とっておきの京都手帖5 食堂「はやし」
<立夏/よしもと芸人も推しの 食堂「はやし」>
少し元気をつけようと思うと、かならず通う「食堂 はやし」がある。
看板女将の 林智恵子さんの笑顔を見れば、ホッとする。
厨房では、店主の 林 学さんが腕をふるう。
創業は昭和28年。
アイスキャンデー屋、うどん屋、そして3代目の林さんが、季節のメニューや新作をつくり続け庶民の味方「昭和の食堂」として大きく発展させた。
ノスタルジーあふれる店内は、町内の常連さんから観光客などでいつも賑わっている。
地下鉄東西線「東山駅」2番出口を出て3分。
京都市バス「東山」の停留所の真ん前、お店の行列かと見間違うこともしばしば(笑)
ヒット作は、トンカツ定食を大根おろしで食べるおろしトンカツ定食だ。
そして、いち推しは「オムライス」。
メディアもこぞって紹介する。
しかし、常連さんは絶対に注文しない。
ランチタイム、店主の手間のかかるオムライスは頼まないのだ。
もちろん「『は』ようて」なのだが、人と人が織り成す町の食堂だからこその気遣い、もはや「はやし」愛に他ならない。
創業来の合言葉は、「は」ようて 「や」すうて おいしい「し」。
その年季の入った看板が、東大路通で出迎えてくれる。
「よしもと祇園花月」から徒歩5分、舞台をはさんで芸人さんたちがやってくる。
店内の壁にはびっしり貼られた色紙。
芸人やタレントさんの心がこもった「はやし」への賛辞を、冷えたビールを飲みながら眺める、これがまた堪らない。
ほど良い賑わいの中に、「はやし」を求めてホッとひと息つく様子が伺えると、見ず知らずでも同じ空間に在る「はやし」仲間なのだと感じる。
外国人観光客が立ち寄る姿もよく見かける。
注文を受ける女将には、言語の違いも国境も人種も関係ない。
誰に対しても変わらぬ笑顔なのだ。
寒さが感じられる季節なら、身体の芯から温もってほしい。
そんな時は、辺りが暗くなってきた頃の「はやし」の灯りが見えた瞬間からして、身も心もほぐれ癒やされる。
これから日に日に迎える本格的な暑さには、「キリンビールが私を待っている」と足取り軽やかに涼を求め、揚げ物との口福を心ゆくまで楽しみたい。
昭和の風格の「はやし」は、いつでも「おかえり」といった雰囲気で温かく迎え入れてくれるから、次はいつ来ようかと楽しみになるのだ。
私の胃袋は完全に「はやし」の大将に掴まれている。
そして、急速に時代は変われど、変わらずにいてくれるものに、人は心の底から安堵を覚えるのではなかろうか。
空腹と心を満たした後は、仕事へ家路へ次なる目的へと、力強い歩みで出発することができる。
観光地として忙しい東山の地にあって、「はやし」は今日も変わりなく、「は」ようて 「や」すうて おいしい「し」を届けてくれる。
メニューの多さにも驚くだろう。
きっとあなたの好きな「はやし」にも出会えるのではないかと思う。
東山をぶらりと散策する際には、昭和の活気あふれる「はやし」に立ち寄られてはいかがかな。
<(c) 2024 文 白石方一 編集・撮影 北山さと 無断転載禁止>