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長編小説「代読屋ははざまを繙く」

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大正十一年の東京府。上野にある古書店・春夏冬堂の店先には「代読承リマス、但シ日本語ニ限ル」と書かれた貼り紙が掲示されていた。店主の孫娘で女学生の安芸董子が書いたものだが、代読を請…
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記事一覧

「代読屋ははざまを繙く」第一話

懸想文(一) 料理屋や食料品店が立ち並ぶ上野広小路の一角に古書店・春夏冬堂はある。  初…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第二話

懸想文(二) 慎重な手つきで典也は三つ折りになっていた便箋を開いた。  市販の真っ白い便…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第三話

懸想文(三) 土曜日の午後、典也は春夏冬堂の店番をしていた。  店主は出かけていて不在だ…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第四話

懸想文(四) 月曜日は朝からしとしとと降っていた雨が、夕方になってひとまず止んだ。  大…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第五話

懸想文(五) 火曜日の朝、春夏冬堂の開店準備をしていた安芸鴈治郎は、店の扉に貼ってあった…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第六話

或る日記大正八年七月六日  岡山の茅子の療養所より電話あり。茅子が興奮して手が付けられな…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第七話

三行半(一) あと数日で七月が終わるというその日、四日ぶりに董子が春夏冬堂に顔を出した。 「ごきげんよう、迫間さん」  白い日傘を畳みながら董子が挨拶をする。  店の外からは電柱に止まっているとおぼしき蝉が、路面電車の警笛にも負けじと賑やかに鳴いている。 「いらっしゃい」  春夏冬堂の留守番として連日帳場台で読書に勤しんでいた典也は、読みかけの本に栞を挟むとすぐに椅子から立ち上がった。普段と変わらない挨拶がいつも通り口から流れ出る。  陽射しが差し込まない店内は案外涼しいもの

「代読屋ははざまを繙く」第八話

三行半(二) 夜になって店じまいをした典也は、近所の食堂で夕飯に蕎麦を食べて銭湯に寄って…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第九話

三行半(三) 典也が手書きの文字から声を聞くことができる異能が自分にあることに気づいたの…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第十話

三行半(四) 結局、桂太郎は堤隆太郎を捕まえることができなかった。  堤は紙片に電話番号…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第十一話

三行半(五) 董子はすいかの外の皮をむき、白い部分を刻んで塩漬けにして「お漬物にしておき…

紫藤市
1年前
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「代読屋ははざまを繙く」第十二話

或る葉書 八月下旬、盆の間は帰省していた典也が東京に戻った。  上野広小路界隈はやはり人…

紫藤市
1年前
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