心の距離(ジェーン・オースティン『高慢と偏見』)
人と人の心が離れていることを表す表現はいろいろある。
「心の壁」や「心の扉」といった物理的なものだったり、冷たさなど温度だったり、それこそ距離だったり。「彼までラブkm」なんてマンガもあった。以前似たようなことをロシア語のポップスについても書いた。
冒頭の引用では、英文学最高峰のひとつと目されるのこの小説の主人公エリザベスとダーシー氏の二人は、今二人が席についている机の幅と同じくらい遠くに離れている、と言っている。
当たり前と言えば当たり前だ。だって2人の間に机があるんだもの。
しかし、どれほど物理的な距離が離れていても、北海道と沖縄で遠距離恋愛をしていても、心の距離をまったく感じないということはありうるし、その逆も然りだ。
心の距離と物理的な距離は一致しないのが普通だ。
にもかかわらず、この引用では、机の幅と同じくらい2人は離れている、と言いながら、同時に2人の心が遠く離れていることを表現しているのである。見事な1文だ。
同じ部屋にいて、その気になれば、少し勇気を出しさえすれぱ話しかけることのできる距離にいながらそれができない。
それが一番遠く離れているということなのだ。