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脱学校的人間(新編集版)〈40〉

 上野千鶴子は、学校という制度は近代国家が整備したものであり、その目的とする自国民の均質化・標準化に特徴的な機能を持つものなのだ、としている。そしてその、国家による国民の均質化・標準化を証拠立てるものとして、近代になって新しく生まれたような職業には、官員・社員・教員などといったようにどれも「員」の文字がついている、これはそれらが全て近代の産物であって、それ以前には存在しなかったということを表しているのだ、という(※1)。思わず膝を打ちたくなるような、とても興味深い指摘である。
 「員」の文字は「数」をも意味する。近代国家はまさしく数と量を基底とした産業社会の大規模な発展をはかるために、それこそ大量の「員の名のつく人間」を必要とした。そのような人間を大量生産するために生み出されたのがまさしく「学校制度」なのであり、それまで生まれも育ちもバラバラな条件と環境の中で生活していた個々の人々を、「国民という均質で一定の、員の名において呼ばれる人間の集団」に仕立て上げていく国家的事業が、全ての人間をそこから社会に送り出すという学校の機能によって成し遂げられていくことになる、というわけである(※2)。
 さらに「員」とは「ある集合に含まれる」ということも意味する。ここで重要なのは、人が「員の名のつく集合体に含まれる」とき、それは生来的にでも強制的にでもなく、むしろ自発的かつ主体的に「自らの意志で進んでその集合体に含まれていく」ということだ。
 人々が「員の名のつく集合体」に含まれていくことは、何ら強制的なことでも機械的なことでもない。生まれながらにすでに何らかの「員」であったり、あるいはたとえその意に反していても、有無を言わさず何らか特定の「員」にならなければならない、などということでもない。あくまでも人は自分の意志で、すなわち「自由」に、その集合体の一員として含まれていくことができる。そしてもしその人が望むのであれば、今現在属しているものから別の集合体の一員にだって、自分の意志すなわち自由に移り変わることもできるのだ。
 そのような人間の集合体を、一体何と言うか?
 それこそがまさしく、「職業」の名で呼ばれる社会的人間集団なのである。

 現代において「職業」は、諸個人がそれぞれ任意に自由な意志によって選択できるものとして設定されている。諸個人がそれぞれ自らの意志でそれぞれ自由に、自らの選択したそれら職業の名で呼ばれる社会的人間集団の一員になっていく。言い換えれば、ここで諸個人は彼ら自身がまず「自分から動く」ということをしなければ、彼ら諸個人は誰一人としてその集合体に加わることさえできないのである。
 また、職業の名で呼ばれる集合体の一員であるような人とは、その人が「社会的に何をする人であるか」が、その名において(すなわち「職種名」によって)誰にでも一発でわかるようになっている。そして、その人が「社会的に何をする人であるのか」という社会的な認識が、一方で「その人自身」を社会的に確認し、社会的な認知を受ける機能を果たすところとなり、さらにそのまた一方では、それが「その人自身のアイデンティティ」として「その人自身の自我」との同一化がはかられていくところともなっていく。
 この社会においては、「その人が社会において何をする人であるのかが一発でわかるような集合体の一員である」ということが、すなわち「その人そのものを一発で表わすもの」ともなる。つまりその人の属する集合体の名=職種名が、あたかも「その人そのものを表す名」であるかのように、社会的には見なされることとなるのである。ある一つの職業に就くということ、すなわちある一つの社会的集合体に属する一員になるということとは、そのようにこの社会において「その人自身を特定する機能」も果たすことになるわけなのだ。
 一方で、その職業の名で表される集合体の一員である限りにおいて、その人は他の人たちと「だいたい同じような人間」である。集合体の一員になるということは、何よりもまずそのように「他の人とだいたい同じような人間であること」が求められる。たとえその人と他の人が入れ替わったとしても、その職業の集団が何も変わることなく社会的に機能すること、そして個々の成員自身がその集団の中において他の成員と変わりなく機能することを、人はその職業集団に含まれていくときに、何よりもまずはじめに求められるのである。そして「そのような人間が、学校で大量生産されて」続々と社会に、具体的に言えばそれぞれ個別の職業集合体に送り込まれていくわけである。

〈つづく〉

◎引用・参照
※1 上野千鶴子「サヨナラ、学校化社会」
※2 上野千鶴子「サヨナラ、学校化社会」


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