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頭痛と息子【漢方医放浪記】

 三連休の最終日、夕飯時に息子が険しい顔で言いました。

「なんか…ここ…あたまがいたい。」

 頭痛です。眉間に皺を寄せて頭を抑えています。先刻まで元気にゴロゴロしながらテレビを観ていたというのに。

「頭、痛いの?」

「うん…いたい。なんでだろう。」

 診察しようか、と提案して了承を得ます。譬え親子の関係であっても同意なき診療行為は厳禁です。

 髄膜刺激徴候はありません。発熱もありません。されども目は血走り、肩が凝っています。首も凝っています。脈を按ずると、浮・数・緊。これは感冒の初期ではありませんか。早朝から昼寝もせずに夜まで遊び続けた疲れも重なっているのでしょう。

「寝不足だね。あと、カゼをひきはじめてる。」

「うぇぇ…ねぶそく…。かぜ…。」

「治療しようか。でも一番は、あたたかいものを食べて、身体をあたためて、早く寝ることだよ。」

「うう、さむい。わかった。」

太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之。

『傷寒論』太陽病篇・第十八


 これは葛根湯の適応証に相違ありません。肩から首の凝りも相当ありますから、鍼も併用いたしましょう。葛根湯を成人量の半分ほど與え、次いで肩井に円皮鍼を置き、風門・風池を鍉鍼で刺激します。

 15分もすると、息子の表情が和らいできました。曰く、ラクになってきたと。

 40分後には頭痛がすっかり消えたようで、脈の緊張も緩まってきました。さらに追うなら桂枝湯ですが、それより暖かくして眠るほうがいい。薬も鍼も病を治し切る術に成り得るものの、それが最良とは限りません。この場合、寝不足を是として習慣化してしまったら、彼は不調を繰り返し、それはいつか大きな病邪を齎すことでしょう。


 私は彼と一緒に風呂に入り、早々に寝ることにしました。早く寝なさい、なんて説得力のない言葉を発するよりも、自分も寝てしまえばいい。その方が楽ですし、大まかな家事だけ片付けておいたら、残りは深夜か早朝に目覚めた私が済ませてくれるでしょう。もし寝坊したら?そんなこと、してから考えたらいい。寝過ごすようならば、正すべき不調が自身にもあるということです。



 翌朝、息子は笑顔溌溂と登園して行きました。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは貴方の習慣が、望む未来を叶えますように。



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渡邊惺仁
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