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書評:坂部恵『カント』

稀代の哲学者イマニュエル・カントの人と思想を求めて

今回ご紹介するのは、坂部恵『カント』という著作。

これまで私は幾冊もカントの入門書・解説書を読み漁ってきたが、本著は圧倒的に優れた著作だと思われる。

一般に哲学者の原典は難解であり、カントの著作もその例に漏れない。

私も学生時代に『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『道徳形而上学原論』、『永遠平和のために』等々、岩波文庫で出版されているものをだいたい読んでみたものだが(『判断力批判』は当時岩浪文庫が復刊されていなかったので学生時代は未読)、線を引き、行間にメモを入れ、ノートをとりながら時間をかけて読み進めても、その理解には相当な能力が要求された。

また、巷に溢れるカントの入門書の類は、大抵『純粋理性批判』に的を絞ったものであり、カント哲学の大要を掴むには役不足な感が否めないのが本音でもあった。

その点、本著はカントの人生、カントの人物像、カント哲学の体系性、カントの著作の主要ポイントを網羅的にかつコンパクトに纏め上げた、一般読者に向けられた坂部先生の力作と言えるのではないだろうか。

特に、カントの著作ばかりではなく、カントによる大学での講義科目に注目する、カントと実際に親交のあった伝記者の証言に注目するなど、著作のみからでは決して掴み得ないカント像に迫っている点は貴重である。

カントにおいては、一般に最重要とされる「理性批判」はその哲学体系の基底部でしかなく、その上に人間学、道徳哲学、自然哲学、宗教哲学、政治哲学など、幅広い考察が繰り広げられる。

入門書とはいえ、それなりに分量もあり内容も重厚ではある。しかし、それはやはりカント哲学の深厚が故であり、やむを得ないことだろう。

妥協しない入門書だ。

本著を読むと、改めてカントの著作に挑戦したくなる。今の私なら、どこまで理解し自分の思考の糧とできるのだろうか。

特に、「カント哲学の限界」については自分で思索し抜かねばならない課題だと考えているため、その境界ラインを探る再読は私にとって不可欠な挑戦となるだろう。

本著は、私にとって「哲学の深遠な旅」への誘いになった著作である。

読了難易度:★★★☆☆(←内容に妥協なし)
カント哲学の全容把握度:★★★★★
カントの生活とか溜飲下がる度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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