。決めつけはいけないが、空想してみよう。当時の街並みや生きる人々を。

「戦士の館」……集会場か。記念館みたいなものか。

そこに立ち寄った人:この墓は誰の墓なんですか?立派ですね。
町人:ああ、それね。伝説の戦士の墓なんですよ。私もまだ子どもだったもんでね、よくは覚えてないんだが、女がトップやってたんですよ。
町外の人:ええ!それは驚きだ!どんな女性だったんだろう……

私の妄想だ。あしからず。


ある考古学者はこう語った。

「この研究結果は、考古学的解釈の核心に触れるものだ。つまり、我々は常に、性別による役割分担について、自分たちの解釈を当てはめてきたということだ」。

今一度、自分に問いただしたくはならないか。
「保守的な○○」とは何だ。「昔ながらの○○」とは何だ。自分の概念はどこからきた。それは誰に植えつけられた。

『インセプション』

女神フレイヤは、愛と豊穣の神であるが、戦争の神でもある。大きな猫がひく戦車に乗って、戦場へ行く。

猫かわいいな……

冬やスキーの女神スカディの神話は、1つしかない。父親の仇を討ちに行く話だけだ。ヴァルハラの神々は、スカディと戦わずにすむよう、あらゆる代償を差し出した。

ヴァルキリー(ワルキューレ)は、男女をテーマにした話で登場させるには、最適な存在だが。長くなりすぎてしまうため、また別の機会に。

神/女神だらけの神話において、ヴァルキリーは女神ではない。単一人物でもない。女性半神で複数いる。

キリスト教の物語では、神は、アダムを神に似せて創造し、アダムの肋骨からイブを創造する。

古ノルドの物語では、男にも女にも、平時には平時の使い道があり、戦時には戦時の使い道がある。

古ノルド神話:神々が海辺をさまよっていると、2本の流木(トネリコの木とニレの木)が流れてきた。神々は、これらの木を人間の形に彫った。そして、血と息と好奇心を与えた。トネリコの木はアスクという男になり、ニレの木はエンブラという女になった。2人は、同じ神によって・同じもの (木) から・同時に創られた。

ヴァイキングは、実際、トネリコの木を斧や槍の軸に使い、ニレの木を荷車の車輪や弓に使った。用途は戦闘だけではない。狩猟や日常生活にも用いた。


ヴァイキング時代の最も豪華な埋葬は、ノルウェーのオーセベルグで発見されたもの。おそらく女王の墓。大きな船に埋葬されていた。

復元されている。これも見学できるようだ。

船の墓から、鍵が見つかったと。一部の裕福なヴァイキング女性の墓からも、鍵が出たと。

鍵だとされる物の例

それがなぜ、誤解を恐れずにいえば一足とびに、このような話になるのか。→ どんな家に嫁いだかが、墓に入れるほど大切なことだから、鍵が一緒に埋葬されていたーーなど。

女王の墓にはさまざまな物があった。鍵は、その内の1つにすぎない。そもそも、本当に家鍵なのか。鍵=財力 と真っ先に浮かぶ人は、どのくらいいるのだろうか。個人的には、秘密の扉へのアクセスだとか、新しい扉を開く象徴だとかを思い浮かべるが。


ヴァイキングの研究は、1800年代のヴィクトリア朝時代に、はじまった。

「裕福な女性は家の中にいるもの」当時の概念は、こうであった。ヴァイキングのことを調べる際も、自分たちの概念を当てはめて、資料などを見てしまったのだ。

前述した「鍵をもつ女性」は、サガや詩の中に、3例ほどしか見つからない。対して、武器をもつ女性の例は、20以上見つかっている。にもかかわらず、だ。

人が偏見をもって物事を見た結果である。


Bj581 のDNA鑑定は、私たちに、ヴァイキング時代の真実(それでも、数多ある中の1つの側面)を伝えた。

主婦になるか戦士になるかを決めたのは、体格であり・能力であり・本人の意思であったと。男性に生まれたからといって、体格に恵まれないなどで、なれなかった者もいたかもしれない。


ここで、一度改めておきたいのだが。

ヴァイキング時代の女性にとって、結婚して家庭を守ることは、人生の自然な選択の1つだった。

「戦に出る女性もいた」私の示したいのは、シンプルに、この1点である。これだけのことを述べるのに、長々と書いているにすぎない。

赤の他人をつかまえて、もう反論もできない故人の人生や価値観に、断定的なことなど言わせていただくのだから。個人的には、長くなるのは、当たり前だと思っている。研究してくださった方々がいて、はじめて知ることができる事実には、感謝を。

男女平等的だったヴァイキングの価値観に、後に影響を与えたのは、キリスト教の到来でもあった。このことも、あたまの片隅においておきたい。

簡単に言うと。“ファースト・レディー” が、フレイヤからマリアになれば、ずいぶんと違ってくるということだ。


『Game of Thrones』のテーマ曲。話に関係はない。ただ私が好きなだけ。シェアしたいだけ。

このドラマの中でも、女たちは、政治や戦にたくさん関わる。知略をめぐらせてかけ引きをするし、夫や子どもの敵討ちを執念深くするし、富や権力を欲したり、惚れた相手に身を焦がす想いをしたりする。

ヴァイキングのことがもっと知りたい人は、ぜひ。これは3話連続もので、リンクで2話めと3話めにもつなげてある。


参考文献
ナンシー・マリー・ブラウン著 『ヴァルキリーの真実 知られざるヴァイキング戦士の歴史』

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