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SF読みの読書記録(第3回)

SF読みの読書記録 第3回(2月1日〜15日)

2月前半(2月1日〜15日)に読んだ本は
 ・SFが4冊 (残り198冊/319日)、短編4作。
 ・SF外が5冊。
 ・読みかけが2作品。
 合計9冊と5作品でした。Twitterでは書いていない感想メインでさっくりと、まとめます。


今回読んだSF 作品(4冊/残198冊)

フィリップ・K・ディック『パーキー・パットの日々』浅倉久志 他訳

 無人機が開発されたソ連と米国の戦争下、前線での兵士たちの交流と不穏な空気を描いた「変種第二号」、二年間の記憶と引き換えに五万クレジットを蹴って得たガラクタが思わぬ価値を引き連れてくる「報酬」、日常が壊れて本人と証明するのが難しくなる「たそがれの朝食」が特に面白かったです。
 前編を通して本物と偽物があいまいになること、日常の中に潜む不穏さを描いた作品が多くて好きでした。

B.B.オールストン『アマリとナイト・ブラザーズ』橋本恵訳 

 Xで見かけ気になった児童文学。現実世界に隠された幻想世界が人類史にも関わっているのを超常局という秘密組織が隠蔽している、という歴史改変SF的な世界観が面白かったです。科学(超常力)と魔術が共存対立するあたりは鎌池和馬『とあるシリーズ』などを彷彿とさせつつ、『ハリーポッター』さながらに才能を開花させるアマリは王道のようで少し外した主人公像です。偏見や差別を受けても行方不明の兄を見つけるために奔走するあたりにレベッカ・ヤロス『フォース・ウィング』の主人公と同じ健気さを感じたりしました。後半にはあのファンタジーと同じような驚きの仕掛けがあり、予想外の敵にも想像力を馳せる優しさと強さを持ったアマリを応援したいです。


野崎まど『ファンタジスタドール・イヴ』

 作家らしくない、と言ったら変なですが普段と文体を変えた作品。幻想的な雰囲気とともに、夢に囚われた男の描かれ方が独特で、一気に読んでしまいました。最後の年表とかモキュメンタリー風でいいですよね。

SF 以外(アンソロ、ミステリー、評論)

『あえのがたり』(アンソロジー)

 特に好みだった順に三作品紹介します。
小川哲「エデンの東」
 創作論とメタ的な話が好きな人間には大変面白かった作品でした。劇中作が秀作。読了済みの作品(「ユートロニカのこちら側」「ゲームの王国」「君が手にするはずだった黄金について」「四月十一日を千二百回繰り返したと主張する男」)の中でも上位に入る面白さです。
佐藤究「人新世爆発に関する最初の報告」
 環境問題に切り込む部分は『シリコンバレーのドローン海賊 人新世SF傑作選に通じる世界観が良く、短編で終わる惜しいと感じた作品でした。でもまぁ『テスカトリポカ』を買うきっかけになったのでヨシとします。
今村翔吾「夢見の太郎」
 時代ものの中で最も読みやすかったです。読みやすさでいえば一位でした。それによくまとまった作品で、著者の他の作品も読んでみたくなりました。


蘇部健一『六枚のとんかつ』

 理詰めのミステリーとユーモアが大好きなんだな、と自覚した作品です。例えば「桂男爵の舞踏会」はあらゆる可能性を逐一消して読者にフェアであろうとする部分が好印象。まぁ「オナニー連盟」というタイトル以外にもお上品とは言い難い部分もあります。それでも盲点を突かれるミステリー短編として秀作が多い印象でした。
 あとは「六枚のとんかつ」の挿絵が良かったです。(とんかつが食べたくなります。違うか)挿絵では別の作品に二度出る「地図」も絶妙でした。後書きを読むに曰くつきの短編集だったようですが、そうした経緯も含め興味深かったです。

杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』

 何が良かったか書くとネタバレになるので避けますが、『あえのがたり』の感想を読まれた方には、ピンとくるはず。そういうこと、です。

村上靖彦『客観性の落とし穴』

 内容とは直接関係ありませんがデータに安心感を覚える人間心理を深く内省するきっかけになりました。
 著者はデータにNOと言いたいわけではなく、数値化でこぼれ落ちるものにある価値を見出したいのだとだろうと感じます。
 前半は数値化が西洋哲学の中で必要され、客観的だと認められる背景や理由が簡潔にまとめられています。あとは優生主義と生産性の部分は興味深かったです。生産性という要因で差別や偏見が生じるのだなぁ、と。
 いずれにしても数値化が無条件に客観的だと判断する姿勢は改める必要があるのかもしれないという気づきがありました。

飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ』

 こちらは、さっきの新書とは正反対。
 数値化された「学校読書調査」のアンケートを元に分析したものです。ざっと調べた限り、およそ1200万人ほどの小中高生を1万2000人弱のアンケート結果で「若者」と一括りにして良いかどうかは(統計の専門家でないので)ちょっと疑問が残りました。
 ですが「若者が本(文章)を読まないという先入観を大人が持っている!」という提言には大きな意味がある感じます。(Web無料漫画、ゲーム、SNSなど、短文かもしれませんが若者は文章を読む時間は昔より増えていると思います)とはいえ「大人による若者の読者像」の域を出ないのが残念。若者にウケる物語の説得力乏しさもデータ重視で、売り場の書店員や図書館司書、学校司書教諭に聞き取る手法が入らないからかな、と思います。(そこは著者も自覚している様子ですが)「客観性の落とし穴」を感じた瞬間でした。

その他のSF作品(短編)

こちらは短編集の中から読んだ作品を挙げています。(収録作のリンクを貼ると画面が長くなるので省略してます……)

ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」浅倉久志訳(『クローム襲撃』収録)

 クローム襲撃ということでクローム当人を襲撃する話かと思ってました(笑)ボビィは「・・・」ですが、リッキーを想うジャックは素敵でした。《青い灯火の家》のわずかな描写がサイバーパンクで出てくる”そういう場所”の原型に見えて新鮮でした。

静まりかえった廊下と、どこかでチョロチョロ流れている悪趣味きわまるお飾りの滝。それとも、あれはただのホログラムだったのか。

「クローム襲撃」浅倉久志訳(『クローム襲撃』349頁、2017.2、早川書房

 そういう映像作品をたくさん見てきたからか、なんとなく東洋風な内装をこの文章から想像したのですが、どうですか?

レイ・ブラッドベリ「草原」(『万華鏡』収録作 中村融訳)

 「ハッピードリームハウス」のバービーもびっくり!?な<ハッピー・ライフホーム>の子ども部屋。読んでいて人工知能の名付け親ジョン・マッカシーの小説「ロボットと赤ちゃん」(『ロボットアップライジング』収録)や星新一のショートショートを思い出しました。そうした話とは一味違った子育てホームのオチが良かったです。

小川一水「幸せになる箱庭」(大森望編『ゼロ年代日本SFベスト集成<S>』収録)

 後半に明かされるテーマがすごく好きですし、前半よりも後半になるにつれて面白かったです。話は変わりますが、映画『A.I .』のラストで感じた違和感を見事に言語化されていると思います。この箱庭テーマの作品、何か自分でも描いてみたいと感じさせるものがありました。

宝樹「美食三品」立原透耶訳

 Xで情報をキャッチして予約注文した雑誌に掲載された中華SF。(前情報で食ものSFだと知っていたので外せないなと思いました)
 最初はあれ思ったより?と思ったのですが後半になるにつれて面白くなる短編なので最後まで読むことをお勧めします。そして美食とは情報を食うことなのだなと芹沢さんが言っていたことを思い出しました(笑)

読みかけ

泡坂妻夫『生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術』

 消える短編だけ読んだので読みかけです。開いてしまうのがもったいなくてもう一冊注文しました。楽しみです。

佐藤究『テスカトリポカ』

 まだ序盤ですが麻薬、メキシコ!といえばドラマ「ブレーキングバッド」を思い出し、日常がどんどん転じていく様子があのドラマに通じる面白さを感じています。鶏肉食べよ。

実はまだ以下の本も積読継続中(2月中には読み終わりたいです)

阿部暁子『カフネ』(小説現代2024.4)
フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
殊能将之『美濃牛』(電子書籍)

お付き合いいただきありがとうございました。

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