炊いたん、は美味しい。洗いもん、はすぐにやる。
「鯖のたいたん、いける?」
去年腰を悪くしたと言っていたおばあちゃんはお水とおしぼりを持って、ゆっくりこちらに向かってくる。
慌てて、立ち上がって、手を伸ばす。
今日のメインは鯖の炊いたん。
たいたん。たいたんってなんだ。
炊いたの。大阪に来て、初めて聞いた言葉だった。たいたん。たいたん。かわいい。
ひとくち目は、
熱すぎないお味噌汁。
なんならもうちょっと熱くてもいいくらい。
だけど、濃さはすごくちょうどいい。
ポテトサラダは久しぶりだ。
きゅうりや人参は薄く輪切りになっているイメージが強いけれど、ここのはジャガイモと同じくらいの大きさ。きゅうりの歯応えがクセになって、
お箸がリズム良く口に向かう。
鯖の炊いたんはまだ二口ほどしか食べていないのに、
お茶碗の底が少し見えてきた。
「ご飯好きなだけおかわりしていいからね」
とおじいちゃんが声をかけてくれた。
「はい!おかわりします!」
と元気よく即答。
(定食屋ではいつも大盛りごはんです大学生なの)
だいたいいつも、ここに来る時間は15時頃。
おじいちゃんとおばあちゃんが揃ってご飯を食べる時間。
「私は半分でいいわよ」「これは食べる?」
と会話をしながら2人はご飯を用意して、
一つ席を開けて食べる。
多分、お客さんがいるから。
隣でもいいのに。
誰かと一緒に、ご飯を食べる。
会話をすることが大事なのではなくて、
一緒に食べることが大事なのかもしれない。
「春からここ、離れちゃうんです」
「そうなのかぁ、就職決まったんか?」
「はい!」
「よかったなぁ。自炊頑張らないとな。」
「そうですねぇ。頑張ります!」
それからおじいちゃんは、煮物の作り方を教えてくれた。
まぁすでに、一人暮らししている私は自炊だってそれなりにはしているし、わりと料理はできる方だと思う。
だけど、おじいちゃんが丁寧に説明してくれるのを、わざとらしいくらいに相槌を打って真剣に聞いた。
「洗い物は溜まったら、めんどくさくなる。使ったらすぐ洗う。それが1番大事なことや。」
隣で、おばあちゃんも頷く。
とっても大事なことだ。
溜まったら、めんどくさくなる。使ったらすぐ洗う。
(うう、ちゃんとしよ)
最後のひとくちに選ばれたのは、煮物の蓮根。
ゆっくり、大事に、食べた。
ちゃんと料理をしよう。
レトルトはなるべくやめよう。
ちゃんと一食のご飯を大切にしよう。
「また、すぐ来ます!」
「体に気をつけて、頑張ってね」
そんなの、2人こそ、気をつけてほしい。
「体に気をつけてください」
店を出ると、ひとりになった。
商店街の脇道、
寒風がほっぺの横を走っていく。
マフラーをキュッと閉めて、
自転車のハンドルを握った。
1番大切なのは、体が元気なことで。
元気な体には、食事が大切で。
昨日までより少し、
丁寧に生きようと思った。
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