表現のための実践ロイヤル英文法 [書評]③:「第15章 冠詞」
これまで授業資料の記事中でいろいろな教材をご紹介してきましたが、特に丁寧にご説明しておきたい英語学習参考書の書評を個別に記事にしていきます。
「表現のための実践ロイヤル英文法」のご紹介の続き。姉妹書に「徹底例解ロイヤル英文法」もあり、どちらも基本は学術的な英語解説書ですが、マーク・ピーターセン先生が著者に参加している「表現のための実践」のほうがやや実用的で、「徹底例解」のほうがより学術的。一般の英語学習者(平均的な学生というよりも教師や英語専攻の学生など)にオススメなのは「表現のための実践」で、学術英語の一般向け解説書の最高峰と言っても過言ではない名著。ネイティブの視点(いわゆるネイティブ感覚)を垣間見ることができるのも特徴。私も個人的に10年以上読み込んで学校英語と比較する際の参考にしてきましたので、特別な思い入れがあります。
表現のための実践ロイヤル英文法
綿貫陽 (著), マーク・ピーターセン (著)
旺文社
ISBN-10 : 4010312971
ISBN-13 : 978-4010312971
私が特に重視している名詞の重要な構成要素である「冠詞」のご紹介です。以下に原文を引用または要約(多少アレンジしております)して、私からのコメントも入れていきます。著作権を考慮して必要以上の引用は避けておりますので、内容を詳しく知りたい方は原本を直接ご覧ください。
「名詞」章の書評をまだ読んでいない方は、先にこちらをご覧ください。
それでは、冠詞のご紹介を始めます。
ロイヤル英文法に限らず、「日本語には冠詞がない」が英語専門家の決まり文句。まるで、言語としてあるべきモノ(冠詞)が日本語には欠けているかのよう。
川端康成先生の「雪国」と、それをEdward G. Seidensticker先生が英訳した"Snow Country"をぜひ読み比べてみてください。日本語には冠詞がないと言われがちですが、日本語に冠詞がなくても何の問題もないことの何よりの証拠。特に、有名な冒頭の一文の和英での違いは、日本語でできる表現が英語ではできないことの証、と言ったら怒られてしまうでしょうか。
私は「英語には冠詞が必要、日本語には不要」という逆の視点からの見方も学生には教えています。この冠詞の章の書評(解説)を通して、英語の冠詞体系がいかに未完成(例外だらけ)かをお伝えできれば幸いです。「隣の芝生は青い」という表現もあるように、よく知らないものは必要以上によく見えるもの。皆さんが英語を客観的に見ることができるようお手伝いできれば幸いです。
全般的に学校英語とほぼ同じ説明(Forestは冠詞相当語ではなく限定詞という用語を使用)
不定冠詞は原則として可算名詞の単数形につく:「原則として」には要注意。「必ず」との違いは、例外が存在すること。原則が守られずに、何でここに冠詞があるのか/ないのかと思う場面に遭遇することが多いことに皆さんもお気づきのはず。例外が多すぎることが、日本人が英語名詞に苦労する原因の一つ。
「元々1つの言葉からoneと不定冠詞a/anが分岐、元々1つの言葉からthatと定冠詞theが分岐」は英語史の常識(詳しく知りたい方は、慶應大学の堀田隆一先生の「hellog〜英語史ブログ」を検索して読んでみてください)。
不定冠詞がつくのは可算単数形のみ(例外あり)ですが、そうした制限は定冠詞にはありません。この違いは、意外と重要。
「冠詞相当語」については、徹底例解ロイヤルの解説のほうが詳しくて俯瞰的だと思います(こうした一緒に使えない語のリスト自体は定番説明)。ロイヤル2冊とも、限定詞[determiner]という用語を避けているように見えるのはなぜでしょう。こちらのリストに指示名詞とあるのは、指示代名詞?
不定冠詞a/anの用法(Evergreen/Forestとほぼ同じ)
複数形の場合は無冠詞のままで不定を表せますが、不定であることを明示したい時にはsomeをつけることも可能
不定冠詞は、初めて話題に上がる可算名詞を導入(いわゆる「初出」)。では、初めて話題に上がる不可算名詞や複数形に使える「初出」を意味する言葉は?
定冠詞theを「その~」と訳すのは学校英語でも定番ですが、あくまで便宜的。「こそあど」のそと"this/that, the"のtheを同列に扱っていいのか、しっかりと再考すべき問題。
不定冠詞の「1つ(=one)」は基本。
「不定冠詞がすべてoneで置き換えられるわけではない」のはその通りで、分岐したのは別の意味に使うため。置換可能なのは一部のみ。
「ある(=a certain)」「いくらかの(=some)、ちょっとの」は、どちらも不定。
「~につき(=per)」も「1つ(=one)」から。
総称用法(≒any)の任意性は応用
「another」の意味を表す、は定冠詞theとの対比(the second N, the third Nだと順位・順番)。
「冠詞をa/anにするかtheにするかは、あくまでも意識の問題」はネイティブだから言えること。こうした感覚的な説明はネイティブの独壇場ですが、私はネイティブではないので、この大変便利な奥の手は残念ながら使えません。
不定冠詞a/anの用法(続き)
要は、不可算名詞の可算名詞化(垣根越え)
「名詞」章でせっかく固有vs共通の対比を説明しているので、固有名詞の共通名詞化(垣根越え)という説明までして欲しかったところ。
一部(a/an+固有名詞など)は名詞章で説明済み
英語の名詞は、可算でしか使わない名詞、不可算でしか使わない名詞の方が実は少数派。ほとんどの名詞が、不定冠詞a/anをつけるかつけないか等のちょっとした工夫で可算にも不可算にも使えると理解した方が実用的。
定冠詞theの用法(Evergreen/Forestとほぼ同じ)
2度目からつける=既出のthe(定性)
状況・文脈のthe(定性)
唯一無二(≒固有名詞)のthe(定性)
修飾語(最上級など)で特定のthe(定性)
〈one of the+形容詞の最上級〉は、意味の説明はありがたいものの、なぜこういう特殊な表現になるのかの説明がないのが残念。ポイントは、最上級名詞が単数(the+単数型)なのか複数なのか(the+複数型)。ここまで整理すれば、あとは各自で判断できるはず。
拡大用法や慣用表現(この2つを別枠扱い)も学校英語とほぼ同じ(総称やthe+形容詞、身体の一部、「~単位で」)。項目を少し追加。
抽象名詞的用法とあるのは、冠詞の問題というよりレトリック(比喩)。
Evergree/Forestにはあった「無冠詞の用法」がない
これは不可算名詞で説明済みということかもしれませんが、説明がないのは残念。
「177 冠詞の位置」は原本をご覧ください。
「178 無冠詞と冠詞の省略」は、英文法(英語名詞)の大問題。これがあるから我々のようは非ネイティブが混乱すると言っても過言ではありません。以下、詳しく見ていきます。
まず、「178A 官職・身分などを表す名詞」(簡単に言うと「肩書き・称号」問題)。Mr.やMrs.が無冠詞なのは、我々非ネイティブにも「〜氏・〜さん」等で当たり前に理解可能(英語でも、独立した名詞として使うことはまずありません)。以下、Forest書評での解説を再掲示。
呼びかけ/家族関係・称号や官職:Mr.やMrs.などの肩書き・称号は無冠詞が原則ですが、可算名詞としても使われる単語群が存在するので注意が必要
『HH95 「冠詞の省略」は絶対的か?』も、要はこの「肩書き・称号(特殊な名詞)vs(人を表す)可算名詞」問題。日本語では発生しない、英語特有の問題。
「178B 建造物や場所を表す名詞」と「178C 〈by+交通・通信の手段を表す名詞〉」は、いずれも前置詞句内の冠詞省略で、英語では普通に見られる現象(文法的に受け入れやすいかどうかは別)。前置詞句には要注意。
「178D 食事を表す名詞」は、普通に不可算名詞で説明可能。
「178E 特殊な構文や慣用句で」の一部は前置詞句内の冠詞省略で説明可能。
「178F 冠詞の省略」は、科学英語の世界でも論文タイトルで普通に見られる現象(文法的に受け入れやすいかどうかは別)。タイトル・見出しには要注意で、冠詞省略が当たり前。以下、Forest書評での解説を再掲示。
新聞の見出しで無冠詞になる場合:新聞以外でもタイトル・見出し全般に見られる現象(字数制限があるのは理解できますが、そのためなら文法を無視してもいい?)
今回の冠詞の書評は以上です。いかがでしたか?面白いと思った方は、コメントしていただけると、今後の励みになります。
❶マーク・ピーターセン先生の「日本人の英語」三部作は改めてご紹介するまでもない有名な英語解説書で、英語好きなら読んでおくべき名著。有名な本ですし、気軽に読めて参考になる点も多いので、ご一読を強くお勧めします。
❷学校英語における英文法参考書の最高峰と言っても過言ではない名著「総合英語Evergreen/Forest」。学校英語の復習にはこれがベスト。実践ロイヤルと読み比べて、違いをチェックするのも面白いと思います。
こちらは、総合英語Evergreen/Forest「名詞」と「冠詞」の書評
❸英語史について詳しく知りたい方は、慶應大学の堀田隆一先生の『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』を是非ご一読ください。私も何度も読み返して参考にさせていただいております。「hellog〜英語史ブログ」のほうは、Webで
検索してください。
ご参考までに、「雪国」解説記事もよろしければご覧ください(英語には冠詞が必要、日本語には不要)。
以下をクリックして関連記事もご覧ください。学校英語では説明が足りない点を補ってもらうための教材です。
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