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老人駅伝!

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老人は走り出す。 単なる健康維持の為ではない。 夢のため、子どものような馬鹿げた目標のために走り出す。 それでいい。 いつの間にかその老人の走りには、若い世代が感化される。 そ…
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長編小説『老人駅伝』⑤

長編小説『老人駅伝』⑤

どうなってんだ!
翌週水曜日の午後練にも、私と妻、梨々香さんと村神君と隼斗しか姿を現さなかった。つまるところ、依然同じ三人がきていないということだ。当日の昼に携帯を開くと、川外勇也からのメール。「すみません、仕事が長引いていけません」他二人は無断欠席だ。
 どうなってんだ、と私が喚いても、妻は苦笑するばかり。
「まぁ、こういうものでしょ。後から連絡してみるから」
 確かにこういうものなのかもしれな

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長編小説『老人駅伝』④

長編小説『老人駅伝』④

 私と妻は、全員の日程を加味しながら、全体練習を週二日に決めた。水曜日の夕方五時と、日曜日の午前十時から、二時間程度。場所は、基本的に頭張市総合陸上競技場。タータンではないが、予約すれば無料で使える、地元ランナー歓喜のグラウンドだ。
妻は、最初の練習日を十月二日に設定した。つまり、私が駅伝に参加することを強要されてからちょうど一週間後だ。それまでの間は自主練を行っており、私自身のコンディションと走

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長編小説『老人駅伝』③

長編小説『老人駅伝』③

黒鳳小学校。私と妻が、数えるのも躊躇われる程遠い昔に通っていた小学校だ。今の校長は妻の妹の同級生で、簡単に言ってしまえば無理を強いることができる人間だ。私たちは、かつてよりも何十倍もセキュリティが厳しくなった校門を新任の先生に開けてもらい、校長室へと向かった。
「ご存じかとは思いますが、この小学校には陸上部はないんですよ」
「えぇ」
「変わってないんですね」
「けれど、これも昔と変わらず、春季だけ

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長編小説『老人駅伝』②

長編小説『老人駅伝』②

 唐突だが、私は子どもというものが、すこぶる嫌い……失礼、少々苦手なのだ。理由は単純明快で、二十年前、隣の敷地に引っ越してきた家のガキ共……いかんいかん、子どもたちが、まぁ素行が悪かったのだ。男女の双子で、どっちも酷かった。
あいつらが小学生の頃は、ピンポンダッシュは日常茶飯事、散歩中の私を見て罵詈雑言、庭で勝手にサッカーボールを蹴って花瓶を六個割る、石を投げて車に傷をつける、などなど、無邪気とい

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長編小説『老人駅伝』①

長編小説『老人駅伝』①

何歳になっても走り続ける人間たちのお話です。

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 妻が長距離記録会から戻ってきた。
「ただいまー」
 私はよっこらしょ、と呟きながら椅子から立ち上がり、玄関先に顔を出した。
「おかえり」
 妻は軽やかに靴を脱いだ。一方の私は立ち眩み。
「あのさー、義雄」
「うん?」
「駅伝に出ない?」
「駅伝ってその、走るやつ?」
「それしか

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