「スルー」と「褒める」の効用 【実践心理学/広義のメンヘラを対象とする基本技術編】
長い表題からシンプルな内容を目指します。
不機嫌、八つ当たり、オーバードーズ、リストカット等々。挙げ始めればキリがない「ちょっとアレな言動」に身に覚えはありませんでしょうか。自分のことでも身近な人のことでも構いません。問題行動と称されることを繰り返す人たちがいます。ときにメンヘラと言われる彼ら・彼女らに救いはあるのでしょうか。
問題行動という観点で論ずるならば、これから提案する手法は小児期から思春期以降の親子関係にも応用可能な基本技術と考えます。
まず、不機嫌・八つ当たりその他の問題行動に関して、多くの場合には無自覚で自制がきかなくなっている事実を前提にする必要があります。もう子どもじゃないんだから自分でなんとかしろよ…という正論は通じません。ちょっと理解できないけどそういう状態なんだという前提に立って、対策を提案いたします。
1. 準備
まず好ましくない言動、好ましい言動を明確にしておきます。
好ましくない言動は簡単に思いつくでしょう。オーバードーズでもリストカットでも、寝坊やイライラや八つ当たり等々、とにかく思いついたらまとめてみます。好ましい言動は分かりにくいかもしれませんが、よくよく考えれば必ずあるはずです。何かを作るとか、人にやさしくするとか、小さなことでも構いません。
2. 「スルー」の方法
好ましくない言動はスルーします。ただし「スルーします」という意思を明確に示すことで「無視」との差別化を図ります。
3. 「褒める」の方法
好ましい言動は褒めます。好ましくない言動がない状態も褒めます。
4. 理論背景と具体例
心理学的には強化や除去、弱化と表現される理論を基にしますが、スルーしていくことで徐々に好ましくない言動が減っていくことが期待されます。
例えばリストカットしているときに大袈裟に構うと「注目された」という事実が報酬になって行動が強化され、それを繰り返しながらエスカレートしていきます。無視するだけでは信頼関係に影響が出ますから、重要なのは例えば「今は冷静じゃないようにみえるから、落ち着いたら話を聴くね」といった声かけをすることです。こうすることで問題行動それ自体は強化されることなく、行動が終わったあとに「よく止められたね」と褒めることで「問題行動がキャンセルされた状態」が強化されます。
イライラしたり感情的になっている相手に対しても、正論で打ち返すよりも「今はお互いに感情的になりそうだから、後で話を聴くね。落ち着いたら教えてほしい。」という具合にふんわりスルーしておいて、相手が落ち着いたらそれを褒めつつ話を再開できるとベストです。
オーバードーズ…の場合には、気づいたときには相手はドロドロで会話になりませんし大抵そのときの記憶は飛んでおりますから、大きめにスルーします。十分に意識のあるうちから慌てて救急車など呼んでしまいますと、それが報酬になって繰り返す可能性がありますから、できる範囲で内服した薬剤の種類や量をチェックします。ヤベーやつが含まれる場合や、意識や呼吸がおかしい場合には病院の受診が必要ですが、ポイントは努めて冷静に振る舞うことです。
何もないときにも、例えば「今日はイライラしてなくて良い感じだね」などと声をかけていくことも有用です。初めのうちは「変な褒め方しやがって気持ち悪い」という感想を抱かれるかもしれませんが、慣れです。
5. 最後に
今回ご紹介させていただいた「スルー」と「褒める」の実践は、自分に余裕がないと上手く出来ません。正直なところ、相当の胆力が必要だからです。
余裕がない場合には、相手との関係を諦めて物理的に距離をとるか、環境を大きく変えて自分に余裕がある状態を作るのが良いかもしれません。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の「スルー」と「褒める」コマンドが有効に働いて、この世界から哀しみが少し減りますように。
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