「代読屋ははざまを繙く」第七話
三行半(一) あと数日で七月が終わるというその日、四日ぶりに董子が春夏冬堂に顔を出した。
「ごきげんよう、迫間さん」
白い日傘を畳みながら董子が挨拶をする。
店の外からは電柱に止まっているとおぼしき蝉が、路面電車の警笛にも負けじと賑やかに鳴いている。
「いらっしゃい」
春夏冬堂の留守番として連日帳場台で読書に勤しんでいた典也は、読みかけの本に栞を挟むとすぐに椅子から立ち上がった。普段と変わらない挨拶がいつも通り口から流れ出る。
陽射しが差し込まない店内は案外涼しいもの