ありふれた祈り
ハヤカワのこの感じは「フィリップ・マーロウ」シリーズを思い出させた。
久々に「ミステリーを読んでる!」という感じで引き込まれて一気に読んでしまった。
フランクの父であるネイサンは牧師。元々は弁護士か何かになりたかったが、戦争がネイサンを変え、神学校に通うようになった。
たて続けに起こる奇怪な事件にも、家族との不和にも、父はただ祈り続ける。
語ることで共有できるものに目を向けがちかもしれないけれど、語られないからこそ共有できるものもある。そういった慎ましさを最後まで描いてくれたことがうれしい。
悲しいことがたくさんおこるけれど、ひと夏の幼い兄弟の冒険譚。景色がとてもいい。
牧師の所作やたたずまいもすごくいい。信仰や宗教にかかわる物語は好きだ。
「ぼくのこと怒ってないの?」
「わたしには怒りと縁を切る覚悟ができているのだよ、フランク。永遠に縁を切る覚悟がね。おまえはどうだ?」
「うん、できるかもしれない」
「ではうちに入ろう。なんだかくたびれた」
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ありふれた祈り。原題は“Ordinary Grace”
ここのところ、Bee Geesの“Ordinary Lives”という曲がずっと頭の中で流れている。
We were ordinary people living ordinary lives.
ビージーズの曲ってなんだか「祈り」って感じがする。
【著書紹介文】
1961年、ミネソタ州の田舎町。13歳のフランクは、牧師の父と芸術家肌の母、音楽の才能がある姉や聡明な弟とともに暮らしていた。ある夏の日、思いがけない悲劇が家族を襲い穏やかだった日々は一転する。悲しみに打ちひしがれるフランクは、平凡な日常の裏に秘められていた事実を知ることになり……エドガー賞をはじめ4大ミステリ賞の最優秀長篇賞を独占し、「ミステリが読みたい!」で第1位に輝いた傑作。解説/北上次郎
(書影と著書紹介文は https://www.hayakawa-online.co.jp から拝借いたしました)