#64 朝と夕方は、宮殿にいます
素敵なタイトルを思いつきました。宮殿というと、やはり真っ先に思いつくのはフランスのヴェルサイユ宮殿。ドイツと宮殿というのはあまり結びつかないかもしれません。しかしここダルムシュタットにも、16世紀から建築の始まった宮殿があり、戦禍を生き抜いて現在にその勇姿を残しています。
なぜ宮殿に大学のマーク?
まずはダルムシュタット宮殿を見てください。こんな建物です。ヴェルサイユのような華やかさはありませんが、街の中心部、旧市庁舎前の広場に面して堂々と建っています。毎朝大学へ行く時に宮殿の中庭を通っていたのですが、なぜかドアに大学のマークがあるのが気になっていました。なぜ宮殿に大学のマーク?
休日に勉強をするのに大学の図書館を使おうと考え、図書館のウェブサイトを開いた時に謎が解けました。なんと、宮殿全体をダルムシュタット工科大学が買い取ってオーナーとなり、その主要な部分を図書館に改装したというのです!宮殿を図書館にするとは、なかなか大胆なアイディアだと思います。
工科大学なので物理、化学、生物、建築、コンピュータサイエンスなどの理系学部・研究科がメインです。しかし文系学部もあり、このたび哲学、歴史学、文献学、政治学の蔵書が宮殿の新図書館に引越してきたというわけです。
9月4日にオープンしたので、まだ1ヶ月も経っておらず、検索システムや閲覧席の設備などの工事が今も続いています。正式名称は ULB Schloss(ULB = Universitäts- und Landesbibliothek:大学州立図書館)Schloss は宮殿なので、その名も「宮殿図書館」です!
外観は3〜4階建に見えますが……
さて、上の写真の建物は何階建てに見えますか?中央部分は3階建て、両端部分が4階建てに見えると答える人が多いのではないかと思います。おそらく宮殿としてはそういう造りだったのだと思います。ダイニングホールなど、高い天井に豪華なシャンデリアが下がっていたに違いありません。
しかし、図書館として使うなら、高すぎる天井は無用で、もっと効率的に空間を使いたいと思うのがドイツ流です。改装される際には、階の途中に後からフロアが作られ、エレベーターやらせん階段が後付けされ、この図書館は地上8階建てとして使われています。内部をご紹介します。
ドイツ人は几帳面!
面白いのは6階部分で、下の写真の奥の部分と、階段手間の部分が階段3段分ずれています。おそらく違う時期に建てられた建物を後からつないだのでしょう。2基あるエレベーターの片方は両方のフロアに止まるのですが、表示は「6階」と「6.1 階」!たった3段でも、車椅子の方にとっては大きな障害となります。宮殿図書館の全ての部分に階段を昇降せずに行ける造りになっています。
宮殿は複数の建物からなっている
正面のメインの建物を抜けると、ピンクの壁が印象的な時計台があります。鐘はいい音色で鳴り、時間を知らせてくれます。さらにその向こうには四方を建物に囲まれた中庭があり、そこにいるととても「守られた空気」を感じます。ぜひパノラマ写真をクリックして拡大してご覧ください。
さらに、文化財としての価値も高く、大学図書館としてオープンした後も、各所で補修工事が続いています。特に戦時中に被害を受けた外壁の彫刻や装飾部分は、職人さんが細かい作業で復元にあたっています。
朝と夕方は、宮殿にいます
宮殿図書館の開館を知って何気なく入った時に、特別な感覚を得ました。実は僕は少しだけ霊感があるのですが、「ここは守られている」という感覚です。
なんでだろう〜と探してみると、見つけました。英語版ウィキペディアに、かつての主の一人である公爵夫人の幽霊を目にした人が複数いたことが記されています。今もどこかの部屋にいて、来館者を見守っているのかもしれません。
その空気感がすっかり気に入ってしまったので、今は毎日朝夕に通っています。大学研究室での勤務時間(コアタイム)の前の朝8時〜9時と、後の17時〜18時に宮殿図書館にいます。ここへ行くのが今の毎日の何よりの楽しみで、気持ちが落ち着く貴重な時間になりました。
上の空撮写真のように、宮殿は多くの建物が組み合わさった複雑な造りをしており、周囲は日本のお城のような掘に囲まれています。敷地内には Schlossgarten(宮殿ビアガーデン)や宮殿博物館もあるので、少しずつ詳しくなりたいと思います。何か面白いものを見つけたら、また note 記事でご紹介します。
明日も、朝と夕方は宮殿にいます〜
今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️
(2023年10月1日)