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なぜ働いていると本が読めなくなるのか(三宅香帆)

なぜこの本

読書のペースが落ちています。本を手に取って買うスピードは衰えていない(むしろ加速している)のですが、読むスピードが追い付いていません。気になる本を抱え、書店のお会計に並びながら「これ、いつ読むんだろう…」と、諦めとも呆れとも取れる内省をしていた、まさにその時、目に飛び込んできたのが「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。タイトルを確認するが速いか、迷わず手に取り、抱えていた会計待ちの本たちに加えました。
ところで、これ、いつ読むんだろう?

どんな本

本書は、なぜ働いていると本が読めなくなるのか?というWhyに答えるため、労働と読書の視点で時代時代の原典に当たりながらその反比例関係の根源を辿っていきます。明治時代初期から現代に至るまで、時代時代の職業や年齢、思想などによる複層的な分析を加えている点が素晴らしいです。
帯にも書かれている「スマホばかり見て読書が進まない」という切り口は、映画化もされた「花束みたいな恋をした」の主人公カップルの対比でも分析対象になっています。

スマホゲームに時間を使ってしまう麦(菅田将暉)と文芸書を読み漁る絹(有村架純)の主人公カップル間の労働観と読書感の相違から、読書は多義の概念であることが示されます。
そもそも読書とはなんなのか?
勉強、趣味、余暇、娯楽、生き方あるいは仕事…読書には人や本、その時代ごとの目的があるものですが、それが人によって異なることが読書の論点を分かりづらくしていることを認識するところからのスタートです。
日本は識字率の高い国家ですが、そうなった背景には明治時代の読書振興という国策があったことも示されます。いまの学校でも読書感想文などが扱われている背景には明治時代からの読書振興があったのです。その一方で明治時代は文明開化や仕事の企業化に伴って、現代以上に長時間労働であったことも示されます。明治時代の人々は今と違った読書をしていたのか、それとも…?
読書を時間の使い方という観点で他の娯楽や趣味と対比する点も興味深いところ。日本の読書普及に貢献した「円本」という出版社のベンチャーが子どもの頃に見た書斎の光景に繋がっていた点なども見どころです。
タイトルにもなっているWhyはぜひ読み進めて辿り着いていただきたいです。本書の美点は実際に本を読めなくなった人向けにステップごとの回復方法を提示してくれているところにも現れています。最後のステップでは働き方に悩んでいる方向けになりそうなアドバイスもあります。真面目に働いていて心身持ち崩しそうな方にこそ届いて欲しい一章ですが…

誰に、どんな時におすすめ

冒頭の杞憂もそんな不安も杞憂に終わり、あっという間に読了してしまったこの本。私のように本を読まなくなった、読むのが遅くなったという方にまずはおすすめします。全員が頷けるとは限りませんが、本を読むスピードの衰えた読書愛好家には響く部分が大きかったです。
また、仕事ばかりで一日の時間を使い切ってしまうという悩みを持つ方にもおすすめです。働く限りこの悩みは尽きることがないでしょう。たまにSNSで「この人、普段働いているはずなのに、なんでこんなに(仕事じゃない)投稿が多くできるの?」という方を見かけることがありますが、その秘密の一部を見ることが出来るかもしれません。
そして最後に、この一年を終えて思い出や記憶が仕事ばかりとなった方。そんな方にこそパパッと読んでいただきたい一冊です。きっと後悔はしないでしょう。

今年はブックログこと「勝手に書評」をnote化して始まった一年でした。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
今年振り返って読了できた本は数えられる範囲で23冊。
明確な目標があったわけではないのですが、もっと、たくさんの本と出会いたかった、というのが今、この瞬間の正直な思いです。
この思いを持って2025年、たくさんの読書ができることを願っています。

新年も良い本と出会えますことを。
そして皆様の新年が良きものとなりますことを願っております。


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