馬に乗った水夫(ジャック・ロンドン、創作と冒険と革命)

書影

(書影はWeb上になかったため撮影しました<早川書房より新版も出ています>)

【内容説明(本書表紙より)】
1916年11月21日夜、生涯最後の傑作、壮麗なる王城“狼城”の炎上とともに衰弱した精神に耐えきれず、20世紀初頭の生んだ天才作家ジャック・ロンドンは一筋の炎が燃え尽きるようにみずからの生命を絶った……。1876年、博学の占星術家と移り気で分裂症的な女性を両親として生まれた彼は、絶望的な貧困の中で苛酷な労働に耐え、その強靭な肉体と精神をもって、わずか15歳でカキ密漁界の無法者たちに君臨する。以後、彼はその生涯を、アラスカ放浪、南太平洋への航海など幾多の放浪と冒険、そして文学と革命の中に極限まで燃焼し尽したのだった。内より湧き上がる行動への渇望のままに峻烈に生きた冒険家であり、社会的不公正に仮借のない批判を浴びせた社会主義者であり、そして『野生の叫び声』『白い牙』などで絶賛を博した20世紀文学の先駆者だったジャック・ロンドン、その波乱の生涯を、著者アーヴィング・ストーンが簡潔な文体で見事に浮き彫りにする不滅の伝記文学!

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前回noteに書いた、ジャック・ロンドンの自伝的小説『マーティン・イーデン』
https://note.com/seishinkoji/n/n1c98d46f9d16
※これはジャック・ロンドン自らが著したもの

に続いて、本書を読んだ。

マーティン・イーデンに酷似しているところもいくつかあったが、結論からいうとそれよりも100倍ぐらい濃厚に思えた。

2章や8章の船出に出るところは快活で豪快で、アーヴィング・ストーンの筆致も非常に弾んでおり、ユーモアと共に思わず笑ったしまうところもいくつかあった。

ジャック・ロンドンはどうやら生涯、原稿だけで100万ドル(これを現在の円に換算すると25億円ぐらいらしい)稼いだらしく、他にも肉体労働やら農場経営やらあったため、はるかにそれを上回ると思われるのだが、売れっ子の作家になった後も含めて(その後の方が頻繁なぐらい)実に20回ぐらい無一文になっているし、自身や親族の家を抵当に入れたりしている。

途中で「父親になって落ち着いて小説を書くんだ!」と結婚、子どもも授かるが、元来の自由、冒険心は定期的に暴走を見せ、性的解放も相まって、文字通り彼を航海(後悔?笑 そんなことないな)へと誘ってゆく。
生涯、2人の妻と3人の娘で、男の子に恵まれないことに始終ショックも受けている。前妻の娘が病気になったときは悲しみ、看病をして「これを機によりを戻すんだ!」と決意するが娘が快方に向かうとそんなことも忘れてまた旅に出る。(こんな人って、いつの時代も、どこにでもいますね)

とにかく書物やら何やかやから徹底的に学べる人だったし、情熱的な人だったので(基本は1日19時間労働というイメージ)船旅をするなら航海術を学ぶし、自身の家(狼城)を建てるなら図面をひくために自分も建築を学ぶし、農場経営をするなら農業も学ぶ。誰もよりも短時間で幅広く習熟してしまう。すごすぎる。こんな人みたことがない。身体的にもタフすぎる。

一方で彼は、よくもわるくも「面倒見がよすぎる」ところもあって、社会主義者であったことから(自由主義者ともいえ、この矛盾は生涯、彼につきまとい苦しめることにもなるのだが)比較的晩年(40歳で自殺?するのだが)は従業員やらを含めて最大500人の生活費を支給していたと書かれている。
パーティーはするし、町へ出ては酒場を何軒もまわりすべて酒代は出してやるは、働き口を探しにやってきた浮浪者たちには仕事と生活を用意するは…その傍らで常軌を逸したカネの使い方と、常軌を逸した執筆スピードで彼は一生かけぬけてゆくのだ。

大量に届いた手紙にもそれぞれ丁寧に返信するし、作家志望の若手から送られてきた原稿にも丁寧に返信するし…我が身をそっちのけにして、やっぱり「やり出したら止まらない」ということになるのだろう。

あまりにもタフすぎて、はいあがりすぎて、後半は何がなんだかわからなくなってきた。ちょっとしんどくもなってきた。こいつは人間か?と思った。ただ、やはり無理がたたりすぎて病を患ってゆく。

最後のシーンで、村上春樹さんが「村上春樹雑文集」でも取り上げられていた「ジャック・ロンドンの入れ歯」の話が出てくる。すばらしいので詳しくは
https://studyenglish.at.webry.info/201304/article_22.html
より転載させていただきます。(ありがとうございます)

『マーティン・イーデン』の感想の時も書いたけれど、彼ははちゃめちゃな一方で「ごく自然に親切」が身についていた人なんだと思う。この両立はとても魅力的だし、稀有なことだと思う。

さて!ようやくこれから、彼の小説を(短篇メインで15ほど)読んでいきます。また感想などnoteすると思います。

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