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チチ離れを始めた長男との正月山行 奥日光太郎山④

学習院大学山岳部 昭和30年卒 石川貞昭

 この小太郎山の山頂で、太郎山山頂を極めて下山の途につく、ピッケル、アイゼン、オーバーズボンに身を固めた4人の登山者に出会った。

 その中の1人が、「石川さんですね?」と言う。 私はタオルの鉢巻きを外して、頭を下げ、「どちらでお会いしましたかしら?」と尋ねると、「毎月、山と渓谷で写真を見ているので、すぐにわかりました」と言われる。

 「あなた方のステップがあったので、今日は大変楽な登山ができました」とお礼を述べる。 彼らは「この先、太郎山へのナイフエッジは、アイゼンがないと子供さん達にはちょっと危ないですよ」と忠告してくださる。

 しばしの立ち話をして別れたが、痛烈な寒気が身を震わせる。 はげ頭の山頂は風も強いので、ナイフエッジのかげに風よけの避難をする。

 成昭が担ぎ上げてきたラジウスと鍋を取り出して、温かい紅茶を沸かし始める。 私は、女峰山と奥白根山のスケッチを、身震いしながら描き上げて、湯気の立ちのぼる紅茶をすすり、ロールパンをかじる。とにかくうまかった。

 リッジを通過する厳しい風は、枝や枯れ葉に霧氷の華を咲かせていた。 私たちは装備の不十分さを悟り、太郎山山頂への前進は中止して、小太郎山で登った道を引き返すことにした。 2時半である。

 遠くに浅間山、筑波山のシルエットを認めて、雪を蹴立てて下山にかかる。 冬山の夕暮れを心ゆくまで楽しんで、2時間で光徳牧場にたどり着く。 3人でマトンの焼肉を囲み、1日の山の良さを噛み締めて、夜を迎えていた。

(1978年1月の山行)

<メモ>
 太郎山は、奥日光戦場ヶ原の北東に聳える2368メートルの山。 どことなく寂しそうな山容から孤独の山とも言われている。 周辺の山と結ぶルートもない。
 このハガタテ薙コース(光徳から上り4時間、下り2時間半)と太郎沢新薙コース(三本松から上り4時間半、下り3時間半)がある。 後者は急なガレ場が多く、降路向きである。 登山の適期は、残雪の5月から初冬の11月まで。 山頂直下の旧火口がお花畑となる7月から8月にかけて、天上の楽園が楽しめる登山者の少ない静けさの残された山である。

(1978年1月の山行)






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