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【保存版】駐在員から現地採用に切り替えるための全論点(2023年版)

こんにちは。しゅたあ@シンガポール(Twitter :@ShutaarenSG)です。

時は10年前、シンガポールの現地採用で日本の金融機関に採用された私は、駐在員の日本人たちから好奇の目で見られておりました。一体何故シンガポールに何の由来もツテも親族もない私がわざわざ「現採」で来たのか。

私の外資系金融機関が長い経歴も災いしたのか、あたかも「都落ち」のようなイメージで捉えられ(給料が、外銀>日系 な一方、駐在>現採という方程式で捉えられていたからでしょう)

「頑張れば駐在になれるルートもあるから」

と有難い励ましを頂いたことも多々ありました。


時は流れ2022年…。


駐在員の後輩がシンガポールから他国へ異動になるということで、先輩面をして寿司を振る舞って(ランチです)いた所、思いもよらない言葉を聞くことになりました。どうやらローカル(非日本人)の上司と話しており、

「成果を見せれば、現地採用の道もあるって言ってもらったんですよ!」

とのこと。時代は随分と変わったようです。

個人的にも、駐在になれなかったので現採を選んでシンガポールに来た少し可哀想な人という見方をされたことも懐かしい思い出となり、10年前に現地採用を選んだことが英断のように言われることすら発生するようになりました。(そんなに素敵なものではない)。

現在ではむしろ円安のおかげで、日本人と同じ仕事してる癖に(違う)現地に合わせて高い給料請求してるんじゃねぇ的な批判を受けないように定期的に会話の中にさりげない生活苦ネタを挟むようにしています。

さて、このnoteを読んでいる方は、海外駐在後に一度日本に戻るとまた海外に出るのは物理的にも心理的にも非常に困難であると知っているのだと思います。円安等で駐在員の枠が減っている昨今では尚更です。

以下では、シンガポールに長く暮らす中で、数知れずの駐在員の方から相談を受けてきた内容をベースに、駐在員から現地採用への切り替えを考慮する上で考え得る論点を全て書き出しました(今後相談を受けたら、まずこれを読んで、と言おうと思います)。なので長いです。

切り替えに当たり、まず頭に思い浮かぶのはとりあえず以下でしょうか。

・給料
・家
・学校
・その他…

いやいや、まだまだ論点は沢山ありますので以下で余すことなく論点整理していきます。

以下の論点は、外国人かつ配偶者・子供ありという一番論点の多いハードコースをイメージしており、子供がいない、配偶者が現地の人などの場合はカットできる論点もあります。それでは一つ一つ見ていきましょう。

労働パス

日本に居ると意識することは無く、駐在員であれば赴任のタイミングを決めるのが労働パスが降りるタイミングなのでドキドキするでしょうが、その後は更新は人事・総務が片付けてくれるし却下になることも稀ですので意識することも少ないでしょう。

しかし、現採ではこの労働パスのマネジメントは生活の基礎です。これが切れると国にいられません。駐在だと同じ会社のどこかに行くだけですが、現採の場合は生活基盤を丸ごと精算することになり人生が大変なダメージを受けてしまいます。

労働パスに種類があるというのも意識の外にあるかもしれません。シンガポールではEP(Employment Pass)を取得するのに最低賃金が定められており、職を失うとそれをクリアする条件を短期間で勝ち取らなくてはなりません。

駐在員の場合、会社の家賃サポート分を給料の一部とすることでこの条件をクリアしている例が多いです。この手は当然現採には使えませんので、家賃分も含めたガチの給料レベルを交渉しなくてはならなくなります。

またシンガポールでは法律上で、1ヶ月前通告で会社は社員を自由にクビにできることになっていますから、酷い会社ではその通りにしてくることも考えられます。

失職してから1ヶ月以内に職を得られない場合は国外追放になりますから、外国人の職選びは、日本にいた時以上に職の安定性やいざという時の会社の労働者に対するマナー・社風にも気をつける必要があります。

会社は変えずに現採転すれば大丈夫、ということでもありません。日本企業では社風的に1ヶ月前にいきなり解雇のリスクは社風的に少なくても、「そろそろお願いします」という肩叩きは海外では日本でやるよりはやりやすいでしょうし、実際にやってます。

どういった労働パスをどういった会社から取得するのか、よく考える必要があります。

家賃

シンガポールや香港といった金融都市では一番の支出は家賃です。日本とは段違いの家賃があなたを待っています。レベルは知っていても実際に自分の財布から払うのはまた別。そして現採転を考えるに当たっては当然これが払える給与レベルをゲットできるか、をメインに考えるでしょう。

会社のサポートの範囲で住める、中心地の広いコンドミニアム(プール、ジム、サウナ、テニスコート付)に住んでいる住環境の良さが海外に居続けたい理由の一つであることは普通のことです。しかし、これが全部自腹だったら…?途端に節約したくなってくると思います。それが現採です。

今まで見向きもしなかったエリアも対象になってくるでしょう。タダと自腹のシリアスさの違いをひしひしと感じることでしょう。エリアの選択に加えて、家のタイプの変更も考えることになるかもしれません。

家賃をセーブするためにプライバシーやセキュリティの概念の違う公団にいきなり移る事が自分、家族に抵抗が無いでしょうか?水回りの構造の全く違う家で奥さんは耐えられるでしょうか?要検討事項がゾロゾロと出てくるでしょう。

また、上記を考えていく中で、今まで知りもしなかった問題に直面するかもしれません。不動産屋です。

不動産屋

駐在の時は会社指定の東京不動産かどこかが愛想良く対応してくれたことでしょう。日本語で。あの人達のクライアントは会社です。ある駐在員に無碍(むげ)な態度を取れば苦情が総務部に行って、その他の駐在員の案件を丸ごと失ってしまうかもしれません。なので愛想が良いのです。

現採となれば、個人の立場で家を探すことになります。まずエージェントをどこにするかという問題が出てきます。東京不動産に「家賃○○ドル以下はお受けできませんねぇ〜」と言われて唯一の選択肢が消えて困ってしまうかもしれません。

個人の外国人という立場は、言うなれば日本に来た中国人が家探しをするようなものです。シンガポールは外人が多くオープンな国なので差別されることは無いし日本人は家を綺麗に使うということで基本的には歓迎されるので、それよりはマシでしょうが。

それでも、エージェントの本気度合いは何人何十人を期待できる会社に対するサービスとは別物と捉えるべきでしょう。また、家賃を下げていくと、あるレベル以下では、テナント側についてくれる業者が居なくなることもあります。

シンガポールでは(というか日本以外では)基本的に家主側とテナント側にそれぞれエージェントがつきますが、不動産業者に手数料を払うのは家主側で、それを両サイドの業者が分けて受け取るのが通常です。

しかし、ある程度家賃が低く更に今のように需要過多の状態だと家主側エージェントが手数料のスプリットを嫌がって、テナント側に業者をつけない人だけを受け入れていたりします。その場合、契約書の詳細チェックから水道高熱の手配から何から何までを全て自分でやることになります。

自分は仕事柄、数百ページに及ぶ契約書を読み込むこともありますので、10数ページ程度の賃貸借契約を読み込むのは大して苦ではありませんが(もちろん面倒ですが)、英語の契約書もしっかり読み込んでキチンと交渉しましょう。

引越費用

誰も出してくれません。自腹です。駐在員であれば会社が日通を手配してくれて、日系の日通なのにこのサービスレベルかよ、と悪態をつくのも楽しかったかもしれません。でも個人で日通を頼むのは結構高く感じます。

賢い消費者になる必要がありますので、初めて自分で検索して相見積もりを取ることになるかもしれません。アプリでオーダーを出すとあっという間に5〜10の業者から見積もりが来てイージーに感じるかもしれません。

ただし、そこからが勝負なので覚悟しましょう。安いところは、何らかの刑期を終えた方々で構成されている(どこにも書いてません)こともあり、気にするかどうか、とか、もあります。

また、日本と違い適当な見積もりに乗っかってしまいダンボールが足りない、ダンボールが再利用されすぎてシナシナ、当日トラックに入り切らず追加トラック(全部実話)など。

シンガポールで5回引っ越しをしていて、悪い人に当たったことは無いですが、見積もりの甘さは気をつけた方がいいです。

教育費

せっかく子供を海外で教育できて英会話も流暢になってきたのに、ここで帰国になっては元の木阿弥、今の生活を維持しながら何とか子供の海外教育を続けたい、というのが理由で現採転したい人も多いことでしょう。

しかし、家賃に続き、支出で頭を悩ませるメイン項目が教育費であることは皆さんご承知の通り。良く考えてプランニングしなくてはなりません。駐在員ではあり得ない、教育費が持たずに帰国する例も多々ありますので。

日本の公立はタダです。しかし駐在員に選ばれるような意識の高い方々は、日本で子供を私立に入れていた人も多いでしょう。駐在員であれば会社負担で日本人学校は全額負担、インターも補助があるので一部の出費で安く行けていたことでしょう。

これが今度は全額自腹です。

国によって異なると思いますがシンガポールの場合は外国人はローカル校に入るのは難関で、ある程度の英語の素養に加え中国語教育に耐えられると見做される必要もあります。小学校は月額9万円(2023年現在)と全く安くありません(中学校は倍の月額18万円)。

インターナショナルスクールは安いところで年間200万円程度のところもありますがやっぱり高く、今では日本人学校が最もリーズナブルで入りやすいかもしれませんが、日本人学校に教育移住というのも悩みどころかもしれません。

また学校の立地も居住地域や職場と密接に関係しますので、悩みどころでしょう。小さいお子さんであればスクールバスの手配が必要で、それだけで月に300ドルくらいチャージされてしまいます。家の立地は超重要です。

給料

駐在員でいた時と同じポジション、同じ働きをするから同じ待遇で雇ってもらえると信じている駐在員は多い(だからこそ、その「おいしい」ポジションをキープしたいので帰りたくない→現採でいいや、の発想)のですが、それは間違いです。

会社からすれば、期間限定、強制異動ができる駐在員の待遇と、現地でパーマネントで雇う社員の待遇は全く別物です。ですので、給与体系も全く別物なのは当たり前です。

マネージャーレベル以上の方ですと、今まで高いと思っていた現地ローカル社員の給料が自分ごとになると、途端に足りないと思うかも知れません。ローカルを下に見ていたような駐在員だったりすると、自分がローカルに並べられて評価されることに抵抗を覚えるかもしれません。

当然、業界、職種によって給与レベルは異なりますが、基本的には各国に労働マーケットの需給があり、それに従った給与水準があり、それは駐在員の待遇、思惑とは全く別世界にあると思った方が良いかもしれません。

あと、日本企業は、日本のデフレ給料の意識がどうしても滲み出るため、海外においても賃金水準は低いです。外資系は別論理ですが、日本人がどうしても欲しいポジションというのは日本経済の低迷と共に消滅しています。

ただしグローバル化の進展と共に、国籍は企業の雇用にとって重要なファクターでは無くなっています。売れるスキルや経験があれば、もはや日本・外資という区別自体も古くさいとも言えます。

特に新興国の企業では日本人技術者が高く売れていますから、日本語力が安くしか買ってもらえないなら、それを売るのを止めて他の自分の知識経験を売るという発想があれば、給与レベルは上がることでしょう。

年金・退職金

完全に身を現地に移すと、当然日本で義務のあった年金の支払いは不要です。一方で、現地の年金制度に加入できるかは各国の制度によります。シンガポールでは外国人に当地の年金に加入の権利はありませんので自動的に無年金になります。

豪州では加入は必須になりますが、国を出る際に持ち出そうとすると60%ものチャージがなされ、国に殆どふんだくられてしまいます。年金も日本の厚生年金制度にお任せで何も考えていなかった場合、一から年金設計を考えなくてはなりません。

日本に残る個人型年金(日本版401K)の運用をどうするか、また外国で国に頼れない中、個人年金をどう選んでいくか(年金は一度買うと長期のコミットを求められるので中途解約すると爆損する)考えることは多いです。

また、退職金の積み立ても諸外国では制度がないことの方が多いので、何も考えないと何も積み上がりません。自分で貯めよう運用しようと思わなくても会社が勝手に天引きして積立してくれたのが特別だと思えるようになるでしょう。

長期で海外に居る予定の人は、ラフにでも計画があった方が良いでしょう。

病院・保険

駐在員であれば会社が提供してくれる海外旅行保険で以上だと思います。アプリやカード登録して、必要な時はJapan GreenやRafflesの日本人医者に行けば良いという非常にシンプルな話だったと思います。

これが普通でなくなるということにまで多くの現採転希望者は頭が回りません。現採ということは、ローカルの人々と同じパッケージになるということです。つまりカバーされるのは基本的にローカルの病院だけになります。

これが何を意味するかというと、日本語で対応してくれる日本人医者のいる病院が対象外だと言うことです。何か起きた場合、ローカルの医者に英語で説明し、英語で診断を受け、英語で手続きする必要があります。

体調崩してMCもらいたい位の時ならいいですが、例えば子供が嘔吐を繰り返し泣き叫ぶピンチに陥った時に、パニックる奥さんの対応をしつつ英語で全ての手配、説明等をこなすのはきついものがあります。慣れですが。泣く泣くJapan Greenに行ったりすると、5万10万平気でチャージされます。

「日本人なんだから日本人医者にかかれる様にするのは会社の義務だろう」という年配の方の強気のコメントも聞いたこともありましたが、そうするとインド人にはインド人の、米国人には米国人の、となってしまうので多国籍企業ではその論理が通用しません。

そのため、私も自分はともかく、配偶者や子供を海外旅行保険に何度も入れることになりました。一人年間30万円くらいの出費になります。自腹です。また入り方もコツが要ります。その名前の通り、本来は海外在住者向けではなく、海外旅行もしくは出張(長期含む)の人向けだからです。

また、多数の会社員に提供しているのと違い個人の契約なので、1年の使用回数・金額をチェックされ利用制限されることもあります。大企業の駐妻のような無尽蔵な使い方は続かない可能性が高いです。

今は減りましたが、現採転に当たり駐在員時代に手当てされていた車を要求する方も居ました。よく考えればローカル社員全員に車を手配する会社なんて無いわけで、そんな特別扱いを求めるのは筋違いなのですが。

と言うわけで、特別な事情がなければ車の手配はありません。メーカーや商社の営業の方ですと車の手配が一番の既得権益になっている方も多いと思うのですが、これは潔く諦めるほかありません。

別に自分で買えばいい話なのですが、車のナンバープレート所有権だけで600万円もするシンガポールではとても買う気になりませんね。中古車をうまく売り買いしてコストを抑えつつ車を保持している現採の方もいらっしゃいますので意思があれば無理ではないと思います。

そうで無い場合は電車やバス、タクシーを賢く利用しましょう。ローカルバスの乗り方なんて知らないという駐在員の方も多いですよね? 覚えましょう。

日本人会

単身であれば不要かもしれませんし、日本企業に所属していると義務で加入させられていた方も多いのでは無いでしょうか。現採転された方、おめでとうございます。あなたはフリーです。入会の義務はございません。

ただし、家族連れであれば入っておくことのメリットも増えます。子供を日本人小学校・中学校に入れる場合は日本人会入会が必須です。日本語本の図書館、プレグラ、日本食レストランに習い事、これらが利用したければ入会手続きが新たに必要かもしれません。

恐らく、辞めるは自由、日本企業から現採転された際にはステータスはキープされるのでは無いでしょうか?(未確認)。私はいきなり現採として勤め始めたため会社のサポート(入会金免除等)が無く、会社と交渉しました。

一時帰国手当

これも求めたいという人は非常に多かったです。年一回、少なくとも2年に一回の家族全員の飛行機代、出して欲しいですよね。現採はローカルですから出してくれる会社はありません。その分給料で取りましょう。

駐在手当

ありません。以上です。

最後に

どうだったでしょうか?想像以上に論点が多かったでしょうか、それとも駐在員パッケージを社内で掴み取ってきたエリートの読者の方々であれば全て想定内の内容だったでしょうか?

ここまでで、主要な論点はカバーしているはずですし、現採転を考える際には上記を一つ一つつぶして(または覚悟をして)進めて行けば、転換、転職時の交渉時に漏れも出ないでしょうし、きっと良い結果を得られることでしょう。

現採となると、会社頼みではなく自前で考えたりやったりすることが増えます。それが面倒な人は駐在員として次の機会を狙う方が得策かもしれませんし、それが問題ないのであれば、滞在期間も含め自分で色々コントロールできる現採転が最適解になるのだと思います。

自分で人生をコントロールできる人であれば、特にシンガポールにおいては、開放的にできる仕事や高い教育水準、低い税金による貯蓄、投資メリットなどを存分に享受していけるはずです。

冒頭に書いたように私は現採として10年以上をシンガポールで過ごし、時代の流れを感じてきた訳ですが、現時点またこれからの日本と海外を展望すると、現採で自活できる様になると言うことが、今ほど魅力的に見える時代もないのではないかと思います。

それでは、GOOD LUCK!!



P.S. 別途、一般公開に相応しくない内容は、別のnoteにまとめて書く予定です。Twitter(@ShutaarenSG)で都度お知らせしていきます。

COMING SOON…

上記にまとめた論点で当初に考えることは十分なはずですが、これらを踏まえ、現採転を具体的に成功させるためのもう少し細かいノウハウや裏話的な内容を入れ込む予定です。合わせて読んでみてくださいね。


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