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マンガ&エイガ考察

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マンガや映画などの作品について考察・言及したものです。
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『違国日記』『オーイ!とんぼ』再読中

『違国日記』『オーイ!とんぼ』再読中

ヤマシタトモコ『違国日記』を前に一度読み、素晴らしいと思って、最近もう一度読み直している。心情描写やセリフの一つ一つがソリッドで瑞々しく、綺麗で深い湖のようである。そして、あらためて読むと細かいシーンのディテールがとてもリアルで映像的なのに気づく。開けっぱなしにした冷蔵庫のピーピー鳴る音とかね。そういう細かい現実的描写の積み重ねによって、平面的であるはずのコマの向こうの登場人物たちが、血肉を伴った

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手塚治虫『シュマリ』考察(後編)

手塚治虫『シュマリ』考察(後編)

それでは、『シュマリ』について後編を書いていきます。

前編はこちら↓からどうぞ。

アイヌの子、ポン・ションシュマリにはこの時点で家族がいませんが、ある日アイヌの赤ん坊がシュマリの家に入り込みます。赤ん坊と言っても自分の名前は言えるので、乳児ではなく幼児といったところ。その子は自分のことを「ポン・ション」と名乗ります。アイヌでは一種の魔除けのために子どもにわざと下品な名前をつける習わしがあります

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手塚治虫『シュマリ』考察(前編)

手塚治虫『シュマリ』考察(前編)

今回は手塚治虫の『シュマリ』について書いていきます。

言わずと知れた漫画の神様、手塚治虫。その作品群の中で私は『シュマリ』が一番好きです。あまたある手塚治虫作品の中で、なぜ『シュマリ』?それは自分でもよくわかっていないところがあります。本稿では、なぜそんなに『シュマリ』が好きなのか、作品について考察しながら自ら解き明かしていければと思っています。では、はじめます。

手塚治虫とパブロ・ピカソ手塚

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岩明均『ヒストリエ』12巻についての考察(後編)

岩明均『ヒストリエ』12巻についての考察(後編)

さて、後編を書いていきます。

前編のリンクはこちら。

ほんのわずかの違和感先に書きますが、『ヒストリエ』を1巻から何度となくずっと読んできて、この12巻の展開については少し違和感がありました。漫画としてはダイナミックで面白いのですが、ほんのわずか、細かく丹念に積み上げてきたはずの物語のバランスが崩れているような気がしたのです。

その理由ですが、どうしてもアリストテレスによるフィリッポスの蘇生

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岩明均『ヒストリエ』12巻についての考察(前編)

岩明均『ヒストリエ』12巻についての考察(前編)

11巻から5年。ようやく出ました12巻。

発売日である6月21日の夏至の日に購入。
さっそくネタバレを含みながら書いていきたいと思います。

歴史ものなので、史実を調べることでどうしても「物語の先」が見えることになります。このエントリはそこについても言及するのでご注意ください。

さて、この作品は随所にユーモアを散りばめながら、「決め」のところではかなりエグい描写を使ってくるので油断なりません。

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『宝石の国』考察(完結編)

『宝石の国』考察(完結編)

なかなか書けずにいましたが、ついに完結編です。
本誌連載終了で世間の熱が高まっていた頃に書くべきとは思いましたが、ままならないのは人間の常です。ままならないと言えば仏教です。仏教といえば『宝石の国』。ということで完結編エントリを書いていきます。

前回の最後に、この後のストーリー展開をざっと書きました。こうです。

祈りのために必要だった「七宝」とは何でしょうか。
調べればわかる一般知識を詳しく書

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『宝石の国』インターミッション

『宝石の国』インターミッション

『宝石の国』考察の完結編の前に、インターミッションです。

この作品は各単行本のキャラクター紹介ページも楽しく、見開きでその世界観が存分に発揮されています。それぞれのキャラクターに添えられた簡潔な紹介コメントも、物語が進むにつれて少しずつ変化します。

それぞれ見ていきましょう。

※画像はタップすることで拡大できます。

1巻なし。

2巻まずは2巻。序盤の平和な「学校感」がそのまま出ています。

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人名を含んだタイトルなのに主人公が明らかに別の登場人物、という物語

人名を含んだタイトルなのに主人公が明らかに別の登場人物、という物語

ふと思い立って、Twitterで以下のような募集をかけてみたのですよ。

そもそもの発端は、上記ツイートにもある「鬼龍院花子の生涯」である。
あらためてちゃんと通して観たのはごく最近になってからだった。
この映画、ポスターでも予告でもヒロインはどう見ても夏目雅子なのだが、
夏目雅子が鬼龍院花子ではないのである。
(ちなみに鬼龍院花子役の高杉かほりはwikipediaに項目すらない)
この構造はあら

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一番いいジブリ映画。

一番いいジブリ映画。

「ジブリの映画の中で何が一番ッスか?」
会社での他愛もない会話のひとコマ。
ジブリ映画ねえ。

「やっぱり『カリオストロの城』とかになるんじゃないの?」と僕。
「それは確かに宮崎駿だけど、ジブリじゃないッスよ」と同僚。
「なんかさ、駿で『カリオストロの城』がいいって言うのって、
スピルバーグ映画で『激突』がナンバーワンって言うのと似てんね」
「そうッスね」
「なんだろうね、『ナウシカ』とかにな

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荒木飛呂彦『魔少年ビーティー』

荒木飛呂彦『魔少年ビーティー』

18歳の春、仙台にあるデザイン専門学校の見学に行った際、玄関横のロビーにあるソファで待つ間に渡されたのは「ジョジョの奇妙な冒険」のコミックスの束だった。
「当校の卒業生の作品です」
漫画読みなら知らないものはいない荒木飛呂彦とのそれが初めての出会い…というのは嘘で、「ジョジョ」の第一部も僕は「少年ジャンプ」でリアルタイムで読んでいたし、なんならその前のいくつかの短い連載作品もほとんどすべて読んでい

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映画「トニー滝谷」

映画「トニー滝谷」



映画「トニー滝谷(たきたに)」の監督は市川準だった。
市川準は「病院で死ぬということ」「トキワ荘の青春」などの、
非常に静謐な映画を撮る監督であり、
もともとはCMディレクターであった。
なるほど、各シーンへの入り方、研ぎすまされた映像、
この緊張感は確かにCM的かもしれない。

「トニー滝谷」の原作は村上春樹で、
音楽は坂本龍一で、
主演男優はイッセー尾形で、
主演女優は宮沢りえだ。
もう、

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さらばゴールデンカムイ

さらばゴールデンカムイ

[ご注意]本稿はネタバレを盛大に含みます。

まずは作品について『ゴールデンカムイ』は2014年から週刊ヤングジャンプに連載された漫画作品。作者は野田サトル。Wikipediaから引用すると「明治末期(日露戦争終結直後)の北海道・樺太を舞台にした、金塊をめぐるサバイバルバトル漫画」だそうである。「冒険・歴史・文化・狩猟グルメ・GAG&LOVE 和風闇鍋ウエスタン」というキャッチコピーもあったが、的

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20220522 ドラゴンタトゥーのソーシャルネットワーク

20220522 ドラゴンタトゥーのソーシャルネットワーク

土曜日の夜は「ドラゴン・タトゥーの女」を観てた。そして金曜の夜は「ゾディアック」を観ていたので、デヴィッド・フィンチャー監督の映画を立て続けに観ていたわけである。

なんでいきなりフィンチャー祭りなの?と言われると答えに窮するが、理由の一つは、以下の鼎談動画でSSこと佐藤くんがこう言っていたのを思い出したからでもある。
「デヴィッド・フィンチャーは、基本的にハズレがない。1本もない」
彼のこの強い

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よほど疲れている時でも序盤からスッと入って面白く観ていける映画

よほど疲れている時でも序盤からスッと入って面白く観ていける映画

というなにげないツイートに、たくさんの映画をお勧めいただいたので、はなはだ簡易的ではありますがまとめます。

ひなぎくさんからは『ゆるキャン劇場版』。

みみくろさんのオススメは『ナチョリブレ』。

『クイーンズ・ギャンビット』はTLでオススメというのが流れてきたので。

まいんさんから『JUMANJI: WELCOME TO THE JUNGLE』。残念ながらNetflixにはきてないようでした

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