「武器軟膏」から考える藪医者の恐怖
武器軟膏というものがあります。
ああアレね、と思い至る方は相当の医療マニアとお見受けいたします。
武器軟膏なら昨日塗ったよ!という方がいらっしゃいましたら、騙されている可能性がありますから御注意くださいませ。
武器軟膏は16世紀から17世紀の西欧で流行した画期的な治療法です。怪我をしたときに傷の原因を作った武器の方に薬を塗るという今では考えられないような方法が大真面目に行われていたそうです。
きっとこんな感じだったことでしょう。
この武器軟膏が恐ろしいのは、当時の他の治療法よりも高い効果があったということです。
一体なぜ?
もちろん武器に塗った薬が傷口に効くことはあり得ません。ただ、武器軟膏以外の当時の治療法が、ことごとく病状を悪化させていたという絡繰です。衛生観念が乏しく感染症のなんたるかも分かっていなかった頃、効くはずだと信じられていた「医療」の多くが不衛生で見当違いなものだったのです。
すると、傷口に何もしていない武器軟膏は自然治癒力を邪魔しませんし、適当に水で洗って包帯を巻いておくというのは、創部を清潔に保つことであり、現代に通ずる基本的な処置でありました。
不適切な医療は、却って病状を悪化させる。
それは現代医療も同様です。
不要な抗菌薬はヒトに必要な常在菌を殲滅して病を作り、耐性菌を増やします。無駄な薬は内臓を痛め、過剰な放射線検査は被曝によって遺伝子を傷つけます。誤診に基づいた症状を和らげるだけの治療は、診断の遅れを招きます。
『有病不治、常得中医。』
これは約二千年前の中国で編纂された『漢書・芸文志』の一節です。
「病気になったときに治療しないでおくことは、中程度の技術をもった医者の治療を受けるのと同じことだ」という主旨であり、藪医者にかかると病状が悪化することを意味しています。
現代の医療者も、この言葉を肝に銘じておかねばなりません。直向きに勉強を続け、敬意を忘れずにいきましょう。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。願わくは、貴方の出会う医療者が「中医」を超える良医でありますように。
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