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不安という良薬

 不安、と聞いて良い印象を抱くことは少ないでしょう。満たされた安心の対極にある状態ですから、自ら進んで不安に突入していく人はいないと思います。

 いつの間にか其処にあり、よそよそしさを伴いながら胸を揺らしてくる。不安とはそういうものです。心地よいものとはいえません。

 理由のある不安なら、まだ対処のしようがあります。勉強していないから、試験が不安だ。夜更かししてしまったから、朝起きられるか不安だ。準備不足で、明日のプレゼンが不安だ。原因が分かっていれば、それを解決すればいい。

 でも、解決できない場合は?

 或いは、原因がよく分からない「不安」は?

一体どうしたら良いのでしょうか。

 そもそも「不安」とは、漠然とした恐怖です。不安が強くなると胸がドキドキしたり、汗が出たり、呼吸が苦しい感じがしたりします。

 脳科学的には「ノルアドレナリンの分泌」と「セロトニンの不足」が関係していることが知られています。端的に言うと、

「ノルアドレナリン」は「やる気」です。
「セロトニン」は「安心」です。

 原始時代、猛獣に遭遇したときヒトはどうしたでしょう。戦うか、逃げるか。ノルアドレナリンの作用は「闘争か、逃走か」と表現されることもあるように、自動車のアクセルのようなものです。危険信号を察知して、とにかく何か動かなければならない、というサインなのです。このとき無自覚に(自律神経の働きの結果として)、胸がドキドキしたり、汗が出たり、呼吸の回数が増えたりします。動き出す準備をしているわけです。猛獣に遭遇して何もしなかった(出来なかった)個体は淘汰されていったはずですから、生き残った子孫である私たちには、当然この「ノルアドレナリン」の仕組みが備わっているということになります。

 一方で「セロトニン」には、不安を和らげる作用があります。ノルアドレナリンに対してブレーキをかけるように働くことも知られています。「幸せ」という感覚にも大きく影響するといわれているセロトニンを適切に増やすことで得られる効用はとても大きいものです。

 「セロトニン」の分泌は、①身体の運動、②心の運動(感動)、③日光、④睡眠 によって促されることが知られています。

 特に有用で、すぐ出来て、即効性があるのが身体の運動です。運動を始めると約5分ほどでセロトニン分泌が始まり、およそ20〜30分程でピークに達することが知られています。また、運動によるセロトニン分泌と不安の軽減に関する研究も多数報告されています。

Satoko Ohmatsu, et al. Activation of the serotonergic system by pedaling exercise changes anterior cingulate cortex activity and improves negative emotion. Behav Brain Res. 2014 Aug 15;270:112-7. doi: 10.1016/j.bbr.2014.04.017. Epub 2014 May 6.

 原始時代、猛獣に遭遇したヒトは「不安」を感じ、「闘争か逃走か」選択を迫られました。そうしなければ死んでしまうからです。どちらを選んでも身体を動かすことになります。そうして行動するうちに、セロトニンが分泌されていって、決着がつくころにノルアドレナリンが収まって気持ちも落ち着いていく。もう不安はありません。実に効率的で理にかなった仕組みです。

 この仕組みを理解すると、「不安」との付き合い方が見えてきます。

 なんでもいいから行動してみることです。

 
そうすると不思議なことに、不安がだんだん減っていくことに気付くでしょう。

「不安」とは、原動力です。

 動いて!という身体からの信号です。それは心地よいものではありませんが、「不安」があるからこそ、私たちは積極的に行動していくことができるのです。だから、じっと耐えているだけでは不安はなかなか解消されません。実は「不安」は悪者ではなくて、私たちを助けよう、生かそうとする味方なのです。この信号をチャンスと捉えて、動き始められるかどうかが重要です。不安が大きく育ち過ぎる前に、それに気付いてあげましょう。

 少しの「不安」を日常のスパイスに、能動的な人生を送ってみてはいかがでしょうか。

 


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渡邊惺仁
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