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現役と過ごしたテントの一夜 北アルプス・奥穂高岳に登る③

学習院大学山岳部 昭和30年卒 石川貞昭

 第3日、奥穂高岳に登るため、朝、涸沢ヒュッテを出る。 巨大なすり鉢の底に残る雪渓。 人々に踏み固められた道を一列になって進む。 次男には滑落防止のため、細引きでアンザイレンをしておく。

 鋭い三角錐の涸沢槍の下に、岩尾根としてルートになっているザイテングラートの道をたどる。 岩肌にペンキで「〇」「×」のマークがあり、子供にとっては、この判別を自分でやりながら行けるのが楽しみのようだ。

 家内は長男を、私は次男をと、目を離さないようなパーティー編成で岩場に取り付く。 荷物がないせいもあって、順調なペースで高度を稼いでゆける。 結局、3時間で白出乗越にある穂高岳山荘に到着した。

 稜線に立つと滝谷側から吹き上げる風は厳しい。 ガスで着衣がしっとり濡れる。 怪しげな天候に変わっていた。

 奥穂高岳への往復2時間は、次男は無理と判断し、家内と2人で山荘で休憩とする。 絶え間なく到来するガスの中、長男と私は空身で奥穂高岳の山頂に向かう。

 四つん這いに近い登り方を強いられる鎖場や岩稜。 天候は幸に悪化せず、小学生のズック靴でも、ひょいひょい岩を飛び回って3190メートルの山頂の祠の前まで到着した。 2人で万歳を交わした。

 目の前のジャンダルムまでが、視界の範囲である。 前穂高岳や北穂高岳、そして麓の上高地などは望む事はできない日だった。

 再び穂高岳山荘までとって返し、午後2時にみんなで下山の途につく。 イワツバメがひらりひらりとガスの中を飛び交っている。

 穂高岳山荘を出ると直ちに、涸沢が眼下一面に広がっていた。 ガスは稜線の周辺だけらしい。 下山路での眺めは申し分ない。 雪渓が、テントが、涸沢ヒュッテが、全て手に取るようだ。

 今晩は山岳部の現役がテント張ってくれるので、子供たちは「もうみんな来ているかしら」と、これが最大の関心事である。 下りは1時間半で、難なく涸沢ヒュッテに戻ることができた。 しかし待ち人の山岳部の現役たちは未だ来たらずである。

 夕暮れの雪渓に出て、またもや雪遊びで暇つぶしだ。真夏に硬い氷のような雪と戯れることは、子供たちにとって最高の楽しみであるらしい。 手がしびれる位冷たくなってもやめようとしない。 最盛期の涸沢はテント村で花盛りになるが、今はちらほらのさびれ方である。

(1970年8月の山行)

「現役と過ごしたテントの一夜 北アルプス・奥穂高岳に登る②」から

「現役と過ごしたテントの一夜 北アルプス・奥穂高岳に登る④」へ

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