Nizi Projectに学ぶ、人材育成と組織開発のヒント
図解マニアの仲山(仲山考材代表/楽天大学学長)です。こんにちは!
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人を増やす」ために「考える材料(考材)」をファシリテーションつきで提供する仕事をしています。テーマとしては「指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり」や「人が育ちやすい環境づくり」などを探求しています。働き方がちょっと変わっているので「自由すぎるサラリーマン」と呼ばれることもあります。
コロナ当初、講座・研修がほぼキャンセルになって時間ができたので、軽い気持ちでSNSに「きょうの考材」として一日ひとつずつスライドをアップし始めたら、意外と続いています。一覧にするとこんな感じ↓です。
さて、そんなある日のこと、LINEの青田努さんからメッセージがきました。
「アドベントカレンダーの企画に参加しませんか」
面白い人からの面白そうなお誘いには「はい」か「イエス」で答える習性のため、「参加します!」と表明したあと、「アドベントカレンダーっていうのは25人で順番に記事を書くことなのか」と知り(←無知すぎる)、しかも参加予定者の一覧を見ると「人事(HR)のプロ」な方々がずらっと並んでいるのを見て不安になり(企画タイトルをよく見たら「HRアドベントカレンダー」でした)、青田さんに、
「企業の人事担当さんとのつながりなんてほとんどないので、何を書いたらよいかわからなすぎます。なので青田さんとおしゃべりタイムお願いします」
と懇願したところ、「よくわからないけど面白そうなのでいいですよ」ということに。
「よかった〜」と思ったものの、おしゃべりタイムを控えたぼくには、気になることが一つありました。
「青田さんの、あのバズっていた連載記事は読んだほうがいいんだろうか?」
そう、これのことです↓
Nizi Project・・・縁がなさすぎます。
人材育成はぼくの探求テーマの一つで、1年前に『育成の本質』という本も出させてもらっているのですが、
「アイドルとかぜんぜん興味ないから、ついていけなそう・・・」
「オーディション番組って、競争でドロドロしてそう・・・」
「やたらコワいトレーナーの人が怒鳴ってそう・・・」
というニガテな展開が頭に浮かんでしまって、どうも気が進まなかったのです(人材育成にも好みの流派とそうでないのとありますよね)。
が、何度か迷った末、意を決して記事を読み始めました。
「なにこれすごい。おもしろい!」
連載1回目から引き込まれました。
なんと青田さんは、プロデューサー J.Y. Park氏の言葉に感動したあまり、「番組中の彼の言葉をすべて文字起こしした」というのです。その量、5万4000字と。青田さんヤバい。
さらに読み進めてみると・・・
「なにこの図すごい」
と思わず見入ってしまったのが、これ↓です。青田さんが Nizi Project の仕組みを整理した図。
この図がステキだと感じた理由は、次の3つです。
(1)ほかのものにもあてはまる普遍性の高さ
(2)Do価値とBe価値が半々になっているバランスのよさ
(3)原石の磨き方(J.Y. Park氏の役割)の多様さ
この図のいい香りに引き込まれて連載を一気読みしてしまったぼくは、「これはもう観ざるを得ない」と、土日にYouTubeで「Nizi Project」全20話を観て、「おもしろーい」とハマったのでした。
思ってたのと全然違って、ドロドロもしてないし、コワい人が怒鳴りもしないし、そもそも韓国のアイドルグループの話だと思ってたら全員日本人でした(←本当に何も知らなかった)。
そして20話を観終えたあとで青田さんの記事を読み返すと、「この解説はあのシーンのことを言っていたのか!」「あの展開のなかから、このキーワードを出してきたのか!」などと、より理解が深まるわけです。
というわけで、さきほど挙げた「青田図」3つのポイントについて、詳しく書いてみます。
(1)ほかのものにもあてはまる普遍性の高さ
全20話を観てから青田図を見直すと、Niziキューブの4つの評価基準である「ダンス」「ボーカル」「スター性」「人柄」に加えて、青田さん独自の「エッジ」「真正性」「バリュー(真実・誠実・謙虚)への共感」「学び合う姿勢」が添えられていることがわかります。
一見、「ダンス」や「ボーカル」といったアイドル育成に特化したような項目や「真実・誠実・謙虚」というJ.Y. Park氏のつくったバリューが出てくるので普遍性はないように思えるかもしれませんが、その3ヵ所を入れ替えれば、このフレームワークは何にでもあてはまるものになります。
そこで、自由に入れ替えられるよう、まずは青田図を「写経」してみました(笑)。
上の、赤で塗った部分3ヵ所を入れ替えてみましょう。
ぼくの場合は、20年にわたって楽天市場のネットショップ出店者の成長支援をしてきたので、その視座であてはめていきます。
「ダンス」と「ボーカル」に相当する2大スキルは、いろいろな切り口があり得そうですが・・・
あえて抽象度高めに「デジタルスキル」と「アナログスキル」にしてみます。ネットショップなので、ウェブサイトをつくれないといけないですし(デジタルスキル)、実はそれだけではなく、お客さんとのコミュニケーション(アナログスキル)の上手なお店がうまくいくからです。
「真実・誠実・謙虚」に対応するバリューについては、楽天市場が創業当初から大切にしている「Shopping is Entertainment!」がぴったりハマります。お客さんとのコミュニケーションを軸にして、買い物の楽しさを広げていくことが大事、という価値観です。
ついでにタイトルや細かい部分(赤枠部分)をチューニングしてみたら、こんな感じ↓になりました。
黒地部分のJ.Y. Park氏の名前を「ECコンサルタント」に差し替えたり、発掘部分の「選考」のニュアンスはなくしたり、「競争力学の設計」を「コミュニティの設計」に変えたりもしています。
この図、かなりしっくりきます。
特に、ぼくが2000年に立ち上げた楽天市場出店者の【学び合いの場】である楽天大学が、青田図でいう「学び合う姿勢」にいい感じにハマります。
というわけで、この青田図の「普遍性の高さ」がわかるわけです(サッカーチームなんかにもあてはまるはず)。抽象化マニアにはたまりません。
(2)Do価値とBe価値が半々になっているバランスのよさ
青田図を見るとわかるように、「スターになる要件」と「スターであり続ける要件」が4つずつで構成されています。
ぼくは変化の激しいEコマースの世界に20年いて、「短期的に売上を伸ばす(スターになる)要件」だけに注力をしたことで「売上は大幅に伸びたが、消耗戦に陥って商売を長続きさせられなかった」という人をたくさん見てきました。
「商売を長続きさせる(スターであり続ける)要件」がいかに大事か、日々学ばせてもらっています。
なお、「スターになる要件」は即効性があり、「スターであり続ける要件」は遅効性だと書かれています。ぼくは両者を「Do価値(やり方)」と「Be価値(あり方)」の違いだと考えています。
J.Y. Park氏はたびたび、「自分以外の誰かになろうとしてはいけない」という趣旨のフィードバックをします。特に「アイドルってこういう感じでしょ」というステレオタイプなイメージでパフォーマンス(Do)をしたり、「こんなふうにしておけばファンは喜ぶんでしょ」的なふるまい(Do)をしたりすると、必ず注意します。その際は「あなたが誰なのかが見えてきません」といった表現を使って、Be価値を問います。
「自分のあり方(Be)」をないがしろにして、「スターになるためのやり方(Do)」だけうまくなっても価値がないと。
というわけで、青田図の「スターになる要件(Do価値)」と「スターであり続ける要件(Be価値)」が半々になっているというバランスは、とってもステキだと思う次第です。
(3)原石の磨き方(J.Y. Park氏の役割)の多様さ
人材育成がうまくいかない人のパターンでよくあるのが、コーチング学びたてのときなどに、なんでもかんでも問いかけなければいけないと思い込んで「自分のなかに正解があるもの」でも「キミはどう思う?」と尋ねて、答えが違うとイライラする・・・というやつ。
または、「仕事を任せた以上は口出ししたいのをグッとガマンしてこらえなければいけない」と、途中で何のフィードバックもしないままイライラして最後になって激しくダメ出しをしたり、「言わずして自分の思い通りに動かそう」として婉曲的な表現をするものの伝わらなくてイライラしたり。
共通するのは、「育成に必要なたった一つの◯◯」のようなわかりやすいコンテンツを好むあまり、いつまでも解像度が上がらない点です。解像度を上げることができると、「原則は一つかもしれないけど、やり方はいろいろある」「うまくやれている人は、いろんな施策を全部やっている」と気づくに至るわけです。
なので、青田図の「J.Y. Park氏の役割」が丁寧に要素分解されているところが「解像度高くて、めっちゃ親切!」と思ったのでした。
(青田図、再掲します)
ちなみに、個人的に「おや?!」と思ったのは、「スター性」のところが「本人の内省 × 問いかける」となっていたところ。スター性って、天賦の才能みたいな印象があったので「なぜ内省?」となったのですが、YouTubeを観て「スター性」の意味合いが「あなたはほかの人とどこが違うのか(どこが魅力なのか)」だとわかると、問いかけによって内省を促すという関わり方の大事さがハラオチしたのでした。
というわけで、「わかりやすいことが正義」みたいな風潮もあるなかで、「複雑なものを単純化しすぎてはいけない」というメッセージを受け取れる青田図は「(本当の意味で)親切だな〜」と感じたのでした。
ぼくのターン
”Nizi Projectは「チームビルディングの教科書だ」と、組織開発ファシリテーションのプロが断言する理由”
そして今回、青田さんの図解を見ているうちに、アンサーソング的に返してみたくなりました。
ぼくは何を観るときも、「個と組織の成長ステージめがね」で観てしまう習性があります。青田さんは「J.Y. Park氏の言葉」に着目をしていましたが、ぼくは「Nizi Projectのお題設計」に着目すると取れ高が大きいと感じて、こんな図をつくってみました。
チームづくりは、ジグソーパズルのイメージで考えるとわかりやすいと思っています。その前提で、この図を①〜⑦の順を追って見ていきましょう。
①集合
オーディションを通過したメンバーが、東京合宿に集まります。J.Y. Park氏やトレーナー、スタッフを含めて、まだメンバー間の相互理解度は低いので、各人の凸(強み)がどこで、凹(弱み)がどこなのか、パズルのピースの輪郭があいまいな状態です。
Nizi Project では、まず凸凹の輪郭をハッキリさせるために、「個人のお題」から始めます。かつ、そのときの評価基準は「ナチュラルさ重視」です。一見、うまそうだけれど型にはまったパフォーマンスをするメンバーには、徹底して「自分の凸凹を見せる」ようフィードバックします。青田図でいう「真正性」です。
ここで強調しておきたいのは、決していきなり「全員で動きを合わせるようなお題(チームお題)」をやることはしない、という点。凸凹を開放する前にそれをやると、次の図でいう左側のような組織になってしまうからです。
うまく見えるよう「型にはめる」ためには、凸を削って凹を埋める必要があります。そういうクセがついていると、J.Y. Park氏から「動きが小さい」などと言われることにもつながります。
「真正性」とは、「人は本来、凸凹なんだから小さい正方形にまとめたらニセモノになる」ということです。ジグソーパズルに正方形のピースはいらない。
②試行錯誤
凸凹がハッキリしたら、「チームのお題」に入ります。ただ、やはり「全員」ではやりません。少人数のグループに分けます。韓国合宿でいえば、最初のチームお題は3〜4人組です。
課題曲が出て、はじめのうちはみんなの動きがバラバラ。試行錯誤が始まります。
③小さな成功体験
試行錯誤を繰り返し、本音で意見をすり合わせるうちに(←ここ、大事なところですが今回のテーマはお題設計なので割愛)、小さな成功体験が生まれます。パズルのピースがはまり始めるイメージ。
④達成
あきらめずに試行錯誤を続けることで、ついに息ピッタリのパフォーマンスができるようになります。チーム完成です(その前にあきらめると、チームになれないまま終わります)。
⑤チーム解散
⑥グループに戻る
パフォーマンスが終わると、チームは解散します。3〜4人のメンバーは、「Nizi Project グループ」へ戻ります。
チームは解散しますが、チーム完成まで到達したメンバーには「信頼関係の絆」が生まれ(グループのコミュニティ化)、各人が成長してピースのサイズが大きくなり、「この高さのレベルでやるのがNizi Projectらしさだよね」という価値基準が共有された状態になります。
(ここで図を再掲しておきます)
⑦2周めのお題へ
3人組のお題を終えると、次は6人組のお題が出されます。
メンバーが組み換えられつつ、お題の難易度もアップするわけです。それによって2周めのチームビルディングサイクルが回り始め、また試行錯誤を経てチームになったメンバーが信頼関係でつながり、ピースが大きくなり、価値基準の共有度合いがアップデートされます。
そしてついに、デビューに向けて「全員(9人)」でチームになるお題(3周め)へ・・・という、成長を促しやすい段階的(らせん的)なプログラム設計になっているわけです。
まとめ
【1】個の凸凹をハッキリさせてから、チーム化する
【2】チーム化は、少人数から始めて人数を増やしていく(難易度アップ)
【3】チーム化は、お題ごとにメンバーを組み替えながら信頼関係のつながりを増やしていく(グループのコミュニティ化)
【4】いきなり全員で合わせようとしない
【5】ピースを正方形に矯正しようとしない
ということで、ぼくから青田さんへのアンサーソング「Nizi Project に学ぶ『個を活かした組織』を育むお題設計」でした。
青田さんとは HRアドベントカレンダー2020「○△に大切な□✗」 の企画で、「お互いの図解について話そう」ということになりました。青田さんもぼくの図解(考材)からお気に入りを選んで記事にしてくれています!
(青田さんが書いてくださった記事はこちら↓)