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骨のない生き物たち 【詩】

新富山駅で
真夜中まで映している 無声映画
見惚れていて
何本も電車をやり過ごし
いつの間にか
塩のにおいにつつまれていた
裸電球が揺れる駅舎 ぼくらの脚が
塩分に浸かっていた とても白い
塩分が寄せては返す とても濃厚で
しんみりして 静かな 汽水域
脚が 心地よく ピリピリ

(ズボン ずり下がっているぞ)

お腹から
内臓が見えていた
赤い心臓 白い膵臓
青っぽい毛も 見えていた
沖漬けにはちょうどよい 頃合い
濃厚な脾臓が溢れていく夜の海
海藻のにおいが混じり
行商たちの喉笛 この先
いまは廃線になっているが
注意深くたどればわかる
新港までの傷跡がある

もうすっかり 内臓が海だ
いいにおいがしているんだろうな
底知れず
ずり下がっていく足元から
ドロドロの海獣が 頭を見せる

(おい そろそろ出かけるけよ)
(待たんか からだが重いんが)
(朝から酔うてるんけ)
(もうすっぽり発酵してるようなんだが)

行商たちの
長い旅路の終わりに
塩漬けの草が匂う 汽水域 薄暗い
薬売りたちのモノクロ映像
じめじめした雨がふりつづき
骨のない生き物たちの息が 濃厚な
声を出しながら 七本の脚をゆらゆらさせて
改札口から入っていく

木造車輌が忍んでくる 牛のようにゆっくり

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