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白い楓

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二人の殺し屋がトラブルに巻き込まれて奔走する話です。そのうち有料にする予定なので、無料のうちにどうぞ。。。
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2020年1月の記事一覧

白い楓(01)

 私はペンのノックをいじり始めた。目の前には香山と明という、私の作り上げた登場人物たちがいる。私は話をはじめた。
「まさかこんな取って付けたような作者と登場人物との対談が用意されるとは思いませんでした」
「そうですね。明?」
 パイプ椅子に乗った体を後ろへ反らし、今にも倒れそうな椅子のバランスを器用に取りながら香山は顔を向けた。香山のこうした素行に限らず、ブリーチを繰り返された、耳にかかるまで長い

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香山のイントロダクション「404 Not Found」(02)

 正気に返ったが、今まで何をしていたのか、直近の記憶がなかった。
 最後の記憶は、作者との対談であった。そうかきっと彼が私の記憶を消したのだろう。ドアから出て……気がつくと私は自宅にいたのだ。こんな芸当が人に扱えるはずがなかった。私は、あの対談を終えた後、この世界に自分が囚われている、ただのマリオネットであることを明確に認識せざるを得なかった。この世界を作った神なんぞいるわけがないと考えて私は今ま

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香山の1「待ち合わせ」(03)

 お互いに、二文字以内でしか名前を知らない関係でも、それはなんら私達の関係に支障を与えない。勤務時間にしか会わない上に、その勤務時間にも滅多に会うことはないからだ。勤務時間以外を共有するのは今日の会食が初めてで、私はTogaの黒いシャツを着て、Nudie Jeansの濃いジーンズを履き、全身に羽織れる程度の緊張を感じつつ奴を待っていた。スマートフォンの画面にある時計を見る。よかった、約束より数分早

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香山の2「Chain」(04)

「日本人は、店員と会話をしないらしいな」
 などと、明(あかり)は吐き捨てた。受注した依頼についての説明を行うために呼び出し、中洲川端の風俗街を歩きながら説明を終えたところであった。風俗街なら警察の目が少ないのだ。
 だが、明、ふとこの名前について考えた。私が今まで出会った人間の中において、あかり、と読ませる男は偏狭であるのだが、彼はそのうちの一人に属する。最初のうちは多少ながらもそう呼ぶことに抵

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明のイントロダクション「カゲロウ」(05)

 バーベルを落とすとともに、手を下ろした。上半身には熱気と汗がまとわりついているが、コンプレッションタイプのスポーツウェアはすぐにそれを振り払ってくれる。一仕事終えたのと同じ類の疲労感と達成感を覚えつつ、体を起こす。ベンチプレスの前には腹筋のワークアウトをしたので、体を起こしたとき腹筋に痛みが走った。床のタオルを拾い、顔の汗を拭う。首にタオルを回し、少し顔を下に向けて休んだ。人から疲れた表情を隠す

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香山の3「職務質問」(06)

 こんこん、と手が助手席側の窓を叩いた。吸い寄せられるようにそちらを見る。スーツの袖であった。暗がりでは袖の色がよく分からないが、微かな街灯を吸い込む色であれば、黒か青のどちらか。手首を象るような白い袖口が見えた。カラーシャツである。もしや、明か。こんな時でもスーツを着てくるのは奴らしいとも思える。私は間抜けにも、その手の主が明だと信じて疑わなかった。
 私は何もしないで、手の主が他の部位を見せる

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香山の4「シロツメクサ」(07)

 メールの受信ボックスに見慣れぬアドレスを見つけて、さらに内容を読むと私はしたり顔をした。メールを読むと、フリック入力に込められた殺意と焦燥が伝わってきた。
『憎たらしい女Kを殺したい。どうすればいい?』
 殺害、傷害の相談をしてくる人間はほとんど痴情や借金を契機としていた。
 石橋を叩いても渡らない私は決して、顧客に対して自分の素性をさらす真似はしなかった。ぎりぎりまでメールで連絡を取り、それが

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明の2「ロマンスⅠ」(08)

 やることは、香山から指示されていた。Kをクラブで発見し、彼女をかどわかしてラブホテルへ移動、入室後に殺害する。男は、Kの浮気癖に腹を立てたらしい。ラブホテルで殺害する、というのはKの惜しみなき性欲の実現を逆手に取った策である。こんなことだからこの女は男の怨恨を生み出すのだ、と私は心の中で激しく軽蔑し、嘲笑を上からかぶせた。そして男は、Kの殺し方に文字通り注文をつけてきた。絞殺である。確かに絞殺は

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明の3 「ロマンスⅡ」(09)

 人を殺害する方法の中でも、絞殺は特に命のぬくもりを感じる殺し方であった。命が消える瞬間を、私ははっきりと認識することが出来るのだ。人の命を三枚におろしてやり、それに舌鼓を打つのが私である。
「遺伝子情報は残ると面倒なんだ」
 私は食品工場で使われる作業帽子をかぶる。粘着カーペットクリーナーで自分の毛を丹念に掃除した。普段であればオールバックにしてジェルで固めてあるので、それほどの丹念さが求められ

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香山の5 「助手席」(10)

 ドアの窓を開けた。静かだった車内に、六本松駅で発生する音が入り込んでくる。ダッシュボードに乗った拳銃はそのまま、万物の接触を依然として拒んだ。賑やかになった筈なのにこいつだけは、静寂なんぞ何処吹く風よ、という感じである。
「何か?」
 私は腹に力を入れ、それも力を過度にしないよう注意を伴った。語尾が震えるのを避けるためだった。耳に入る音を信じれば、成功を収めたといってよい。そして心得よ、私は彼に

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香山の6「ビー玉」(11)

 『お前が香山か』という言葉に反応した自分の思慮の浅さを呪った。呼吸がなかなかできない。

 鈴木と名乗ったその男は、確実に私の首を絞め、行動に必死さがうかがえた。
 どういうわけか、私は、自分の罪を思い出していた。
 私は、自分の虚構の愛を現実であるかのように見せかけ、幾人の女から搾取を繰り返すヒモの生活をしていた。ある日を境に自身がヒモであることが耐えられなくなり、すべての女に真実を打ち明けて

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明の4「解離」(12)

 香山に会うべく乗った電車内で気づいたのだが、私を尾行する男がいた。あのジムでよく見るスキンヘッドの巨漢であった。電車の人混みの中で、彼の首の太さが際立って分かった。警察か、同業者か。どちらの場合であってもひどく面倒に思われる。警察であれば、よほど手荒な真似はしないだろうが、捕まれば銃刀法違反で逮捕される。同業者であれば、そこには金が発生する事案があるわけで、ちょっとやそっとのことでは私の追跡をや

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香山の8 「侠盗」(13)

「こんなシャンパンが五万とは、本当にあほらしい世の中だよな、君」
 嶋(しま)と名乗る男が、メニューを見ながら私に問いかけた。私達は、中洲川端のビルの一室を借りたキャバクラにいた。キャストがそのシャンパンを取るために席を外している間のことだ。彼は、私のところの風俗店の常連であった。
「他のところはどうなっているのか知らないが。実にあほらしい。ところで、俺は建設関係の仕事をしている、と教えたことはあ

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明の5 「金色夜叉」(14)

 震えを抑えた私は、降りた駅のロータリーで香山のハチロクを発見した。顔面の傷をとやかく質問攻めにされるのだろう、と思い少し陰鬱な気分で車に近づいていった。iPhoneの時計を見ると、既に約束の時間を過ぎていた。早めにジムを出たのに、思わぬ障害を乗り越える必要があったことを説明せねばならないことも、私の気分をみるみる沈めていった。
 スキンヘッドのことを思うと、自分が死にかけた事実も連想され、怒りを

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