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”LOVE PHANTOM COMPLEX"を語る~君は「万能の幻」に囚われていないか、そして紅白歌合戦を経てB'zを再布教する試み~
1 "LOVE PHANTOM COMPLEX"(ラブ・ファントム・コンプレックス)とは
"LOVE PHANTOM COMPLEX"とは私が考えた造語である。日本の著名なロックバンド"B'z"が1995年にリリースしたシングル曲"LOVE PHANTOM"のタイトル及びその歌詞の内容から着想を得ている。あるいは、澁澤龍彦の作品集である『澁澤龍彦玉手匣(エクラン)』(東雅夫編、河出書房新社)に収録された「デカルト・コンプレックス」という澁澤の造語に影響を受けたのだろう。いずれにせよ、まずB'zのLOVE PHANTOMを聴いたことがない人は今すぐ私のこの記事をブラウザバックして何らかの手段でLOVE PHANTOMを100億回聴いてほしいものである。私は音楽サブスクを利用したことがないのでB'zのLOVE PHANTOMをどうやってサブスクで聴くのか方法が分からないのだが、CDで聴くというのであれば、シングル”LOVE PHANTOM”を購入するか、アルバムであればオリジナルアルバムならば”LOOSE"、ベストアルバムであれば「金盤」とも呼ばれる10周年ベストアルバム”B'z The Best Pieasure"か、20周年ベストアルバム"B'z The Best ULTRA Pleasure"か、25周年記念ベストアルバム"B'z The Best XXV 1988-1998"を購入して再生機器でCDを聴いてくれればいい。究極的には、そのままB'z沼に浸かってくれれば私としては既に大満足である。
※そんなB'zの凄さを日本人が体感できる出来事が起こってしまった。それは2024年12月31日にNHKで放送された紅白歌合戦である。予めB'zがゲスト出演するという情報が出回っていたが、あくまでも「事前収録した映像を放映する」といった内容のものであった。2024年はB'zは稲葉さんと松本さんそれぞれソロ活動をメインに活動しており、B'zとしての2024年の実績はNHKのドラマ『おむすび』の主題歌に新曲「イルミネーション」が採用されたくらいしかなかったので、紅白歌合戦にB'zが出演すると言ってもそんなもんかと思ったものである(基本的にB'zは年末年始は休むようにしているようなので、事前収録とはいえB'zが年末の紅白歌合戦に出場してくれるだけでも凄いことだとも思ったものである)。で、いよいよB'zの出番となりテレビで初の「イルミネーション」のパフォーマンスが披露された。つつがなく「イルミネーション」のパフォーマンスが終わり、「さて、B'zのパフォーマンスも見終わったし別のチャンネルの番組でも見るか」と思った瞬間、テレビ画面で異変が生じた。テレビ画面に映るパフォーマンスを終えたばかりの稲葉さんと松本さんの二人がステージから降りてきてテレビカメラにどんどん近づいてくるのである。「え?え!?」とざわつく紅白歌合戦のメインステージ会場にいる人達の声が聞こえてくる。そして、B'zの二人が辿り着いたのはなんと紅白歌合戦のメインステージであり、テレビ画面には「LIVE」の文字が映っている。そう、先程の「イルミネーション」のパフォーマンスは事前収録などではなくリアルタイムで演奏されていたのである!そして、息つく暇もなくメインステージで改めてB'zのパフォーマンスが再開される。短縮バージョンであるものの、披露された楽曲は"LOVE PHANTOM"と"ultra soul"の2曲である。"LOVE PHANTOM"ではステージに炎が上がり、"ultra soul"では観客も席から立ち上がって一緒に「ハァイ!」とジャンプする。私もテレビの前で飛び跳ねていた。そんなこんなで、年末に文字通りの「歌合戦」にふさわしいアーティストのパフォーマンスを味わうことが出来た。NHKは色々問題のある報道をしていると騒がれていることもあるが、本気を出せばちゃんとした番組を作れるのだなと思ってしまったものである。そして、そんなB'zの紅白歌合戦でのパフォーマンスを(フル尺ではないものの)視聴する方法がある。それは、YoutubeのNHK MUSICチャンネルで上げられているB'zの動画をチェックすることである。以下にB'zの紅白歌合戦でのパフォーマンスの動画を添付するので、これをとにかく視聴して欲しい。百聞は一見に如かずというヤツである。
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【B'z】「イルミネーション」連続テレビ小説「おむすび」の主題歌【紅白】|NHK
【B'z】「LOVE PHANTOM」1995年の大ヒット曲【紅白】|NHK
【B'z】「ultra soul」NHKホールの観客も総立ち【紅白】|NHK
※残念ながら、NHK MUSICで公開されていたB'zの紅白歌合戦におけるLIVEパフォーマンスは2025年1月11日現在閲覧できないようである。しかし、スクロールしていただけると、紅白歌合戦のライヴパフォーマンスに全く引けを取らないライヴ映像を合法的に視聴する方法があるので、是非このまま記事を読み進めてみて欲しい。
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さて、未知の言葉を、それも私が勝手に提唱している言葉を一から説明するのはこれが初めての試みなので、どこまで上手く私の意図が伝わるか全くの未知数なのであるが、物は試しに可能な限りわかりやすいように順を追って説明していくこととする。しばしお付き合いいただければ幸いである。
2 B'zのLOVE PHANTOMの歌詞を読み解く
B'zの"LOVE PHANTOM"と言えば、1分を超える長いイントロから始まり稲葉さんのボーカルが入る前に外人の英語による口上が入り、”LOVE PHANTOM"と言われてからやっと稲葉さんが歌い出す曲である。B'zのオフィシャルYoutubeチャンネルで"LOVE PHANTOM"のPVが上げられているのでそれをチェックして欲しい。ついでに、35周年記念ライブ"STARS"のダイジェスト映像も添付しておく。
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B'z / LOVE PHANTOM
B’z / DVD & Blu-ray「STARS」DIGEST
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上述したB'zのベストアルバムである”Pleasure"や35周年を記念したライブツアーである"STARS"のドーム・スタジアム公演でも1曲目に披露されており、リスナーや観客を大いに沸かせたものである。2024年の年末の紅白歌合戦で披露された際は言うまでもないだろう。そんな”LOVE PHANTOM”の歌い出しはこんな感じである。
いらない なにも 捨ててしまおう
歌い出しがこのような歌詞なので、一部ネット界隈ではLOVE PHANTOMは「断捨離ソング」としての知名度を誇っているようである。
だが、私が今回”LOVE PHANTOM”を取り上げたのはこの部分ではない。もっと本質的な部分である。タイトルに"LOVE"とあるようにこの曲の本質は「愛」である。だが、単純に「僕は貴女のことが好きです」とか「僕は貴女のことを思うと夜も眠れません」とかそういう恋愛あるあるを描写した曲ではないと言いたいのである。ここでの「愛」とは「恋愛」だけに限定されるものではなく、「隣人愛」とか「家族愛」とか、昨今の流行りに乗っかれば「推し活」への向き合い方に関することを謳った曲であると言いたいのである。そのことが判明するのは、2番を歌い終わりギターソロが入り、ラストのサビに入る直前に挿入されるこの歌詞についてである。
欲しい気持ちが成長しすぎて 愛する心を忘れて
万能の君の幻を 僕の中に作ってた
文学的とも思えるこの部分こそがLOVE PHANTOMという曲の核心ではないかと、個人的に捉えているのである。そして、この核心部分こそが"LOVE PHANTOM COMPLEX"、すなわち、愛を拗らせてしまうことで「現実の・目の前に居る愛する対象」から著しくかけ離れた「理想的な・万能の幻(私にとって都合の良い貴方)」の方しか愛せなくなってしまい、結果的に人間関係が破綻したり社会生活に悪影響を及ぼすようになる、と主張したいのである。
3 「万能の君の幻」は至る所に溢れている。そして、行き着く先は…
私はこの投稿でB'zの"LOVE PHANTOM"がただの恋愛ソングなのではなく、普遍的な事象について語っている歌なのであることを紹介したいのである。上述した「万能の君の幻」とはどこにでもありふれているのである。
例えば、ある家族に目を向けていても、「付き合い始めた頃は素敵だったのに、今ではどうしてこうなっちゃったのかしら」と嘆く声がSNS等で容易に見受けられることだろう。また、漫画やアニメ、映画などのエンタメやフィクションに対しても「思ってた展開と違う」「公式が勝手なこと言ってるだけ」「○○をもっと活躍させろ」「××を退場させる意味が分からない」「俺が(私が)考えた展開こそ正解、公式は何も分かってない」等々、挙げればキリが無い(個人的には一部の作品についてそう言いたくなる人達の気持ちも分からないではないが)。YoutuberやVTuber・配信者と呼ばれ、主にネット界隈で活動をしている人達・クリエイター・エンターテイナーと呼ばれる人達に対しても(あるいはもっと広くアイドルや俳優・声優業界なんかを含めた芸能界でも同じ事が言えそうであるが)、「○○とコラボやめて」「××するのは経歴に傷が付くから辞めた方がいいよ」「俺がプロデュースしてあげようか」…といったような、自分の意にそぐわない行動をする・しようとする・した「推し」(便宜上この言葉を使わせてもらう)に対してつい履歴に残るコメントを残してしまったりするという類いのものである。こうしたコメントを残した者の中で悪質な投稿内容の場合は後に開示請求の対象となったり、民事・刑事責任を追及されるといったような取り返しのつかないことになったりするものである。
このような症状が出るのは序の口で、この症状がどんどん深刻化していくと「貴方を愛しているのは私だけ」という妄執に囚われストーカー行為を働くようになったり(この手の輩は自身にストーカーの自覚が無いのがまた厄介である)、自分の思い通りの展開や行動に進まないからと反転アンチになり、「推し」や周囲のファンに対して迷惑行為(程度が酷くなると誹謗中傷・脅迫など民事・刑事責任が発生する悪質行為)を働くようになったり…と大体ろくな結末にならない。
現実世界だけでなく、漫画やアニメなどフィクションの世界の中でもこの愛する対象に自身の作り上げた「万能の幻」を重ねてしまっている現象を観測することができる。具体例を挙げて説明してみよう。例えば、藤本タツキ原作漫画『チェンソーマン』第1部に登場するマキマさんが私の提唱している”LOVE PHANTOM COMPLEX"を象徴するキャラクターなのである。彼女は「チェンソーマン」と呼ばれる悪魔を崇拝しており(端的に言ってチェンソーマンの(厄介)ファンである)、マキマさん自身の中に理想のチェンソーマン像を作り上げている。なので、チェンソーマン本人(あるいは、チェンソーマンを模したナニか)が自分の意にそぐわない行動・言動をすることが耐えられないという"LOVE PHANTOM COMPLEX"を発症しているのである。そんなマキマさんの印象的な台詞がこちらである。
マキマ「チェンソーマンはね、服なんて着ないし、言葉を喋らないし、やる事全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの」
自分の意にそぐわない行動をするならば、たとえどれだけ外観をチェンソーマン(=推し)に模しても、何ならチェンソーマン本人であっても許さないという姿勢を端的に表した印象的な台詞である。そして、マキマさんは「チェンソーマン」という自身が作り上げた「万能の(都合のいい)幻」に囚われたばっかりに、自身が目もくれていなかった主人公のデンジ君に一杯喰わされることになり、それが致命傷となるのである。
また、同じく藤本タツキ原作作品で『チェンソーマン』の前作であり、ジャンププラスで反響を呼んだ『ファイアパンチ』のサンという人物もマキマさんと同様に"LOVE PHANTOM COMPLEX"を発症していると言える人物である。サンは主人公のアグニに救われてから、段々とアグニのことを「アグニ様」「神様」と信仰するようになる。しかし、最終巻でアグニとサンは再会を果たすも、アグニは全身が燃え続けておりパッと見ただけでは誰だか判別できない状態になっていた。そんなアグニの姿を見て、アグニの妹として振る舞っているユダという女性は「……兄さん…?」とアグニを認識する一方、サンは「誰だてめぇ……」と思わず本音を漏らす。そして、以下のように狼狽えるのである。
サン「顔が……!顔が違う‼顔がっ、かっ、誰だぁ!誰…………。」
サン「ユダ…!お前がアグニ様に何かしたんだろ‼顔を戻せよ‼悪魔…!魔女‼」
ユダ「あれはっ、あれは兄さんでしょ⁉」
サン「顔が違うだろ‼」
ユダ「顔が違えば兄さんじゃないって思ってるの…?」
サン「顔が違うのは…嫌だろ‼」
こうして、アグニとサンの戦いが始まる。「顔が違う」というだけでここまで解釈違いの反応を起こせるのかと思うのかもしれないが、アニメオタクや声優オタクであればこのサンの気持ちも理解できるのではないだろうか。すなわち、長い間慣れ親しんでいたアニメのキャラクターの声優さんが変更されたときに「声が違う!」となることを想定するとサンの気持ちも少しは分かるようになるのではないかと思われる(決して分かっていいものとは限らないのだが)。ちなみに私は未だに『ドラえもん』の声は水田わさびさんではなく大山のぶ代さんに囚われていると言える(別に現在「ドラえもん」役として真摯に仕事をしている水田わさびさんを否定したいわけではない。ただどうしても大山のぶ代さんをはじめとした懐かしのキャストの幻影に囚われているのである)。それはともかく、戦いの最中、サンはアグニに対する思い込みをぶちまける。それが以下のシーンである。
サン「アグニ様はなあ…!そんな酷い事しねえんだよぉ‼俺の…俺のアグニ様はなぁ…!正義に生きていて…悪を倒す…!ヒーローなんだ‼ 神様なんだよお‼ 助けを求めれば絶対に答えてくれて!俺の憧れで…!この世界の主人公で…!そんな顔じゃ悪役じゃないか‼」
「俺のアグニ様」と言っているように、サンはあるがままの目の前のアグニを見ようとはしないで自分が作り上げた理想のアグニだけを見ようとしている。なので、たとえ目の前に居るのが本物のアグニだとしてもそれをアグニとは絶対に認めないのである。こうした個人の認知の歪みを"LOVE PHANTOM COMPLEX"と称するのである。そして、最終的にサンはアグニに失望を抱いたままアグニに敗北することになる。"LOVE PHANTOM COMPLEX"を拗らせた者は悲惨な末路を辿るというのが藤本タツキ作品の特徴と言えるのかもしれない。
あるいは、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する女子高生の山岸由花子(やまぎしゆかこ)も"LOVE PHANTOM COMPLEX"に罹患していると言えるかもしれない(単純にいわゆる「ヤンデレ」「ヒステリック」という言葉でも説明がついてしまいそうな気もするが)。山岸由花子は第4部の主人公である東方丈助(ひがしかたじょうすけ)の友人である広瀬康一(ひろせこういち)に恋をする。そこまでは微笑ましい高校生の恋愛模様で済むのだが、康一君が由花子への返事を曖昧にしていると突然豹変したように由花子がプッツンする。そんな光景を目の当たりにした康一君は友人の丈助達の力を借りてわざと由花子の前で康一君の悪評をばらまいてもらおうとするが、それがかえって逆効果となり、康一君は由花子に拉致監禁され自分にふさわしい男になるように「教育」を施されるようになる。最終的に康一君は自身のスタンド能力を上手く使いこなすことで難局を打開し、あまつさえ由花子の命をも救って見せたことで、改めて由花子は康一君に惚れ直すという展開になる。何とかハッピーエンドに着地し「恋は盲目」とはなんたるかを思い知らされるエピソードなわけであるが、このエピソードも"LOVE PHANTOMCOMPLEX"の症例を知る上で参考になるエピソードではないかと思われる。当初由花子が康一君に好意を抱いたこと自体は間違いではないものの、康一君を「理想の男に教育しなければ」という妄執に取り憑かれたことで大変な事態を巻き起こしてしまったわけである。最終的にあるがままの康一君を好きになれたのが不幸中の幸いである。
さて、今度は見方を変えた"LOVE PHANTOM COMPLEX"の症例を見ていこう。今までの"LOVE PHANTOM COMPLEX"の発症する対象は自分以外の誰か・何かに対するものであったが、発症対象が自分自身に向かった場合、言い換えれば「極度なナルシズム」に陥った場合はどうなるのだろうか。結論から先に行ってしまえば、あまりにも肥大化した「理想的な自分」とあまりにも乖離した「現実の何物でも無い自分」とのギャップに苦しむことになるだろう。これは"LOVE PHANTOM COMPLEX"の亜種だと思われるが、目の前の現実を「理想と違う」と否定し、だいたい間違った方向に良からぬ行動を起こしがちなのは本質として変わらないのである。この自己に対して"LOVE PHANTOM COMPLEX"を発症している個人的に最悪な具体例として挙げられるのは、『銀河英雄伝説』のアンドリュー・フォーク准将であると思われる。「働く無能」(ここだけの話だが私は「働く無能」とは権利能力のない害獣と同義とみなしている、すなわち「働く無能」は即刻この世から射殺されるべき存在と思っている。「働く無能」とはこの世にマイナスをまき散らすだけの有害な存在だからである。こういう輩は「なにもしない」方がむしろマシなのである)の代名詞としても有名な彼は士官学校時代の成績は優秀だったらしいのだが、こと実践となると机上の空論を振りかざし現場を混乱させ、実際に自由惑星同盟の滅亡を早めたと言われる人物である。こうした現象が起こるのは、あまりにも肥大した自己愛によるところが大きい。「万能の幻」を自分自身に設定するような人間が国家の中枢に居座ると、下手をすれば国が滅亡しても不思議ではないことを表したエピソードである。
もう少し身近な例になると、『税金で買った本』という漫画に登場する図書館の正規職員の茉莉野(まりの)さんなんかがそうである。「理想の仕事が出来る自分」と現実の「図書館に島流しされた自分」とのギャップに苦しむわけである。理想と現実とのギャップがあることを同僚の非正規の職員である白井さんに分からせられるまでは「理想の仕事が出来る自分」という幻想に囚われて周囲の非正規職員との溝が深まるわけになるわけだが、それも自分自身という「万能の幻」に囚われたせいである。先程のアンドリュー・フォーク准将と比べると茉莉野さんはまだ取り返しの付く方だとは思うが、現実の職場にいそうなのが解像度が高くて嫌な気分になる人もいるかもしれない。
このように、フィクションと現実の両方に分けて"LOVE PHANTOM COMPLEX"の症例を見てきたわけだが、聞き覚えが無いだけで意外と身の回りに溢れている、あるいは読者自身にも(無論私にも)身に覚えのある現象であることがおわかりいただけたのではないだろうか。
4 "LOVE PHANTOM COMPLEX"の処方箋としての『イチブトゼンブ』
以上が、私が提唱する”LOVE PHANTOM COMPLEX"(以下「ラブコン」)の症例である。創作の内に留まる範囲内であればまだ他人事として笑えるかもしれないが、これが身近に居る人間やあるいは自分自身がこの症例に思い当たる節があるならば、このラブコンを放置することは間違いなく人間関係の構築や運用に支障を来すことになるだけでなく、自分自身にも「万能の幻」を見出してしまうと理想と現実とのギャップに苦しむことになり、最悪適応障害や鬱病などの精神疾患に罹患するリスクも上がってしまいかねない。あるいは、他者や社会・世間に自分の中にしか存在しない「万能の幻」を強引に強要することで法的・社会的責任を負わされることにも繋がりかねない。
そんな厄介なラブコンであるが、はたしてこれを治療する方法あるいは処方箋的なものは存在するのであろうか。この疑問に対して、私の私見であるが、ラブコンに対する処方箋的なものは存在すると主張したいと思う。
それは、同じくB'zの楽曲である”イチブトゼンブ”である。この曲を聴いたことがない人は、まず何を置いてもこの曲を聴いて欲しい。Youtubeでは公式MVと撮り下ろしスタジオライブ収録版の二つあるので、そちらの動画のリンクを貼っておく。是非視聴して欲しい。そして、両者の差を感じて欲しい。同じ曲でも少しずつ変化していることがよく分かるはずである。
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B'z / イチブトゼンブ
B’z Live from AVACO STUDIO “イチブトゼンブ”
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さて、ラブコンを解きほぐす鍵となるフレーズがこの”イチブトゼンブ”という曲に含まれている(と思われる)ので、早速その「答え」を挙げようと思う。その答えとは、以下の歌詞にある。
すべて知るのは到底無理なのに
僕らはどうして
あくまでなんでも征服したがる
カンペキを追い求め
愛し抜けるポイントが ひとつあればいいのに
"LOVE PHANTOM"との歌詞と対応させると、「カンペキを追い求め」ることが「万能の君の幻を僕の中に作」る事に等しいのだろう。そして、「全て知るのは到底無理」であるにもかかわらず万能の幻に囚われているが故に自分の思い通りに「なんでも征服したがる」という悪循環にハマってしまう。そうならないようにするにはどうしたらよいか。それは、自分の愛する者・物・モノ(コンテンツ)に対して多少悪いところがあったとしても、他ならぬ自分が惚れ込んだところがたったひとつでもあれば「それでよし」とするのである。あまりにもシンプルで拍子抜けかもしれないが、思っている以上に真実はシンプルなものであり、だからこそ実際にそれを実行するのは困難だったりするのである。さらに、”イチブトゼンブ”では最後にダメ押しとしてこんなことを謳っている。
愛しい理由(わけ)を見つけたのなら
もう失わないで
愛しぬけるポイントがひとつありゃいいのに
それだけでいいのに
「愛しぬけるポイントがひとつありゃいいのに」と大事なことなので何度でも歌われているのである。これはラブコンを克服する上でも大事なポイントである。せっかくならばそらんじられるように何度でも歌ってみるのがオススメである。
さて、これだけでは満足しないという読者のために、もう少しラブコンの処方箋となるべき存在がないか自分の周囲にあるものを探してみた。すると、ラブコンの具体的症例を紹介する際にいくらかマンガ作品を紹介したので、ラブコンの処方箋になり得るマンガ作品もいくつか紹介しようと思う。
まず一つは『Shrinkシュリンク~精神科医ヨワイ~』(原作:七海仁、漫画:月子、集英社グランドジャンプコミックス)である。パニック障害や解離性同一性障害、鬱病や薬物依存症からアンガーマネジメントまで、ありとあらゆる精神や感情との向き合い方を主人公の精神科医である弱井(よわい)先生が指南するという作品である。直接ラブコンの処方箋となるようなエピソードは現状は無いかもしれないが、何かしらラブコンを抱えて生きづらさを感じている人のヒントにはなり得る作品である。
もう一つは、『マンガで分かる心療内科』(原作:精神科医ゆうきゆう、作画:ソウ、少年画報社)である。上述の『シュリンク』に比べるとコメディ色の強い漫画であるが、それでもためになる知識が身につく漫画であると思っている。連載期間が長い分単行本も多く刊行されているが、「依存症編」「ADHD編」「うつ病編」といったようなテーマに分かれた単行本もあるので、自分に合ったテーマのものだけをピックアップして読むのもいいかもしれない。そして、今回のnoteで取り上げたラブコンと相性がよさそうなテーマは「ナルシズム」や「認知の歪み」に関する話題であると思われる。1冊を読むだけでなく複数感読むことで理解が深まるものと思われるので、興味かあれば手に取ってみて欲しい。
5 おわりに~私の人生の「先生」はB'zです、そしてB'zはいつも期待を超えてくれる~
私は道徳的な教えは物心ついたときからB'zの楽曲に教えられたと言っても過言ではない。私の中ではB'zはいわゆる「推し」というよりは「教祖様」的なものに近いといった方がいいかもしれない。例えば、人生が辛く何もかも逃げ出して投げ出したいとなったときには"Wonderful Opportunity"という曲がこのように教えてくれた。
逃がさないで 逃げないで 胸の痛みと手をつないで
明日を迎えよう
イヤな問題 大損害 避けて通る人生なら論外
生きてるからしょうがない
シンパイナイモンダイナイナイナイザッツライフ
楽になりたい 泣き出したい いつか今を軽く笑い飛ばしたい
なんとかなるよ
イカす男女 ナレるでしょ 切り抜ければ待ってる次のショウ
トラブルは素晴らしいチャンス
シンパイナイモンダイナイナイナイザッツライフイッツオーライ
また、周囲の何気ないツマラナイ忠告に押しつぶされそうになったときは、”裸足の女神”という曲がこのように教えてくれた。
情けないヤジばかり飛ばすだけの ヒマジンなんかよりよっぽどいいから
このように、B'zの歌詞・楽曲は人生を生きていく上で前向きになれるミエナイチカラを与えてくれる。ここで紹介したのはほんの極一部にすぎない。自分の中のB'z経典的なものを創り上げていって欲しいと願うばかりである。
そして、B'zあるいはB'zを運営ないしサポートしている人々は常にファンの期待を超えることをしてくれる。B'zの素晴らしさに慣れてしまうとうっかりそのことを忘れてしまいがちになるが、忘れた頃にその素晴らしさを思い出させてくれるのがB'zの心意気なのである。紅白歌合戦2024のアーカイブ視聴期限も過ぎ去り、B'zの初の紅白歌合戦出場のパフォーマンスをフルで試聴できなくなってしまい、早くもB'zロスに陥っている新規のB'zファンに向けて、B'zのオフィシャルYoutubeチャンネルは早速以下の動画をあげている。紅白歌合戦で披露された"LOVE PHANTOM"と"ultra soul"の過去のライヴバージョンである。95年にライヴで披露された"LOVE PHANTOM"はまだCDがリリースされる前の未発表曲扱いだったので、観客のリアクションも「未知数の曲が来た」というものになっている。また、2023年と2018年にあげられているそれぞれの映像はライヴ1曲目に披露されていることも注目に値すべき点である。そして、各ライヴにおける稲葉さんや松本さんの細かいアレンジだけでなく、ライヴのサポートメンバーによっても楽曲の雰囲気も細かく変わってくるところも抑えて欲しいポイントではある。個人的には2018年のサポートメンバーが一番思い入れが深いメンバーである。紅白歌合戦でドラムを担当したシェーン・ガラースは2002年から2018年までB'zのLIVE-GYMにおいてドラムを担当してきたファンからの人気が高いサポートメンバーである。
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B’z / LOVE PHANTOM【B'z LIVE-GYM Pleasure '95 BUZZ!!】
B’z / LOVE PHANTOM【B'z LIVE-GYM Pleasure 2000 -juice-】
B’z / LOVE PHANTOM【B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS-】
B’z / ultra soul【B'z LIVE-GYM 2002 GREEN ~GO★FIGHT★WIN~】
B’z / ultra soul【B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-】
B’z / ultra soul【B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-】
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B'zは2020年に新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言が出され、外出自粛要請が出されるといった世の中が窮屈に感じられるご時世に、期間限定とはいえ”B'z LIVE-GYM at your home"と題して2020年時点で映像化されている過去のB'zのライブ映像作品を全てフル尺で・無料で・広告なしで視聴できるサービスを我々に届けたものである。
B'zの"LOVE PHANTOM"の歌詞を深掘りするという内容の投稿の筈が、いつの間にかただのB'zの布教投稿になっているだけになっている気もするが、何にせよ私としてはよりB'zを、B'zの楽曲を好きになってくれる人が一人でも増えてくれればいいと思っているのである。そして、B'zの真価が味わえるのはCD音源やYoutubeでの映像ではなく、やはり直接LIVE-GYMに参戦することである。2025年末にはスタジアムツアーが開催されるようなので、紅白歌合戦でB'zのライヴパフォーマンスを初めて知った人も、長らくB'zを愛してる人も是非2025年の最先端のB'zを味わって欲しいと願うわけである。