職務上の過失で個人に賠償責任を負わせるという悪しき前例
毎日暑い日が続いています、我が家でもビニールプールが活躍する時期となっています。
さて、この時期学校のプールの水を止めていなかった、という話題が目に付くようになります。
プールの管理に関する「過失」
こうしたミスは過去にも、そして全国的に頻繁に起こっているようです。
Googleで検索をかけるだけでも相当な数の事例が上がります。
Yahooコメントなどでは「蛇口をひねることもできないのが教師」などという心無いコメントで溢れています。
しかし、実際全国の学校でこれほどの件数発生しているということは、業務上想定されるミスと考えるのが自然です。
つまり、これは担当者の意図的な悪意や重過失ではなく、軽微なミスの一つと考えるべきです。
労働者の賠償責任に関して
では、こうした職務上のミスによる損害発生に対して労働者は損害賠償を行う責任があるのでしょうか。
上のサイトの内容を整理すると、損害賠償の責任自体はあるが、
危険責任の原則(使用者が労働者を用いることで危険の発生増大を行う以上その責任を負うべき)
報償責任の原則(使用者が労働者を用いて利益を得る以上、当該活動上の危険について負担すべき)
これらの原則や、使用者と労働者の経済格差が配慮され、損害額そのものを賠償する必要はない、とされているようです。
具体的な賠償額の減額に関しては上記のサイトを参考にすると、事故発生に対する予防措置や保険への加入などを使用者が怠っていた場合は大幅な減額という判例が出ています。
海田西小の事件では
海田西小のプールの件に関して、
給水バルブの開閉方向が一般家庭の蛇口と逆になっていることからミスを起こしやすい状態にあったこと
担当者の過誤の場合、再確認においても気づかない可能性が十分にあること
出しっぱなしの状態が10日間も続いているのに外部からの確認がしにくい状態で運用がなされ続けていたこと
担当に対し町教育委員会の指導が不十分だったこと
保険の加入の有無(記事からは判断できないが加入していないとすると)
さらに以下の点を考慮すべきだと考えます。
小学校教員の労働時間、休憩時間の問題
業務の性質上、日中にクラスを離れることが難しく確認作業が困難
プール管理業務が年間を通じてのものではないためミスが起こりやすい
以上のことを考慮すると、明らかに重過失とは言えないでしょう。したがって全額負担とは当然なりません。
記事からは、校長、教頭と担当者2名の4名に3割の24万円弱、町教委に7割の56万円弱を負担させるよう町監査委員は求めているようです。
ただ、これに関しても均等割りしたとして1人6万円は少し負担が重いように感じます。
担当者が若い教諭の場合、月額の手取りは20万円を下回っている状況だとすると、負担が重すぎるでしょう。実際にはどんな方かは不明ですし、給与が多少上がっている40代でさえも、6万は結構な負担です。
もちろん、こうしたミスに対し懲戒処分が行われることはあります。
公立学校の懲戒に関して私は知識がないため言及は避けますが、懲戒の軽重に関しては適正に判断されるべきです。
ただ、懲戒と賠償を混同した議論は避けるべきだと考えます。
(給与の全額支給の原則があるため、賠償金を給与から天引きするのは違法行為です)
むしろ民間企業に勤務する人こそ…
このような公務員や教員の賠償責任に関して、「公務員憎し」、「教員憎し」から極端な賠償責任を負わすことに賛成の人が出てきます。
Yahooコメントに書き込む人はその良い例です。
しかし、そうした人ほど、この流れが逆に自分に降りかかる危険性を理解すべきです。
教員の場合は業務の性質上、損害額が多大になることは多くありません。人間を扱う職業ではありますが、巨大な金額を動かすわけではないからです。
かたや民間の場合は、中小の企業でも一度の取引額が億単位に上るケースが存在します。
わずかな過失で損害賠償責任を負わされることが一般化した場合、民間企業の労働者こそが一番の被害者となりうるはずです。
教員のための賠償責任保険
こうした問題に対し、教職員向けの賠償責任保険が存在します。
もちろん、これに入っておくことで安心できる部分はあります、
しかし、業務上の損害について労働者に賠償責任を負わせることだけでなく、その保険を労働者自身の負担によって賄っているということは大きな問題です。
ブラックな私企業ならまだしも(もちろん許されるわけではない)、公立学校という公的機関において常態化していることは、社会全体が問題意識を共有するべきものではないでしょうか。