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「強くなければ、勝てない。速くなければ、勝つ資格がない」。パリ五輪のマラソンは史上最難関のコース。男子は赤崎選手が自己ベストタイムで6位入賞。徹底した坂道対策が奏功

「強くなければ、勝てない。速くなければ、勝つ資格がない」。美しいパリの街はマラソンランナーに訴えているように思えた。パリ五輪のマラソンコースは史上最難関のコースとも言われている。そんな中で、男子マラソンの赤崎暁選手(九電工)が自己ベストタイムで6位入賞を果たした。徹底した坂道対策を積んだ賜物といえるだろう。

現地時間10日午前8時にスタート。気温は19度。3年前に行われた東京五輪は26度だったことを思うと、かなり涼しい中で始まった。

涼しい中でも今大会はタフな戦いとなった。コースは最大高低差156メートル、アップダウンが続き、選手の体力を確実に奪っていく。

レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」に「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」という名台詞がある。

パリのコースはルーブル美術館やベルサイユ宮殿などをめぐり、「五輪史上もっとも美しく、最も過酷なコース」と言われている。

マラソンを走る者たちに微笑みを浮かべながら、「強くなければ、勝てない。速くなければ、勝つ資格がない」と毒舌を吐いているようだ。

その過酷さに、五輪3連覇をめざしたエチオピアのエリウド・キプチョゲ選手は途中で棄権に追い込まれた。美しい街並みに潜む罠に引っかかったともいえる。

一方、赤崎選手は25キロ付近で先頭集団を引っ張っていた。笑顔を浮かべて、走る喜びを満喫しているように思われた。

赤崎選手は約3か月間、坂道対策に力を注いだ。坂道を10キロ走ったり、800メートルを何本も駆け上がったりする姿は、箱根駅伝の「山上がり」に挑む選手のように思えた。

九電工の綾部健二総監督からの練習メニューは厳しかった。ただ、「3カ月間、やめたいほど坂の練習をやらされた。綾部さんのおかげで入賞できた」と感謝の思いでいっぱいだ。

五輪本番よりもきつい場所で練習を積み重ねてきた。それだけに「坂道なんて、なんのその」と言わんばかりのタフさが備わっていた。

28キロ過ぎで先頭を抜け出したのは、エチオピアのタラミト・トラ選手。そのままトップを譲らず金メダルを手にした。

赤崎選手は粘りの走りを続ける。40キロを5番手で通過した後も、メダル圏内の選手を追い続ける。最後は6位でフィニッシュしたが、自己ベストを1分29秒も更新する2時間7分32秒のタイムは立派だ。

「人生で一番楽しいレースでした」と振り返る赤崎選手。過酷なコースにもかかわらず、走り終えた後の表情には充実感が漂っていた。

男子マラソンで日本勢は今回もメダル獲得とはならなかった。しかし、赤崎選手は過去の自分を超えた。それを成し遂げた意味は大きい。

前回大会の大迫傑選手に続く、2大会連続となった日本のマラソン選手の入賞。「史上最高の自分」を生み出した赤崎選手に心から拍手を送りたい。

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