「キラキラ共和国」 小川糸
「私、美雪さんのことが、大好きです。これからも、ずっとずっと好きです。 鳩子」
「キラキラ共和国」 小川糸
「ツバキ文具店」の続編 「キラキラ共和国」
以下、前作のネタバレが含まれています。ご了承ください。
ポッポちゃん(鳩子)は、お店の近くに越してきた5歳の女の子・QPちゃんと文通することで、お父さんのモリカゲさんとも知り合いました。
モリカゲさんは、ツバキ文具店の近くでカフェを営んでいます。
前作でモリカゲさんはカフェのメニューを考えるため、「いっしょに偵察に行って欲しいお店がある」とポッポちゃんにお願いをしました。(かなりお洒落なお店だったので男一人では入りにくかったようです。)
QPちゃんは、とても喜びました。
その帰り道、彼女はモリカゲさんと話をします。
先代(鳩子のおばあちゃん)といっしょに行った思い出の神社に行き、先代への後悔の念や、昔ここで先代におんぶしてもらったことなどを、彼女はモリカゲさんに話します。
そうすると、モリカゲさんは彼女ををおんぶしました。
モリカゲさんの奥さんは、家族3人でスーパーに買い物に行ったとき、後ろから通り魔にナイフで刺されて亡くなってしまいました。なのでQPちゃんは、お母さんの面影を知りません。
QPちゃんは、ポッポちゃんにお母さんの面影を見ていたのでしょう。
そして
モリカゲさんは、今、ポッポちゃんをおんぶしています。いなくなってしまった人に、直接感謝を伝えることはもうできませんが、そばにいる大切な人にやさしさを配ることができたら「それでいいんだ」というように。
◇
「キラキラ共和国」は、ミツローさんとポッポちゃんが入籍したところからはじまります。
ミツローさんとは、モリカゲさんの下の名前。ふたりは入籍し、彼女はQPちゃんのお母さんになりました。
3人は家族になり、家族になったという報告の手紙を書きます。さすが、代書屋さん。ちょっとユニークな発想の手紙です。
相変わらずツバキ文具店には、いろんな代書依頼がやってきます。
・目が不自由な少年タカヒコくんが、母の日、カーネーションといっしょに手紙を贈りたいという依頼。
・亡くなった夫に「謝ってほしい」という葉子さん。
・半分ひきこもりがちの「ヤドカリさん」。
・生後8日で亡くなった息子の喪中ハガキを書いてほしいというご夫婦。
他にも
夫への三行半(みくだりはん)を代書してほしいと言う「Jクレオパトラ」(鼻が高く彫りが深い)と、その届いた三行半に返事を書きたいハリウッドスター風の「リチャード(半)ギア」。
前作でおなじみのマダムカルピス(全身洋服が水玉模様)は、貸したお金を返して欲しいという手紙を要望。
一番難しい依頼じゃないかと思ったのが
文豪・川端康成に人生を捧げると決めた富士額さんは、やすなりさんから自分への「ラブレター」を書いてほしいと頼みます。
川端康成は『一人の幸福』という作品でこう書いているのですね。
そんな文章を醸し出すように書かれた「やすなりさん」からの手紙。
切手は川端康成が亡くなった年に開催された「札幌オリンピックの記念切手」を貼ります。
それぞれの代書依頼にそれぞれの事情や背景、お人柄を慮った手紙を心を込めて彼女は書いてゆきます。紙や便箋、筆記具、封筒、切手まで繊細にこだわって。
◇
この本は、キラキラした「しあわせの粒」が空気中に浮遊しているのですが、ポッポちゃんは、なぜかさみしい気持ちがありました。
それは
ミツローさんの亡くなった前妻・美雪さんのこと。
ミツローさんはポッポちゃんに気を遣っていました。ミツローさんは、美雪さんのことについて、彼女の前では口にしませんでした。仏壇も閉じたままにしていました。そのことが彼女にとっては辛かったのです。
ミツローさんは、美雪さんの日記を捨てようとまでしていました。
ポッポちゃんは、それが我慢できずに喧嘩になります。
その喧嘩は、読んでいて心が締め付けられました。
互いの美雪さんへの想いは、愛に溢れていました。ミツローさんの苦しかった心情の吐露。気を遣われていたポッポちゃんの辛さ。両方の気持ちがわかるだけに、誰も悪くないのにと、やるせない気持ちに陥りました。
彼女は一人になり、逡巡します。
私たち家族は、4人家族なのだと。
ポッポちゃんは、ミツローさんに手紙を書きます。
そして
ポッポちゃんは天国の美雪さんに向けて、長い手紙をしたためます。
キラキラと美しい光に包まれた4人の「キラキラ共和国」。
「好き」と言う言葉が、これほど愛おしい言葉になるとは思ってもみませんでした。
【出典】
「キラキラ共和国」 小川糸 幻冬舎
追伸
「キラキラ共和国」でも、おなじみのバーバラ婦人、男爵、パンティーに加えて、今回は謎の女性レディ・ババが登場します。
この人は何者? 本書後半で驚きの正体が!
これからどう展開していくのでしょう!
シリーズ第3弾「椿の恋文」も楽しみですね。
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。